幕間編その7【救出】
燃え盛る通路を全速力で突っ切り、勢いのまま入り口を蹴破ってみたはいいものの、火の手はすでに部屋全体を覆い尽くしていた。
床も壁も天井も、まさに絶望的。
「長老様ー!」
絶望的だけど、大きな声で呼び掛ける。
蠢く炎は容赦なく屋敷を浸食し視界を遮っていた。
ドアを蹴破って出来た僅かな隙間に立つ。
このままでは、先ほどの青年に申し訳ないし格好つかない。
それに、長老様も助けることが出来ない。なんとかしなければ。
浸食し続ける炎を見つめていると、一ヶ所だけ不自然な形の盛り上がり。
正面の壁際。その直下。人の形?
一瞬、蠢く炎の隙間から肌色が見えた。間違いない。
一気に駆け寄ると、そこには小さな女の子が横たわり、燃えていた。
女の子を浸食する炎を気にせず、燃え盛ったまま、抱きかかえる。
( まさかね)
階下に降りる階段はすでに倒壊。ならば、方法は一つしかない。有象無象に蠢く部屋を浸食し続ける炎の中、あたしは突っ切って蹴破る。
―バキッッ!―
小さな子どもを抱きかかえながら壁を蹴破って脱出。
ここが二階であるのを忘れていた。
外にでた衝撃でまとわりついていた炎も消えたのだろう。
もう熱さは感じないし逆に涼し過ぎる。
放物線を描きながら落下、ギュッと瞳を閉じる。
人を助けたのに、このまま落下して大怪我なんて、馬鹿みたい。
痛みを感じる事もなく意識を放り投げて気絶。痛みを感じないならいいかな? みたいに考えていたけれど、意識もずっとあるし痛みもない。
浮いていた。
ゆっくり目を開くと眼下に見える人だかりに歓声があがる。
あたしを包み込むようなまるくて透明なシャボン玉。
「人間よ、もう大丈夫じゃ」
背中から聞こえたのは鈴のような声。だけれど喋り方もおかしい。
語尾が、『じゃ』だ。
もしかして、この小さな少女が長老様?
少女を担ぎながらゆっくりと降下。地面に着地すると、担ぎ上げていた少女を優しく降ろす。
「長老様、ご無事でしたか?」
「長老様!」
「長老様」
口々に叫ぶネミラの村の住人。
あたしの前に顔を真っ黒にしたススだらけの青年が小走りで駆け付ける。
顔だけじゃなく手足もススだらけで、ところどころ火傷を負っている。
無事に脱出したみたいで、一安心。
青年は長老様の前に歩みよると、あたしに視線をを合わせないように、膝を尽く。
「長老様、ご無事で、何よりです。救出出来なくて申し訳ありません。」
そう言って頭を垂れる。
「ちょっとー」
―続く―