幕間編その4【満月のよるの神秘】
深夜、日付が変わる少し前、あたし達は鬱蒼と繁る木々の合間を抜け出し、丘の上にうつ伏せになり眼下に広がる光景を見やった。
眼下には夜空から煌々と輝く月明かりに照らされた廃墟。中央には朽ち果てた大きめな廃屋、その周辺にも廃屋がいくつもあるが、こんな所に人なんて一人もいないはずだし、エルフの涙なんてあるはずがない。そう思った。
白いシャツに真っ赤な蝶ネクタイ、黒いテンガロンハットに黒マント。
月明かりに照らされてはいるが、うつ伏せ状態なのでマントに覆われている帽子男としか言えない。団長のケイオス。
その隣に、月明かりをスキンヘッドで反射させながらうつ伏せ状態。軽装の革鎧、カーキ色のパンツに腰元にボウガン本体と矢筒。パドレスことパゲレス。
ケイオス団長を挟んで反対側には、真っ赤なスリップ一枚のロージと、ピンクのジャケットに同色のミニスカートに前垂れと尾垂れをつけたあたし。
「ここ、ネミラの村は既に誰も住んでいない廃村だ」
ケイオス団長が話し出す。
「廃村であるが……」
といいかけてその先を濁す。
■ ■
ケイオス団長以外のあたしを含めて三人。既にケイオス団長の声なんて耳に入らない。
ケイオス団長が何を言おうとしたか、気にはなるけれど、それ以上に目の前の光景だ。
廃村であるはずのネミラの村が月明かりを煌々と浴びながら周囲に光りの粒子が集まり包み込む。
「見ての通りだ、このネミラの村は一見廃村であるが満月の夜だけその姿を現す」
あたし達三人。その光景に絶句。神秘的な様相に言葉にならない。
光りの粒子が廃屋だった家々を形作り、その周囲に一人、また一人と人々の形が現れる。
「当然の事ながら、エルフの涙もその夜にしか出現しない。」
団長が言い終えて光の粒子が霧散。ネミラの村に生命の息吹きと人々の活気で満ちあふれる。
あたし達は僅かな時間、放心状態に陥った。
「さて、これからが仕事だ。エルフの涙の探索と確保。エレナ君頼むよ」
団長から期待の声が掛かる。
正直どうしたらいいんだろ?怪盗になってまだ間もないあたしにとって、どうしたらいいのかわからない。
ましてや、盗賊団に属し初の団体行動。それに、もう一つの懸念。昨日の夜、ロージからのアドバイス。
『いい、エレナちゃん。絶対に信じちゃダメだからね』
ロージさんに言われた事を思い出す。
ロージさんのアドバイス。について考える。
(あれ?ロージさんが言ってくれた事ってアドバイス、というよりも警告だ)
あの時、ロージさんがパゲレスに呼ばれて団長の元へ。続きを聞こうとしばらく待つも、帰ってこないので、あたしはロージさんの部屋を退室し、自分の部屋へ、ちょっと考え事をしながら湯浴み。気持ちよくなってしまったので、そのまま、ベッドへ潜り込み眠ってしまった。
気がつくと日が完全に上っていた。団長に呼ばれ、あたし達一行はベネフィークの街を後にしたのだ。