アサルトドアの秘密
美術館での地下室でもそうだった。
静寂の帳に覆われると同時に耳に響く耳音と、全身を撫でるような怖気。
執務室内が静寂の帳に覆われ、空気がピシッと張り詰める。
静寂であるのに、耳の奥に響くキーンという耳音。
ざわざわとした空気、ゾワゾワとした感触が全身を撫でる。
あたしは驚愕に目を見開いてスクルージ氏を睨みつけ、すっと細める。
そんな視線もものともせず、開いた本を親指でページを流すようにペラペラとページが進み、途中で指が止まる。
スクルージ氏は、顔を上げる事なく見開いた本を見つめながら続ける。
「私は娘にこの本をプレゼントしたのだ」
アサルトドアの本を娘に? あたしは無言のまま、スクルージ氏の話しの続きを促す。
スクルージ氏は本から目を離さずに語りだす。 張り詰めた空気の中、静寂の中で響く耳音とスクルージ氏の声が交互に聞こえる。
「ロゼッタなら大丈夫だろう。そう思っていた」
―― コンコン!
スクルージ氏が話している途中。
あたしの真後ろ、静寂の帳を破るように出入り口からノックの音。ブラフだ。
「娘は強かった。12歳にしては異常なくらい」
――コンコン!
さらにノックの音。
あたしの耳が静寂に慣れてきたのか、耳音が消え去る。静寂の中に響くノックの音が鮮明に聞こえる。
スクルージ氏にも、耳音は聞こえているはずであろうけれど、そんな事を気にせずに淡々と話し続ける。
「近所の猛者を相手にしても負けないくらい、そして街に出没したモンスターの討伐に出掛ける時も、私の背中を預けられるくらいに……」
――ドンドンドン!
ノックの音が変わって今度は扉を殴るような音。 静寂の帳は破られてしまったのだろうか?
執務室内はあたしとスクルージ氏の二人きりであるけれど、例え静寂な帳が破られてしまっても静かなのは変わらず、外からの音は、耳に響くように聞こえる。
「ロゼッタの誕生日。彼女はアサルトドアの書をねだった」
窓を覆う深紅のカーテンが、波打つように波紋を広げて不自然に揺れる。
「私はアサルトドアからの生還者であり、この本の秘密、アサルトドアの倒し方とそして脱出方法を知っている。」
――ガサガサ!
天井裏を何かが這う音。
静寂であるからこそ、妙に生々しく聞こえるし耳に響く。
「もちろんロゼッタにはアサルトドアの倒し方を含め、脱出方法と最後の念を押した。
娘は意気揚々と喜び、アサルトドアの邪本を手に自室へと駆けていった」
――コンコン!
今度はカーテンの向こう、窓ガラスを叩くような音。
いい加減耳障りになってきた。無視しようとすればするほど気になってしまう、なんとも不思議な現象。
「私が間違っていた」
そういいながら、開いていた本を閉じた。
「 アサルトドアの邪本がこのフロア全体を包み込むと同時に、邪本を開いた者とその周囲にいた生物を閉じ込める。」
そう、あたし自身このアサルトドアの邪本を盗み出そうとした時に興味本位で開いてしまった。
「そしてこの邪本は閉じ込めた人間を外へ出させようとするために、あらゆるブラフをしかけてくる。」
そう、あの手この手で外へといざなう。
今、あたしとスクールジ氏がいる執務室内における、不自然な物音。
「何も知らない者であればおそらく、出入り口を含む全ての外へ通じる箇所に触れた瞬間、アサルトドアの出現により魂を肉体ごと持っていかれる」
キー!――
窓ガラスを爪で引っ掛くような音。これだけは、本当に勘弁して欲しい。
つまりはアサルトドアの書、邪本に食べられてしまうというわけだ。
「だが、運よくアサルトドアを倒す事が出来ても、正解の出入り口を見つけなければ脱出は不可能」
本当、地下室ではもううんざりするくらいだった。
「付け加えるならば、このアサルトドアは死の宣告を告げる」
「つまりはアサルトドアを何度も倒し、脱出の出入り口を見つけるか、それとも諦めてアサルトドアの祝福をもらうか?」
確かに、あんなのに付き合わされたら死にたくなってしまう。
アサルトドアの死の宣告。言い換えれば祝福でもあるわね。
「ただ一つ幸運な事に、アサルトドアに閉じ込められた空間は時間の経過が無くなる」
【一つ目のアサルトドアの秘密。時間の経過がなくなる】
あたしもこれには本当にびっくりした。どこかのおとぎ話のようで、脱出した時には数日が経過してしまっていたんだから。