JOR// 全財産をはたいても明日には
ガラス一枚で隔てた漆黒の闇。
こちら側は頭上の魔導灯からの光が優しく室内を照らされ、ピンクで統一された乙女チックな部屋、簡素なテーブルと、フカフカのクッションの上にはピンクの敷布、さらにその上には厚めの毛布と薄めの毛布が折り重なっている。
ベッドに一度座ってみたけれど、硬すぎない弾力と包み込むような柔らかさで、座り心地は抜群だった。
このまま身体を横たえて背中を預けてしまえば、直ぐに夢の世界へ旅立ってしまうところ。
夢の世界へ誘う誘惑に必死で絶えながら、あたしは、着ていたジャケットに履いていた前垂れと尾垂れ、さらにその下のスカートを脱ぎ捨てる。
立ったままショーツに指をかけると、おしりを撫でるように下げる。
スポポーンと脱ぎ捨てると、背中で止めたブラのホックを外して、前屈みになる。
肩紐から腕を通して外すと、大きなお肉を包み込むブラ本体のカップをはずす。
2つの乳房がたゆんたゆんと揺れながら顔をのぞかすと、一糸纏わぬ全裸になる。
二週間ぶりの世界を満喫しながらも疲れていない身体を湯船に浸すと足を思いっきりのばす。
水面からは白い湯気がフワフワと立ち上り、天井へ届く前に見えなくなる。
落ちてくる雫が水面を叩く音なんてそうそう聞こえてくるものではないのだけれど、今までいた場所が場所なだけに、耳が異様に冴え渡り雫が水面を叩く音が聞こえてくる。
水面から僅かに見える白くてほっそりとした足のシルエットがまっすぐ伸ばしても湯船の対面には届かない。
一般家庭のお風呂や安宿のお風呂と比べれば、ホテルの、コース次第ではちょっとした贅沢ができる。
あたしが、今泊まっているのはちょっとお高い高級ホテルのスウィートルームだ。もちろん、ピンクで統一されているからといって、若い男女が温めあって発電する遊ぶためのラブホテルではない。
れっきとしたホテルのスウィートルームだ。
そう、なけなしの全財産をはたいて一泊二日の宿泊だ。
おかげであたしのキューブクリスタルの残高はゼロに等しい。
でも、これも日付が変われば五百万キャロルの報酬が手に入ると考えれば、安いものだ。
このスクルージディスコニアン領の領主、スクルージ氏からの依頼、『アサルトドアの書を盗んできて欲しい』と、依頼を受けたのがつい二週間程まえに遡る。
あたしは、こんな楽な依頼で大金を得られるならば、とスクルージ氏の依頼を二つ返事で引き受けた。
だけれど、このアサルトドアの書、蓋を開けて見れば邪本の類い。
(五百万キャロルもの報酬があるならば、その邪本にはそれだけの価値があるって事じゃない?)
あたしみたいなアウトローな職業を生業とするものにとって、キャロルを稼ぐのは当然一苦労なワケ。 キャロルはいくらあっても困らないから、ちょっとアサルトドアの書を覗いて、その価値を少しでも奪ってやろうと魔がさしてしまった。
(アウトローの職業の悪いクセよね。まったく)
事前に情報屋のサラの情報がなければ、あたしはこうしてゆっくりとホテルで贅沢なんてしている事はなかった。
そう、アサルトドアの書は、『アサルトドアの邪本』というのが正解だ。
湯船に張られたお湯の中では、たゆたうお湯に逆らうかのようにデデーンと浮かぶ大きな乳房二つ。浴室上部の魔導灯の光を受けて浮いている。
両手で乳白色のお湯を掬いあげると、首筋にかける。掬いあげたお湯をかけると、首筋から鎖骨、乳房へと流れ落ちる。
乳白色のお湯は直ぐに湯船へと戻ると同時に、肘で挟まれた二つの乳房が形を元に戻しながら湯船に落ちるけど、直ぐに浮き上り、波紋を作りながら上下する。
普段はおこりうることがないはずの乳房がお風呂の中では、浮き上がりその重量を感じさせなくなる。
お風呂というのは女の子にとってキレイにするという目的もあるけど、それ以上にこの重量からの解放というのがあるのだ。
スクルージ氏からの依頼を受け、アサルトドアの邪本を盗み出すのに体感では僅か2日のはずなんだけど、実際には二週間も経過していたのにはびっくりだ。
どこかで聞いたおとぎ話とまったく同じ、 外に出た時にはこんなに時間が経っているとは夢にも思わなかった。
身体にまとわりつく水滴を垂らしながら湯船からあがる。
大判のバスタオルで身体中の水滴を拭き取ると上質でフワフワなバスローブを羽織る。
外は完全に闇の世界なので、外を一望する事ができる壁一面の窓ガラスには、ピンクの長い髪を腰まで垂らした白いバスローブを羽織ったあたしの姿が写り込む。
まるで、壁一面の巨大な姿見のようだ。
窓ガラスに写り込んでいるのは、あたしだけではなく、ピンクで統一されたベッドにテーブル、ソファーなど、部屋全体が写り込んでいた。
たったの一泊だけなので、本音を言えば(ベッドだけで十分だ) と言、えなくもない。
宿屋でもそうだけど、本当に粗末な宿屋では本当にただ寝るだけ、ベッドがあるだけで他には何もないというのが通例だ。
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