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入団試験

 視界一杯に広がる丸石の城壁に二人して圧倒されながら、

楼門で鎖帷子の上に前掛けという兵士然とした出で立ちの衛兵の荷物検査を受け、王都に足を踏み入れた。

 城下街には煉瓦造りに白い木枠の窓がつけられた家屋が視界一杯に建ち並んでいた。

道ゆく人も、村の人とはだいぶ違った装いをしていた。

外套を羽織った旅人、襟付きの上着を着た商人、ローブやワンピースを着た男女と様々だ。

薄いシャツとズボンに干し草のサンダルという自分の服装が恥ずかしくなる。

最初にこの世界の服装をするときすら戸惑いがあったものの、今ではだいぶ慣れた。

それでも、この周囲との差は辛い。都会に出てきた田舎者と宣伝して歩いているようなものである。

 それとは別に、何よりも目を引いたのはヒューム以外の人種も歩いているという点だ。

二メートル近くある巨人や、背中から翼を生やした者も普通にそこにいた。

ティタヌスとネヴァンだ。


「ここから少し歩けば目抜き通りで、そこからまっすぐ行くとローグシア王城か」


「確かそう言ってたなあ」


 アベルと確認し合いながら歩き出す。

衛兵の話では、王城の中に騎士団の兵舎や政務舎などもあるらしい。

 町の人々はどこか浮足立っているように見えた。

アベルは「今年が楔の花嫁が送り出される年だからかな」と口にした。

楔の花嫁というのは、この国に古くから伝わる風習だ。

百年に一度、王族から選ばれた娘がアビスの神殿に送り出され、そこで一生を捧げるらしい。

楔の花嫁はアビスをこの世につなぎ止め、変わらぬ恵みをもたらす、と言われている。

だが、俺はあまり興味がなかった。

異世界から来たからというのもあるが、あまり信心深い方でもないし、

伝説なども大して信じていなかった。

 この世界には他にも様々な伝説があった。

二人の騎士の伝説であるとか、アビスへの信仰をないがしろにすると黒い雪が降って恵みがなくなるとか、

そういった類のおとぎ話だ。騎士の伝説は寝物語によく聞かされたものだが、

それに心躍らせるには、俺は歳を取りすぎていた。いや、今は十五の少年だが。

 目抜き通りに入ると、途端に出店が姿を現し始めた。

売っているのは主に菓子や飲み物のようだ。

燻製肉の出店から漂う香ばしい匂いを振り払うように歩を進めていくと、広場に出た。

 この辺りまで来ると、歩いている人々の服装も変化していた。

男性はジャケットを羽織ってブーツを履き、

女性はスカートが広がったドレスに羽根つき帽子を目深に被っている。

貴族というものだろう。広場を囲むように建っている家屋も、家というより屋敷に近かった。

広場の奥には大きな橋がかけられており、その向こうに城門が見える。


「なんだ、入団希望か?」


 橋を渡ると、城門の両脇に立っていた衛兵に呼び止められた。

アベルと一緒に事情を話すと、すんなりと中に入れてもらえた。

小僧二人入れたところで大したことはできまい、ということだろうか。

王城には入らずに、隣接する塔へと足を踏み入れる。

こっちがローグシア王宮騎士団の本営だという話だ。

衛兵に連れられて燭台に照らされた薄暗い通路を進んでいくと、中庭がそこにはあった。

 急に陽の光に晒され、目を伏せる。

そこには俺たちと同じように従士志望で来たと思われる若者たちが、

一人の礼服姿の男の前に整列していた。どうやら合格発表の最中らしい。

 少し待っていると、半分近い男たちがとぼとぼとその場を後にし、

残った者は目を輝かせながら一礼すると、中庭の奥の建物に消えていった。

大方、あそこで今後の説明や装備の支給などを行うのだろう。

 長い金髪を後ろで束ね、険しい表情をした礼服の男が

中庭の隅で立っていた俺たちに視線を移し、手招きしてきた。

駆け寄り、男の前で気をつけの姿勢をとる。学生時代にやったな、と懐かしい気分になった。


「ローグシア王宮騎士団、第一歩兵隊隊長のクルトだ。

まずはここまでの道のり、ご苦労であった。

貴様らにはこれから入団の試験を受けてもらう。

読み書きの可否や体力の有無、健康状態の確認などだ」


 意外だった。従士になるにはもっと複雑な試験があるものだと思っていたからだ。

クルトと名乗った男の視線はアベルに行っていた。

蓄えた顎髭を撫でながら、検分するかのようにアベルの顔を見ている。


「あの、なにか……」


「おまえは別室で試験を受けてもらうとしよう。

黒髪のおまえは、少しそこで待っていろ」


 そう言い放つと、クルトはアベルを連れて中庭の奥へと消えて行ってしまった。

何がどうなっているやら、さっぱり分からないが、アベルの無事を祈るほかない。


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