幕間編 その6【炎上する屋敷は既に火の海】
幕間編お待たせしました。
ちょっと長くなってしまいました。
話数を増やすよりもまとめた方がいいかな?と思いました。
爆発音が轟いた後、モウモウと黒い煙りが立ち上り、間を空かずに火の手があがる。
ケイオス団長が、どこかの民家に爆弾を仕掛け、 この村の住人を混乱に陥れ、その混乱に乗じて妖精の涙の探索。 そして奪取。
その際、エルフからの攻撃があった場合、その対処にあたしの出番となる。
ケイオス団長の作戦通り、ネミラの村は突然の爆発に大騒ぎになっている。
ネミラの村は、 小さな村。数件しかない本当に小さな村だから、さも当然のようにほとんどの住人が爆発し炎上した家の周囲に集まり消火活動にあたる。
爆発炎上したのは、村の中にある、比較的大きな木造二階建ての屋敷。
ある者は近くの小川に走り、バケツに水を汲み炎上した家に水を掛ける。そしてまたある者は炎上した家に飛び込み、住人の救助にあたる。
月明かりに照らされた真夜中。爆発に火事、立ち上る煙りが広がって視界が悪くなる。
(胸が痛い)
いくらエルフの涙を盗むためとはいえ、ここまでやるのが怪盗のやる事なのだろうか?
これは、怪盗がやる事じゃなくて……。
この先を考えるよりも体が動いていた。
火の手があがり、炎上する家屋に飛び込む。煙りが充満し、ごうごうと音を立てて燃え盛る炎。身を屈めて煙りを吸わないようにしながら、取り残された住人の救助の為、家内を捜索する。
なんだろう、すごい胸騒ぎ。飛び込んだ人は別として、多分いる。この屋敷の中に。
「長老様ー!」
ちょっ! 長老様だって? 若い青年の声。
ケイオス団長、いきなり長老の家に爆弾を仕掛けて炎上させるなんて、これは当たりを引いたモノじゃない?
長老様を探して呼ぶ声は一階の奥の方。
屋敷の中の構造は入ってすぐ、土間の玄関に続いて大広間。入ってすぐ板張りの床。右手、壁沿いに部屋がいくつか。左手には無し。奥に行くと二階へ上がる階段。
燃え盛る炎の中、壁沿いの部屋は諦める。
長老様を呼ぶ声は階段のすぐ下。取り残された長老様の居場所は、長老様を呼ぶ青年が知っているハズ。
「長老様は二階にいるの?」
早口で大きな声で聞く。
長老様を探して呼びかけていた青年は、全身をこちらに向けて、あたしの問い掛けに驚愕。
燃え盛る炎の中、身に付けている服はボロボロ、頭髪もチリヂリに燃えてしまっている、手足の皮膚も火傷でボロボロ。顔もボロボロになっていて真っ黒。
元がどんな顔だったのかわからないけれど、目だけはあちこちに動きまわっている。
あたしも今、同じような状態だけど、気になんてできる状態じゃない。
。
「はい。長老様は二階の奥です」
青年はすぐに体ごと視線を戻す。
青年の言いたいことがわかった。階段が燃えているのだ。 この燃えている階段を上っても大丈夫なのか?途中で崩れ落ちたりしないだろうか?
―バン! バン! ―
燃え盛る屋敷の外、号砲が鳴り響く。
ケイオス団長が、妖精の涙の奪取に成功したのだろう。 だが、今はそんな場合じゃない。
煙りが広間を覆い尽くし炎が屋敷内を縦横無尽に暴れまわる。熱いし息苦しいし、このままでは屋敷が倒壊。あたしも青年も、そして長老様も共倒れ。
「長老様はあたしがなんとかする。だからあなたはすぐに脱出しなさい」
息苦しさに耐えながら、大声で青年に叫ぶ。階段を睨みつけ、下唇を噛む。
あたしの一張羅、前垂れと尾垂れはすでになくなっている。今は穴の開いたジャケットにボロボロのミニスカート一枚。 すぐ近くに青年がいるのに、パンチラでおしり丸出しなんて気にする状況じゃない。
青年よりあたしの方が体重は軽いはずだから多分、大丈夫。
燃え盛る炎の階段を二段飛ばしで駆け上る。
青年が無事に脱出したかどうか、なんて気にする余裕はない。
途中で崩れそうになった階段をかろうじて駆け上がった時には、階段が音を立ててスローモーションで崩れ去る。
燃え盛る炎は二階までにも到達。通路はすでに火の海。床ま壁も、天井も、炎に浸食されている。
二階の構造は通路を挟んで 左右に部屋がいくつかと突き当たりに一つだけ。
このままでは、屋敷の全焼と倒壊も時間の問題。中で救助を待つ長老様の命すら危ない。
長老様は『二階の奥』ってさっきの青年が言っていたわよね。 ならば、この通路を突っ切るしかない。
でも、なんだろう?すごく違和感。火のまわり方が異常に早い。火事にしたって、普通はこんなに早く燃え広がらないし爆発にしても早過ぎる。
でも、今は考えている暇はない。
通路の突き当たりも燃え盛る炎に遮られ、見え隠れしているけれど、扉が見える。これだけ火のまわりが早ければ、
ブンブンブン――
考えるのをやめる。
時間がない。 となれば、やることは一つ!
■ ■
―バン―