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人の深層意識に初めて入ったんだが

今回はトイレの個室からのスタートです

洋平は初めて他人の深層意識に入りますが、果たしてうまくいくのでしょうか?

では、どうぞ

 今までいろんな世界に行き、届け物をしたり、悩みを聞いたりしてきた。その世界のどんな場所に出るかはギャンブルよろしく予測不可能だったけど、それが一つの楽しみだった。今回の世界は同じ物語の別世界だってんだから面倒の中に楽しみもある。けど、正直、こんな場所に来るとは思わなかった……


「よりにもよってトイレの個室かよ……」


 俺、白石洋平は現在、トイレの個室にいる。ハッキリ言ってまさかトイレの個室に出るとは思わなかった


「まぁ、資料を読むには最適だからいいか」


 ここがどこのトイレかは知らないけど、資料を読むには最適だ。俺は早速神子から渡された資料に目を通す


「転生者の名前は稲葉麻衣(いなばまい)。家族構成は義父、母、義弟、麻衣の四人家族か。まぁ、家族構成はありふれた家族構成だな」


 ありふれた家族構成とは言ったものの父親と弟が義理なところ以外を除けばの話だけど、他所の家庭事情に対し深入りをするほど俺はお人好しじゃない。家族構成はいいとして、次だ


「交友関係は特に親しい人間はいないが、トラブルもこれといってない。まぁ、可もなく不可もなくってところか……ついでに彼氏もいないのか」


 稲葉麻衣の恋愛事情なんて興味は微塵もない。しかし、万が一の為に家族構成や交友関係の他にも備考欄を呼んでおく必要がある


「篠崎の時は家族構成と交友関係しか見なかったけど、ここに来て初めて備考欄を読む羽目になるとは……」


 篠崎の時はイジメ問題だったし、備考欄を読む前に幼馴染に出会ってある程度の話を聞けたからいいとして、今回はそんなに単純なものじゃないと俺は思う。何しろ人一人の命に関わる事かもしれないし


「稲葉麻衣は義理の弟である稲葉秀(いなばしゅう)に絶賛片思い中か……って、備考欄一行だけかよ」


 俺ビックリだよ。資料なんだから備考欄は空白かびっしり書いてあってもいいんじゃないの?それが一行だけとか……他に書く事なかったのか?まぁ、状況は大体理解したからいいけどさ


「とりあえず出るか……」


 資料を読み終えた俺は個室から出る。トイレに長居する趣味はない


「ここ病院だったのか……」


 トイレにいる時は気づかなかったけど、トイレから出た瞬間、すれ違う目の前を歩くナース、鼻につく病院独特の薬品の匂い。それだけで俺はここが病院である事を理解した。病院なのはいいとして、ここは病院内のどこなのかは理解してない


「個室じゃなくて病院の敷地内に放り出された方がまだマシだったよ……」


 敷地内ならまだ何とかなった。しかし、トイレから出た俺はどうしようもない。


「とりあえず稲葉秀の名前を探すか」


 トイレの前で呆然と立ち尽くしていても仕方ないのでとりあえず俺は稲葉秀の名前を探す事にした。ここが病院のどの病棟なのかは置いといて


「とりあえず右に行くか」


 俺はトイレから出て右へ真っ直ぐ進む


「ここって入院棟だったのか……」


 真っ直ぐ進んだ俺は多く病室を見てここが入院棟だという事を認識した。しかし、なぜか入院患者が少ないような気がするのは気のせいか?


「入院患者がどうして少ないのかはおいといて今は稲葉秀だ」


 今は入院患者が少ない理由よりも稲葉秀の名前を探す方が先決だ


「稲葉秀、稲葉秀っと……」


 俺は稲葉秀という名前を探し、ひたすら歩き続ける。途中、ナースともすれ違ったけど、下手に声掛けて何か聞かれたら面倒だからあえて声は掛けず、無視した。しかし、これだけ稲葉秀という名前が見つからないとなると俺もいい加減、疲れてきた


「仕方ない、ナースに聞くか」


 今までは何か聞かれるのが嫌でナースに聞く事を拒んできたけど、闇雲に歩き続けていたら稲葉秀に会う前に俺がバテてしまう


「あの、すみません」

「はい?何でしょうか?」

「稲葉秀さんの病室はどこでしょうか?」


 俺は運よく目の前を通りかかったナースに声を掛け、稲葉秀の病室の場所を聞く。頼むから稲葉秀の病室あってくれよ……


「それならこのまま真っ直ぐ進んだ突き当りの奥になります」

「わかりました、ありがとうございます」


 俺はナースに一礼し、言われた通りに廊下をまっすぐ進んだ。どうやら右に進んだ俺の選択は間違ってなかったみたいだ。


「ここか……」


 目の前の病室のプレートには『稲葉秀』と書かれていた。俺は四回ノックをし、返事を待った。しかし、誰の返事も返って来なかった。つまり、今は見舞に来ている人間は一人もいないと言う事だ


「し、失礼しまーす……」


 俺は病室のドアを控えめに開け、室内に入る。そこには稲葉秀本人以外は誰もおらず、稲葉秀も眠り続けている状態だった


「意識不明とは聞いていたけど、これは聞いてないって……」


 ベッドに近づき俺が見たのは頭に包帯を巻き、胸に貼られた稲葉秀だった。その傍らには心電図モニターがあった。こりゃマジでシャレにならんて


「今回は今までの世界とは事情が違うらしい……」


 意識不明の重体だってのは聞いていた。しかし、話に聞くのと実際に目の前にするのじゃ大きく違ってくる。主に気の持ちようとか


「シャレにならねーとか言ってる場合じゃないよな……」


 コイツにはさっさと目覚めてもらって稲葉麻衣に戦意を取り戻させるという任務がある。その為にはコイツの深層意識に入る必要があるんだけど……


「俺は人間の深層意識に入る方法なんて知らないぞ……」


 俺は神子から深層意識に入る方法を聞かずにこの世界にやって来た。だから、深層意識に入る方法なんて知るはずがない。小説や漫画だとこういう時って額に手を翳すと深層意識には入れたりするんだけど、試してみるか


「これでダメだったら稲葉麻衣の方を何とかしよう」


 俺はダメ元で眠る稲葉秀の額に手を翳した。そして、俺の意識は遠のいていった。




「ここはどこだ……?」


 気が付けば俺は真っ白な空間の中にいた。ここはどこだ?どうしてこんな真っ白な空間にいるんだ?さっきまで病室にいたはずだ


「君は誰?」

「うわっ!?び、ビックリした」


 いきなり後ろから声を掛けられ、俺は勢いよく振り返った


「もう一度聞くよ。君は誰?」

「俺は白石洋平。神の使いだ。そういう君は稲葉秀だよな?」

「うん、そうだよ」


 振り返った俺の目の前にいたのは病室で眠り続けているはずの稲葉秀だった。確証はないけど、俺は稲葉秀の深層意識に入る事に成功したらしい


「いきなりで悪いけど、君は今、病室のベッドで眠り続けている」

「本当にいきなりだね」


 俺の言葉に苦笑いを浮かべる秀。気持ちはよく解るぞ。俺だって初対面の人間に同じ事を言われたら苦笑いする


「生憎俺は語彙力がない。だから建前なしで言わせてもらうけど、目を覚ましてくれないか?」


 俺は建前なしに目を覚ませと言うけど、それ以前に俺が神の使いだって信じてくれているかすら怪しいところではある


「うん、いいよ。僕もこの空間から抜け出したいと思ってたし、それに、神様の使いに頼まれたら嫌とは言えないしね」

「し、信じるのか?俺が神の使いだって」

「信じるよ。君は悪い人じゃなさそうだし」

「そ、そうか……」


 今までは手放しで信用してくれる人なんていなかったけど、ここに来て初めて俺が神の使いだって手放しで信じてくれる人が現れた。これほど嬉しい事はない


「だけど、いいのかな?」

「何がだ?」

「僕は目を覚ましていいのかな?」


 どういう意味だ?秀が目覚める事によって稲葉麻衣に戦意が戻る。そうすれば万事解決なんだけど、それのどこが悪いというんだ?


「どういう意味だ?君が目覚めれば稲葉麻衣は戦意を取り戻す。そうすれば万事解決じゃないか」


 さっきは目を覚ます事をアッサリ承諾したくせに今度はどこか戸惑いがあるように感じる


「そうなの?」

「ああ、稲葉麻衣の戦意喪失の原因は君が傷つき眠り続けているからだ」

「そっか……姉さん、僕のせいで……」


 秀は戦意喪失の原因が自分だと知るや否や悲しそうな顔をする。どうしたと言うんだ?


「どうしたんだ?姉に対して何か後ろめたい事でもあるのか?」

「うん……」

「俺でよければ相談に乗るぞ?」


 一回転生者の相談に乗ったんだ。今更異世界人の相談に乗る事に対して文句は言わない


「実は僕、姉さんが好きなんだ」

「それは家族としてか?それとも、異性としてか?」


 姉が好き。嫌いや無関心より好きな方がいい。しかし、好きと言っても種類がある。今回の場合は家族としての好きか異性としての好きかだ


「異性として僕は姉さんが好きなんだよ」

「そうか」

「そうかって僕にとっては結構重要な事なんだけど?」


 俺の返事が気に入らなかったのか、不満そうな顔をする秀。しかし、秀からしてみれば義理の姉だ。結婚だってできる。俺からしてみればさっさと思いを伝えればいい。それだけの話なんだけど


「重要だって言われても君達は義理の姉弟だろ?それならさっさと思いを伝えればいい」

「簡単に言わないでよ……僕は姉さんを困らせたくないんだよ」


 確かに告白された方からしてみれば義理とはいえ弟が告白して来たら困ると思うけど、資料を読んで稲葉麻衣が秀を好きな事を知っている俺としては告白しても問題ないと思う


「困らせたくないって言われてもなぁ……君達は両想いなんだから早く告白しろしか俺は言えないんだけど?」

「りょう……おもい……?」

「ああ」

「そ、それって誰と誰が!?」

「君と君の姉さん」

「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?ぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ、僕とね、姉さんが!?」


 わかりやすく驚く秀はとても面白かった


「ああ、君の姉さんも君の事を好きだぞ。異性として」


 俺はトドメと言わんばかりに稲葉麻衣の思いを秀に伝える。


「ほ、本当ですか!?」

「本当だ。神の使いは嘘は吐かない。だからさっさと目覚めろ。俺は君がどうして意識不明の重体になったかは知らないけど、君が目を覚まさない事によって稲葉麻衣が悲しむ」

「は、はい!すぐにでも目を覚まします!」

「そ、そうか……」


 こうして俺は再び意識が遠のいた。そして─────────




「どうやら上手くいったみたいだな」


 目覚めた俺は病室にいた。どうやら稲葉秀の深層意識から戻ってきたみたいだ。


「両想いだって知ってあんだけ喜んでたんだから目覚めないと恨むぞ」


 俺は眠り続ける稲葉秀に悪態をつく。深層意識の世界で両想いだって伝え、ものすごく喜んでいた稲葉秀が目を覚まさなかったら俺の苦労が無駄になる


「こ、ここは……」

「病室だ」

「し、白石さん……?」

「ああ。久しぶりとでも言っておこう」

「お、お久しぶりです……」


 俺が目を覚ましてから少しして稲葉秀が目を覚まし、二~三言葉を交わした。


「目が覚めたか?」

「え、ええ……」

「ナースコールは押してやる。押したら俺は帰る。それでいいか?」

「やっぱりマズイんですか?神の使いがここにいたら」

「受付も通らずに俺はここに来たからな。マズイに決まってるだろ」

「そうですか……もう少しお話していたかったのですが、仕方ないですね」

「そう言うな。稲葉麻衣がどうにもできない状況に陥ったらまた来るさ」

「わかりました」


 俺はナースコールを押し、稲葉秀が目を覚ました事を伝えると神子の部屋に繋がる扉を出現させ、扉を潜った。なんて言うか、今回は最初から最後まで初めての事だらけで新鮮だった。その反面、疲れたけどな







今回はトイレの個室からのスタートでした

洋平は初めて他人の深層意識に入りましたが、うまくいってよかったです。これで同じ物語の別世界でやる事も終わったって感じです


感想等があれば気軽に感想欄へ書いていただけると嬉しいです!

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今回は最後まで読んで頂きありがとうございました!

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