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許されざる者たち

やあ (´・ω・`)

ようこそ、バーボンハウスへ。

このテキーラはサービスだから、まず飲んで落ち着いて欲しい。


うん、「また」なんだ。済まない。

仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。


でも、このタイトルを見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない

「ときめき」みたいなものを感じてくれたと思う。

殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい

そう思って、このお話を投稿したんだ。


じゃあ、注文を聞こうか。

 ゲイルについていくと、森を出たすぐ近くに栗毛色の立派な馬が大きめの馬車に繋がれていた。

本人曰く、ゲイルは三日前からこの森の近くで待機していたそうだった。

昼に神殿から飛んできて森に落ちた俺とリインを見て、そこからずっと探していたらしい。


「最初はリインが神殿に捧げられた後で、騎士団の足跡を追って神殿に行き、

リインを助け出す算段だった。まあ、だいぶ予定が狂ったが」


 革張りの馬車の中に三人で乗り込む。

馬車の中には俺たち三人が向かい合って座れるくらいのスペースと、

様々な荷物が置かれていた。カンテラやロープ、他にも色々なものが木箱に突っ込まれている。

ゲイルは積まれていた荷物から毛布を引っ張り出すと、そっとリインに手渡した。

リインはゲイルに先ほどの言葉の真意を問い詰めたくてうずうずしている様子だ。

あんな言い方をされて気にならない人間などいないだろう。

堅い馬車の床に尻をつけ、胡坐をかきながら俺もゲイルに説明を求めた。

同じく座り込んだリインも強くうなずいた。

それを見たゲイルは、片膝を立てる形で座って俺たちに視線を合わせるように屈むと、

ゆっくりと事情を語りだした。


「リインの母親は、王宮の使用人だった。

俺は元騎士でな、彼女とは知り合いだったんだ。

リインを身籠った後、彼女は王の慈悲で産むことを許された。

彼女は王宮を出て、子どもと一緒に静かに暮らせるものだと思っていた」


 ゲイルの声音が暗くなる。群青色の瞳が壁を通り抜け、過去を映すように遠くを見つめていた。

元から淡々とした口調だったが、それが更に後悔の色で塗りつぶされる。


「彼女はリインを取り上げられた挙句、殺された。毒を盛られていた。

産まれた子供は王の側近が城下街に捨てにいき、いなかったことにされた。

俺は、彼女がおまえを産む前に、約束したんだ。

何かあったら子供を守るという約束だ。

俺は騎士を辞め、子どもを探し続けた。そして五年後、お前を見つけた。

彼女にそっくりな目をしていたから、すぐに分かった」


 というわけだ、とゲイルが話を切った。

リインは突如明かされたゲイルの過去に戸惑いを隠せていなかった。

当たり前だ。近所の親切なおじさん程度の認識だった男が、

実は産みの母の昔からの知り合いで、ずっと自分の近くにいたというのだから。


「なんだよ、俺が何もしなくても、おっさんがリインを助けてたってわけか?」


「いや、そうでもない。俺の計画は賭けに近かった。

状況によってはリインは生きていなかっただろう。神殿の中はどうなっていた?」


「ああ、ちっせえ祠に石の棺桶が立ってるだけだ。

あんな石棺に閉じ込められた日にゃ、数時間もせずに酸欠で窒息死だろうよ」


 俺の言葉を聞き、ゲイルはのそりとその大きな両手を伸ばしてきた。

俺の右手を取り、ごつごつとした手で包むように握ってくる。

困惑する俺に、ゲイルは頭を下げた。


「礼を言おう、若き騎士よ。

おまえの命がけの行動と、国を裏切る覚悟に感謝と敬意を」


「やめてくれ、そういうの柄じゃねえんだ。あと元従士だ」


 ゲイルの生真面目な謝辞に、俺は照れ臭くなって頭を振った。

褒められたり感謝されたりするのはあまり得意ではなかった。

リインが「へえ、テオって結構照れ屋さんなんだね」とからかってくるものだからたまったものではない。

俺は話の流れを変えようと強引にこれからのことに話題を移した。


「と、とにかく。これからどうすんだよ。ずっと騎士団から逃げ回り続けるのか?」


「それではいつか捕まる。テオといったか、おまえとリインは顔が割れている。

ローグシアとて伊達に千年近く大陸を統治しているわけではない。

大陸の四方に建てられた政庁舎を中心とした町には最低でも一個大隊規模の兵が常駐している。

一月と経たずに大陸中を探し終え、俺たちを炙り出すだろう。

あと、当てがないわけではない」


 ゲイルが荷物に手を伸ばし、今度は古びた地図を出してきた。

俺とリインにも見えるように床に広げると、太い指で地図の上をなぞった。


「ここから辺境の街セブに向かい、そこで必要な物資を揃える。

それからファバル平原を横切り、漁村フレキへ行く。

ファバル平原は王都と漁村を往復する隊商の通り道だ。そこに紛れ込もう。

あとは港町ジェリスに船を用意してあるから、それを使って外側の大陸に行く」


 その単語を聞き、俺とリインは口を揃えてゲイルを制止した。

外側の大陸? 文明もなく、未知の魔物が闊歩していると言われる別の大陸に?

二人で抗議するが、ゲイルは俺たちの反論を受けてなお冷静だった。


「どのみち、この王国に逃げ場はない。

テオはともかく、リインは王族の特徴を色濃く受け継ぎすぎている。

白銀の髪に深紅の瞳を持つ者など、この大陸には王族くらいしかいない。

どこかに隠れても見つかるのは時間の問題だ。

ならば、外側の大陸に逃れるほかあるまい」


「まじかよ……」


 だが、ゲイルの言うことも曲げようのない事実だった。

リインを連れて大陸中を死ぬまで逃げ回り続けるのも現実的ではない。

ゲイルはそこでまっすぐに俺を見た。鋭い視線に射抜かれ、俺は何も言えなくなる。


「時に、おまえはなぜリインを助けた?

あと、あの黒い鎧姿は何だ。なぜネヴァンでもないのに空を飛べる」


 ゲイルの疑問ももっともだった。ファレスの姿を説明するのは難しいように思えた。

ゲイルからしてみれば、俺がリインを助けた理由など思いつかないだろう。

普通なら大人しくあそこでリインを生贄に捧げて本営に戻っていたに違いない。

いくらリインの身を憐れんだとしても、そこで助けの手を差し伸べれば、

待っているのは自分の身の破滅だ。

だが、俺はリインを助ける道を選んだ。それはつまり、こういうことだ。


「鎧については、俺もよく分かんねえ。夢に出てきた男の名前を呼んだらああなった。

黒い鎧と剣が出てきて、そこらへんの騎士程度ならぶっとばせるみたいだ。

リインを助けたのは、まあ、あれだ。要するに考えなしの馬鹿なんだよ、俺。

後先考えずに今に至るってやつだ。でも、後悔はしてない」


 そうか、とゲイルは短く返した。


「こんな時代だ。おまえくらい馬鹿なほうが、手を組むにはちょうどいいのかもな。

分かっているとは思うが、俺たちはこれからローグシアを、世界中を相手に立ち回り、

逃げ果せなければならない。いいか、なんとしてでもだ。

絶対に、リインをこんなところで死なせはしない」


 それについては同意見だった。

どのみち戻れる場所などないのだ。であれば、進むしかあるまい。

これから多くの血が流れるだろう。たくさんの苦難が待っているだろう。

ローグシア王国がある限り、俺たちは反逆者として追われ続ける。

時には戦うこともあるだろう。だが、そこに迷いはなかった。

 俺たちが求めたのは、リインの生だった。当たり前の時間だった。

それを世界が許さないのであれば、俺もまた、世界を許す気はなかった。

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