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最低な父親



 悪かった顔色が、さらに、悪くなったように見えるのは気のせいなのかな? スクルージ氏は閉じた本を静かに、そして丁寧に執務机に置くと顔を上げる。


「付き合わせてしまって本当に申し訳ない」


 あたしは、左手を腰に当てて眉根を寄せ、目を細め睨みつける。


  先ほどの謝罪の呟きこのアサルトドアの邪本にいざなった謝罪のようだけれど、何故私をこの邪本に誘ったのか意味がわからないし、迷惑。


 スクールジ氏の胸倉を掴み、小一時間程問い詰めてやりたい衝動に駆られるけれど、


 多分、あたしではこのスクールジ氏には勝てる気がしない。 胸倉を掴んでも、スクールジ氏にとっては子供が胸倉を掴んでぶら下がっている程度になってしまうのであろう。



(この邪本から脱出したら迷惑料をぼったくっても罰は当たらないと思う)


 しかし、それ以前にこの邪本からの脱出が最優先。 スクルージ氏は立ち上がると、既にいつでも戦闘が可能とばかりに長大な槍を構える。


 持ち手の柄の部分から刀身の穂先まで、欠けも汚れも傷も曇りすらない吸い込まれるような深い黒。


 このスクルージ氏は強い。貴族の中でも群を抜いている。


 持っている槍の強さだけではなく、決して槍には負けてはいない。



スクルージ氏に相対したまま、右手を尾垂れの中に入れる。


 銀色に輝く、ミスリル銀糸で編まれたムチを取り出す。


「あたしを巻き込んだ罪、高くつくわよ!」


 鞭の握り手を力強く握り締めると、邪本に誘われた怒りもこめて振り上げる。




滞空させた鞭を勢いよく深紅の絨毯に叩きつけると、一本の爪痕が深紅の絨毯に刻まれる。


  いつも思うんだけどムチを持つと気持ちが高ぶってくる。 こう体の中心からゾクゾクするような熱さ、女の本能というものかしら?


 スクールジ氏に対するエンサの感情と溜飲が僅かに薄まる。



「フッ、ムチ使いとはな」

 馬鹿にされてるのか誉め言葉なのかわからないのだけど、僅かに飲み込んだ溜飲が戻ってくる。



 お互いに戦闘準備はできている。



 あとは一歩を踏み出すだけだ。


 執筆室は、怪しい気配を漂わせながらも、静寂の帳に覆われている。


 耳の奥では耳音が響く。


 あたしは、銀色の鞭を滞空させながら正面入り口へと一歩を踏み出す。

 目を細めながら、横目で伺う。

 あたしの真横には漆黒の槍を構えるスクルージ氏が一歩を踏み出している。



 

出入り口のドアがグニャリと歪むと同時にほんの僅かな隙間をつくり、入り口側に動く。


 見た目はただの扉であるのだけれど、この扉には邪悪な意思がドアに憑依している。


 全身の鳥肌が立つようなザワザワとした禍々しい空気を漂わせている感じは、まさにアサルトドアの呪いと言っても過言ではない。 この出入り口に憑依した邪悪な意志、アサルトドアの意志とでも言うのかしら? それ自体はさほど強くもないし攻撃もしてこない。



 だけど、アサルトドアは、自らは攻撃してこない代わりにどこからともなくモンスターを召喚してくる。


 アサルトドアが召喚するモンスターは、毎回低レベルなモンスターばかり。


 ちょっと腕に自信があるならば楽に始末できるのだけれど、モンスターとの戦闘経験が少ない者であったならば苦労してしまうのであろう。


 音もない執務室。静寂だけれど、微かに響く耳音。




 黒くて長い毛並みの二本の牙が特徴の【ガーベルベア】


であったり、羽根を羽ばたかせて飛び回る緑色の【キメラ】呼ばれる空飛ぶ爬虫類であったり、全身を長い体毛で覆われた真っ赤な鼻の爪が異様に長い、【デビルモンキー】であったり……。



 アサルトドアとの戦いはスピードが命。アサルトドアが、死の祝福を述べる前に倒さなければならない。


 張り詰めていた空気がさらに張り詰める。




 眼前に召還されたのは、全身がゴツゴツした灰色の石で構成された腕の長いゴーレムが3体。


 ゴーレムが相手ではちょっと焦るかもしれないけれど、問題はない。


 滞空させていた鞭を斜めに振り下ろすと空気を裂く音とともに破裂音を轟かせ、初撃を与える。

> 三のゴーレムにミスリル銀糸で編み込まれた鞭が、体を削るように傷を付ける。


 さらに、振り切る前に垂直に伸ばした腕を曲げると、僅かに戻った編み込まれた本体がたわみ、さらに水平に振り抜いて横一閃。空気を裂く音と破裂音を轟かせる。


 振り切った鞭を戻すようにさらに振り抜いての横一閃。


 この、一回の攻撃で三連撃が成立。


 出現したゴーレムの体躯に深い溝を刻んで、まとめて大ダメージ。



 さらに連続で振れば瞬殺できるけれど、その前にスクルージ氏が槍を大きく回転させながら突進。穂先に遠心力を加えながらの連続攻撃。


 一体目をそのまま串刺し。引き抜いた槍を頭上で音を鳴らしながら回転させると、二体目も同じく串刺しにして、胴体にぽっかり穴を空ける。

>

>そして、向かい来る三体目にはゴォォっと空気を裂く音をあげながら槍を投げつける。


 この一連の動きが、流れるような華麗な動きだった。


 ドアの隙間から召還されたモンスターを瞬殺。


息絶えたゴーレムの死骸が、その場に崩れ落ちたのを確認したあたしはこの一瞬に狙いを定める。

 反対側の片手掌を広げながら巨大な大火球を生成すると、それを投げつけるように放つ。


 アサルトドアに巨大な火球がぶつかり爆発。


 最初のアサルトドアを要領よく葬る。


「ムチに大火球魔法、それだけあれば一人ででもアサルトドアからの脱出も簡単だな」

>

> 最初のアサルトドアを撃破し、崩れ落ちたゴーレムを尻目に出入り口の扉に触れると、開きかけた扉を手前に引き開ける。


  扉を開いたその先は深紅のカーテンに締め切られたあたし達がいた執務室。





 つまりループ。正解の出入り口を見つけるまで このループが続く。



ギギー、バタン!――





  執務室に足を踏み入れると同時に 背後の扉が勢い良く閉まる。


  まるであたし達が迷宮に迷い込んだのをあざ笑うかのごとく。



そう、これがアサルトドアの秘密の一つ。


「本を開いてこの呪いに突き合わせてしまって本当に悪いと思っている。君にこの邪本を盗んでもらったのにはワケがある」


 執務室の中央。執務机の正面。

> スクルージ氏と共に執務室を見回す。

>  執筆室の入り口には先ほど崩れ落ちたゴーレムの死骸は存在しない。

 さらに、絨毯に残した爪痕までもなくなっている。


スクルージ氏は私と相対して話し出す。



「あの日、娘が開いたアサルトドアの本は娘の部屋に置いてあった」


スクールジ氏は、私を

見つめながら目をキョロキョロと周囲を確認しながら独白する。


 スクルージ氏も気づいていると言うことは気のせいではない。


 あたしも、首を左右に動かしながら辺りを見回したのち、スクルージ氏の話しに耳を傾ける。



「娘がを何故アサルトドアの書をねだったのかはわからないし、何故本を開いたのかはわからない」


スクールジ氏の話しを聴く限り、それ以前の問題じゃないのかな?


>スクールジ氏は、何度も目をしばたたかせては目頭を抑える。


「私は、自分がしでかしてしまった事が怖くなってしまった。

 本来であれば、私が娘の部屋で本を開いて助けに行くべきだったのだが、しばらく様子を見て、娘が帰ってくる事を期待したのだ」


一人の親であるならば助けに行くべきじゃないのかしら?


スクールジ氏の話しを聴きながらも、鞭を宙空で滞空させる。


「だが、娘は数日しても帰ってこなかったのだ」



「来る日も来る日も期待と不安に押しつぶされながら、その事実を忘れようと私はこの本を王立美術館に寄贈した」



 このスクールジ氏、頭がおかしいんじゃないの?普通なら、自分の娘を助けに行くべきなのに、それを忘れようとするなんて、どうかしてる



滞空させていた鞭を床に叩きつける。



なんだかこのスクールジ氏にイライラしてきた。





―パラリ―

 執務机の真後ろのカーテンが不自然にたなびく。

 アサルトドアが外へと誘っているのだ。



 あたしはスクールジ氏の話しに、イライラしながらも、無意識的に鞭をしならせ、何度も床に叩きつける。


真っ赤な絨毯を裂いて、何本もの爪痕を残す。


「もちろん、こんな危険な本が公開されるハズもなく、お蔵いりになったのは言うまでもない」


つまりこのスクルージ氏は自分で王立美術館に寄贈したアサルトドアの邪本をあたしに盗ませたというワケ。



 邪本を盗ませる理由はどうあれ、今すぐこのスクールジ氏をぶちのめしても、多分許されると思う。


 だけど、ここでぶちのめしても意味はない。全ては脱出してから……。

 脱出するまでは溜飲を飲み込んでおく事にする。


 執務机の上邪本を一瞥して、執務机の真後ろのカーテンに目を向ける。


「この邪本には沢山の名前が刻まれているのは知ってるね?」


  スクルージ氏の問い掛けに、もちろんとばかりに応える。


 美術館で興味本位で開いた時、ただ名前だけがびっしりと、最初の1ページ目から最後まで。


こんな名前だけが書かれた本になんの意味があるのか? 


 そして、スクールジ氏にとってどんな価値があるのか? 



疑問に思ってしまったのだけれど。

―ピシャーン―



3つ目のアサルトドアの秘密。

 そう、【この邪本に取り込まれ生還できなかった者はアサルトドアの書に名前が刻まれる】



 もし、今頃王立美術館から盗みだそうとして取り込まれたあたしが、生還する事ができなければ、あたしの名前も今頃刻まれていたハズ。


静寂の帳に覆われた執筆室、スクルージ氏は続ける。


「ロゼッタの名前はまだ刻まれていなかった。」


  父親であるスクルージ氏は娘にせがまれ、この邪本を娘にプレゼントした。


 なんて愚かで、バカな親なんだろう?

 でも、名前が刻まれていないという事はロゼッタちゃんはまだ生きていて、この本の中をさまよっているという事だ。











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