幕間その2 【地獄の入り口】
団長のケイオスの説明によると、エルフの涙と呼ばれるジュエルは宝石の分類。
このジュエルは600000000キャロル以上もの値段で取引が可能になるらしい。
そして売らずに秘められた力を使えば世界を、アースキャニオンを手中に納める事も可能という曰わく付きのジュエル。
このエルフの涙は、死に行く前の処女の娘の涙を何年も何年も垂らし続けてやっと出来上がる、実に時間と手間が掛かる代物だそうだ。
そして、このジュエルは伝説上のエルフ族が作り、エルフの末裔であるネミラの村の住人が厳重に保管している。との事だ。
このネミラの村の住人は厄介な事に魔法を使ってくる。というワケで、魔法には魔法で対抗しよう。という作戦になる。
「決行は日付が変わった今夜。それまでにネミラの村に潜入! 新人のエレナの魔法により、攪乱と応戦をしている間に探索と奪取。以上」
団長の作戦を聞いて驚いた。
あたしは囮。盗みに参加するのではなく、完全な使い捨ての囮という事になる。
もちろん、生きて獲物を奪取して帰還出来れば再度活躍するチャンスがあるし、次は盗みという花形の役目を得られるのかも知れない。
盗賊であるならば一番の醍醐味は盗みだよね。 盗む事が出来ない盗賊なんて、盗賊なんかじゃない。
「エレナ君期待してるよ」
団長の威勢のいいドラム缶を転がしたような声と共に肩を叩かれる。
「魔法でババーンとお願いね」の一言と共にスリップ姿のロージさんはおぼつかない足取りで退室。
「俺達は魔法が使えないんだ。俺達に足りないモノは、チームワークじゃなくて魔法さ」
そう言って、パゲレスさんもボウガンを片手に退室。
あれ? なんだか仲違いしていてチームワークがバラバラな感じもしたし、団長も足りないものは『チームワーク』みたいな事を言っていたはずなのに、足りないのは 『マホウ?』
首を僅かに傾げながら戻す。
唇に人差し指の先端をあてながら考えているとドラム缶を転がしたような声の団長が、出口を指差して、
「エレナ君の部屋は既に用意してある。好きに使うがいい、ロージの部屋の隣になるが207号室だ」
「ありがとうございます」
そう言ってケイオス団長に踵を返し207号室室へ足を向ける。
「(207号室というと、ロージさんは208か206号室になるのかな?)」
部屋を出て、すぐ正面に下りの階段。階段の向こう側に板張りの廊下が左右に伸びる。左側は201から205号室。右側には206から209号室。
先ほどまでいた部屋は通称ゼロ番室と呼ばれこの階の住人の交流場として、儲けられているようだ。
205号室に近づくとお酒とキツい香水の香りが混じって漂う。
「くさい」
一人ごとをこぼしながら、通り過ぎようとして声がかかる。
「エレナちゃん?」
206号室からのようだ。
どうやら206の住人はロージさんの部屋のようだ。
ここで呼ばれて「はい? 」と返事を返した自分、バカだ。
先ほどのロージさんの態度。耳元で囁かれた事が鮮明に蘇る。
206の扉の前に戻ると、再び「お入りなさい」
イヤだ。入りたくない。だって食べられてしまいそうな予感。
食べられるだけならまだいいかも知れない。
一番嫌なのはお酒とどぎつい香水の入り混じったあのにおい。
生理的に受け付けない。でも、ここでノー。とは言えず仕方なく205号室のドアノブにに手をかけて、左に捻り、引き開ける。
地獄だ。予想していた通りに臭い。 表情を変えないようにしながら、問いかける。
「なんでしょうか? 」
用件を聞いて、くだらない用なら理由をでっち上げて、立ち去ろう。
「お入りなさい。」
うん、『お入りなさいだけでは用件がわからない。』
でも、ロージさんの言う二度目のお入りなさいには二つの意味がある。
1つ目はただ純粋に入室するだけ。
そしてもう1つは近くに寄りなさいだ。