恋する気持ち
「なぁー俺って、そんな魅力ないかな」
「うん全然」
俺、倉木晴人は妹の夢乃に何気なく聞いてみた。いつもの調子で夢乃は答える。
この妹は、いつだってそうだ。まるで俺に関心がない。
六畳一間の部屋に俺と妹は、くつろぎながら会話をする。俺は鏡を見ながら髪の毛をいじり、妹は漫画を読んでいた。
「おまえなぁー少しは俺に関心持てよな」
「えぇー考えただけで寒気がするんですけど…」
今日の妹は、またいちだんと冷たい。
(昔は、お兄ちゃーんと言ってきて可愛いかったのにな)
「なんか今、変なこと考えてた?」
それが今やギャルに憧れる中学三年の女の子になってしまった。
「あぁーお前をみて可愛らしい妹がほしいと考えてた」
「えへへっあたしの事?」
(まぁー俺と会話してくれるだけマシな方だな)
「それにしても早く、お前と別れたい」
「はっ、それはあたしのセリフなんですけど」
親の教育のせいか、この狭い部屋で二人で暮らしている。
うちの家には空き部屋がまだあるのに兄弟二人で仲良くと言って部屋が同じである。
「そろそろ限界だっ…これじゃあ部屋に彼女も呼べないや」
「兄貴に彼女なんていたら、あたしが鼻からジュース飲んであげるよ」
漫画を読みながら手にジュースを持ちストローを口につけ飲んでいる。
器用に漫画を読みつつ俺と会話する所が凄い。
「ほほぉー言ったなっ?」
「なっ何?もしかしているの!?」
関心がなかった夢乃だったが俺に興味を持ったようで妙にそわそわしている。
「はぁはぁーん、分かった。隣の家の、ひかりお姉ちゃんでしょ」
「うっ」
「ざぁーんねん…ひかりお姉ちゃんは彼女にはカウントされません」
何故か勝ち誇った妹が笑っている。
ひかりお姉ちゃんとは、隣の家にする俺の幼なじみの雨宮ひかりであり俺と同じ高校二年生である。妹の夢乃が、ひかりお姉ちゃんというのは良く遊んでもらったからだ。だが今日は夢乃と遊ばず俺と遊ぶ予定である。
「ピンポーン」
家のチャイムが鳴る。
「はいはぁーい」
チャイムは今時には珍しくインターホンはついてない。もちろんカメラなんてついてはいない。
部屋からでて玄関のドアを夢乃は開けた。
「あらっ…ゆめのちゃん久しぶり」
玄関のドアの前には雨宮ひかりが立っていた。
「あっ…ひかりお姉ちゃん!ひさしぶりー何か用なの?」
妹が、ひかりと仲良く話している。その妹の後ろから俺は雨宮に話しかけた。
「よっ!俺がお前っち家にいく予定だったんだが…」
「いいの。久しぶりに、ゆめのちゃんにも会いたかったし…」
なんだかって言って、そういう雨宮は少し照れてるようだった。
(そんな、雨宮が好きなんだけどね)
と思っていると妹の夢乃が口をパクパクさせた。
「えぇっーーーー!!」
「へっへへ」
夢乃の声に雨宮の顔が赤くなる。
「ぜったいダメだよ…これだよ?」
「これこれ、お兄ちゃんを、これ呼ばわりするな」
「えぇーダメダメ…これ、何考えてるかわからないよ。うん、けだものだよ。野獣だよ」
(今度は、けだものときたか!それに野獣って…ひどいぞ妹よ)
「いいの…好きだから」
その雨宮の言葉に俺も雨宮も照れた。
「あぁー鼻からジュースだったよな」
その俺の言葉に夢乃は思いきっり俺のスネを蹴った。
「いっイテェーなにすんだよ」
「ふん…べぇー」
なにがなんだか分からないが妹の夢乃は怒って靴を履き雨宮を通りすぎて行ってしまった。
「ふっふ、仲良いね」
「ふっん、どこがたよ。それより駅近くにある映画館の上映まで、あと何分ある?」
「うんとね…あと一時間はあるよ」
時刻は午後1時。
雨宮は腕時計を見て言った。
「そっか…ちょっと待ってて、もう少しで支度終わるから」
そう言い俺は慌てて部屋へと向かい家の鍵と鞄をとってくる。
「大丈夫だよ、まだ時間あるから」
雨宮は、そう言うが俺にとっては雨宮とのデートである。
家に迎えにきてもらい更には待たす事はできない。
そう思い俺は家の鍵を締め雨宮と映画館へと向かった。
雨宮の服装は、また可愛く白のワンピースだ。
映画館までのデートは楽しくあっという間に映画館についてしまった。今日、俺の親たちは仕事で夜にならなければ帰ってこない。
夜までゆっくりデートができる。
そんな楽しい時間であったが雨宮がふと思い出しかのように俺に言ってきた。
「そういえば、ゆめのちゃんって鍵持ってるの?」
「ははっ…大丈夫だろっ」
そう言ったが少し心配になる。あれでも女の子だ。それに俺の妹にしては可愛い方だ。理想の妹と比べると劣るがしょうがない。
あの夢乃の事だ心配ない。
そう思い二人で映画を観る事にした。今回は俺が好きなアクション系の映画だ。前のデートの時は恋愛もので少し眠くはなかったが初デートだったので緊張した。昔は普通に手を繋いだりしてたが今は別だ。隣にいるだけでもドキドキする。そんな俺であったが頭からモヤモヤがとれない。
隣の座席に座る彼女は真剣に映画を観ていた。
そんな雨宮に俺は小声でトイレといい席を立ちトイレへと向かう。
「ふぅー…なんで妹の顔が浮かぶんだ」
好きな女性と好きなアクション映画であるが真剣に観てられない。
「くそぉー」
(心配だ…)
そう思った頃には俺は雨宮を映画館に置いて家へと向かって走り出した。
「くそぉー」
家に着いた頃には午後2時になっていた。鍵を持っていなかったら家の前にいるはずだ。だが、家の前には妹の姿はない。なら家の中にいるだろうか?
しかし家の鍵は閉まったままであった。とりあえず家の鍵を開け部屋の中も見てみる。だが、どこにも妹の夢乃はいなかった。
「ちくしょーどこ行きやがった?」
まだ映画館にいけば雨宮は映画を観ているはずだ。引き返せば、まだ間に合う。
だが妹の事が心配で、そんな事は俺の脳裏にはなかった。
妹が行きそうな場所を探す。近くのゲーセン、本屋、色々探したがいなかった。
もしかしたら家に帰っているかもしれない。でも、いなければ事件にでも巻き込まれてるかもしれない。そう思った時、妹と同じスウェットを着ている女性が男と歩いていた。
(やばいっ…夢乃が絡まれてるのか?)
「ゆめのぉー!今、兄ちゃんが助けるからな!!」
俺は勇気を振り絞り叫んだ。
声が聞こえたのか男が俺を見て近づいてくる。
(はぁはぁ…)
喧嘩は得意ではない。もしかしたら、やられるかもしれない。
そう思った時、予想外の声がした。妹らしき人物が手を振っている。
それに、この男の顔を俺は知っていた。
男は俺とタメで親友ではないが友達である宮本という男だ。
(なら、あの妹みたいなのは…?)
手を振っていたのは雨宮の親友の佳山茜であった。髪は染めてはないがギャルである。妹が尊敬するギャルであった。
「よっ!雨が好きな晴人君」
「よぉー倉木じゃねぇーか?」
二人が俺を見て話す。
「なになにーどうしたの?もしかして、ひかりに嫌われちゃったの、そんな慌てて?あたしー暇なんだよね…なんでも、ひかり、デートだって言ってたから」
俺は額にも体にも汗をかいていた。俺は佳山の言葉で雨宮の事を思い出す。
(やべっ時間は?)
すでに時刻は午後4時であった。もう映画は終わっている。
「すまん…頼みがある」
俺は佳山に雨宮に電話してもらい妹がいないと伝え、先に一人で帰ってくれと頼んだ。佳山はデートの途中で抜け出したのに呆れていたが妹の為だし、しかたないと言い電話をかけてくれた。俺はすぐにでもこの場を移動したかったのだが宮本も探すのに協力してくれるのか特徴を聞いてくれた。
「っと…佳山みたいなやつだ」
「おう…分かった。見つけたら連絡する」
「頼む」
雨宮にも電話で佳山が伝えてくれた。
俺は宮本と番号を交換し
「見つけたら電話する、ありがとう…」
そう言い二人と別れた。
しばらく探すと雨宮から電話がかかってきた。
「もしもし俺だが……おう…分かった!家だな…すまんデートの途中で抜け出して」
電話の向こうの雨宮は怒ってはいなかった。
安心した。それにどうやら夢乃が家にいるみたいだ。
しかし急いで家に帰ると家には誰もいなかった。
その時、隣の家から声がする。
「晴人!こっち」
急いで隣の家に行く。
そこには雨宮と妹の夢乃がいた。
「良かったぁー」
安堵の表情で言う俺のその言葉に妹がもじもじしながら言った。
「ありがとう…心配してくれて」
どうやら妹は雨宮の家の前で寝ていたようだ。
「まったく心配させやがって」
俺は妹の夢乃の頭の髪に触り、くしゃくしゃと撫でた。
いつもなら怒りそうだが、今日はしおらしい。
「どうした?」
その問いに雨宮がいう。
「ふっふ、お兄ちゃんが好きなんだって。あぁーー、いいなぁー仲良くて…」
その言葉に俺は素直に
「そうだろっ!」
そういい夢乃の頭を撫でて続けたのだった。
読んでいただきありがとうございます。
こちらは、「雨のち晴れ」という短編の続きでもあり、このままでも楽しめるようになっています。
妹の兄への思いを描いた短編です。
もし気に入ってもらえたら、「雨のち晴」れも読んでいただけたら幸いです。
ちなみに小説にでてくる友人は「俺と猫」の主人公達でもあります。
両方とも短編ですので興味がありましたら読んでみてください。