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迷いの森~Dark Side~  作者: 黒猫の住む図書館(夜狐の千年歌)
最終夜、本編非採用エンディング集
4/5

精霊の森 0.05 version

裏話みたいなものです。


 最終話、初期プロット




 湖のほとり、そこで青年と少女の二人は向かい合って座っていました。

 青年は少し言いづらそうに、けれどしっかりと少女の瞳を見つめて告げました。


「僕はミルフィリアの親戚、みたいなんだ」


「え?」


 少女を一度目の衝撃が襲います。

 青年の言葉は、少女には受け入れ難く、理解が追い付きそうにありません。


「実は僕の祖父に当たる人の名前が、ダウラブルーって名前みたい、なんだ」


「え?」


 二度目の衝撃が少女の脳を揺らします。

 頭痛がする程です。


 会いたい、会いたいとは少女も願っていましたが、心の準備もままならない状態でいきなり言われた言葉でもあった為に、少女は混乱してしまいます。

 それでも、青年の言葉は続きます。


「僕も一度会った事があったらしいんだけど、物事がつく前だったみたいで

 祖父は僕らにも知らないし、開けられない南京錠付きの日記を残してたんだ」


 青年の言葉を聞いている途中で既に涙が滲んでしまいます。

 少女の視界は既にぼやけていました。


 青年は自分の手元にあった日記を見せました。

 それは青年の祖父、少女からしたら兄に当たる人間の日記でした。

 少女が南京錠に触れると、それは砂の様に崩れ、簡単に開きました。

 日記には、フィリアが居なくなってからの事が書かれていたのです。

 フィリアへの許し、一時的で深い憎しみや悲しみ、そしてたった一人の家族に対する愛情と後悔を。


 ピシリッ


 何処かで、密かに硝子(ガラス)(ひび)が入った様な音が響きました。

 中身を読んだ少女は声を静かにあげて泣いてしまいました。

 熊のぬいぐるみ(テディベア)が青年の祖父の残した物だと知り、沢山の涙を流しました。

 何度も謝りながら、大好きだよ、と。

 寂しかった、会いたいと言いながら。


「お兄ちゃん……」


 少女は青年の胸に縋り付き、兄の名前を呼び続け、すすり泣きました。


 湖から数匹ずつ、青い蝶が慰める様に少女に群がります。

 そうして、湖から来て少女に触れては帰って行く蝶達。


 夜空に次々と(ひび)が入り、ボロボロと破片が湖に落ちて青空が顔を出していました。


 夜空が完全に青空に変わった頃。


 ふと、全ての青い蝶が離れました。

 青年の腕の中の少女が目覚めたのです。

 青年は少女に声を掛けます。


「おはよう、ミルフィリア」


 青年は変わらず、少女を精霊としてでは無く、人間として認識していました。

 それが、青年の少女に対する印象だからです。

 少女はまるで青年の声は聞こえていないかの様に、ぼんやりと青年を見つめました。





 湖の底、白い街や教会では衝撃が走っていました。

 教会の十字架や、ステンドグラス、女神像、街の白い壁にスタンドライト等が割れたり落ちたりと、文字通りの衝撃に襲われていました。


 青い蝶が教会で眠る一人の女性の元へ、少女の記憶を運びます。


 フィリアの兄に似た青年。

 青年が手渡した古い南京錠付きの分厚い本。

 青年の腕の中ですすり泣く少女。

 欠けていく空。

 連動する様に、地震と共に崩れていく白い街。


 ぼんやりと月の光を落とす湖面は波紋を広げ続けていました。


 そして、白い街や教会は消え、完全に静かになった頃。

 女性は湖面に手を伸ばします。


「おはよう、ミルフィリア」


 女性は青年の声が聞こえていました。

 声に、応えます。


『うん、おはようお兄ちゃん』





 少女は、ふと湖の上にいる青い蝶を見つめました。

 青年も少女の視線の先を追います。

 すると、湖の上に居た数匹の蝶が青い輝きと共に、姿を持ちました。



 青みのかかった白銀の髪は長すぎるのか、湖に届いていました。

 湖の底にまで届いていそうなその髪は湖に、波紋を広げ続けていました。

 同色の瞳は悲しげに少女を見つめ、それでいてどこか鋭い印象を受ける様でした。

 薄い唇が微笑みの形を取っていなければ、冷たい印象も抱いてしまっていた事でしょう。


 華奢な腕や腰が強調される黒いドレスが白い陶器の様な肌が映える様で、ますます生者では持ちえない艶と美しさを纏っていました。


 湖の上に浮いた形で、少女を少しだけ大人にしたような外見の女性がそこに、居ました。

 女性は、少女に泣きそうに微笑みかけていました。



『ごめんなさい、背負わせてしまって

 そろそろ自由になって

 私も、私の役割を果たすわ』



 少女は目を見開き、涙を滲ませました。


 そして――――……



「ありがとう

 それじゃあ、後はお願い」


 少女はこちらをチラリと見て微笑みました。

 やがて少女は青年と共に蝶の鱗粉を残して消えました。







 さて、少女と別れて残った女性はと言うと……


 『私の存在が気になりますか?

 ふふ、それはまた別の話で語られる事でしょう


 さて、本日も迷い人がいらっしゃいましたね


 精霊の森へようこそ


 貴方に湖の加護と蝶の導きがあらんことを願います』


 美しい青空の下、精霊は波紋を広げ続ける湖の上でふわりと浮かび、ドレスの裾を持ち上げてゆるりとお辞儀をします。

 その様が美しく、それでいて幻想的で見た者を魅了するのだとか。






 Fin

ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ミルフィリアの口上エンドも良きですねぇ(*´ω`*) 物語の終わりでありながら、また別の話も読みたくなる引きでした。
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