悪い奴から守ってくれる強い青年がいたらこんな感じ?
短編なら、すぐに書けるだろうと思い、挑戦してみました!
その日は、雨だった。それも、道行く者を叩き付けるような土砂降りで、空には灰色の分厚い雲が広がっており、太陽の光が全くと言っていいぐらい見えない様は、これから学校や職場へ通学・出勤しようとしている人々の気分をどんよりと暗く、憂鬱なものにしてしまいそうだ。
そんな中、夜勤帰りで、30代手前の高身長な美人医師であるこの私は、自宅でオンラインゲームをプレイするために家路を急いでいた。ここ数日、手術ばかりで、食事をする時間ばかりか、睡眠時間までもとれずにいた私にとって、今日から始まる三日間の有給休暇はまさに休養と趣味に費やすために絶好の機会である。心の奥底に高まりつつある高揚感を押し込んで、スキップで帰りたいのだって、我慢して、できるだけ早歩きで、駅前の交差点を右に曲がる。けれども、一向に降りやむ気配のないこの大雨と、それによって悪くなる視界に苛立ちを隠せないでいた。
思わず不満げに呟いてしまう。「ホント、嫌な天気ね....。」
この薄暗い空の下では、何が出るかわかったもんじゃない。子供の頃、塾帰りで、怖い大人の不審者に声をかけられ、恐怖に動けずにいたことをふと思い出してしまい、身震いする。
そんなことを考えながら、どこか上の空な様子で歩き続けていた私を誰かが呼んだ気がした。まるでここだけ光から見放されているかのように不自然に明りのない真っ黒な暗闇に囚われてる一本の路地。その影から、年若い三人の男が、ゆっくりとした動きで、這い出てきた。どうやら、待ちかまえられていたようだ。
彼らの醸し出す怪しげで、不気味な雰囲気はあの世とこの世の狭間に現れるといわれている幽鬼を想い起こさせるかのようである。
人間離れした独特な動作で徐々に近づきつつある男たちに私は、恐れを露わに、足がすくんで、人形のように動けないでいた。終いには、涙も出てきて、もちろん奴らも怖いが、それよりも、自分がそれほどまでに慄いているという事実に動揺していた。
奴らの痩せ細ったように骨が浮き出ていて、嫌悪感を感じさせる魔の手が眼前に迫ろうとしていたその時、一人の青年の声が高らかに響き渡る。
「女性一人に、礼儀がなってないんじゃないかな。それとも、一人じゃ怖いのかい?」
「まぁ、どっちにしろ、君たちみたいに薄気味悪いには誰でも願い下げだと思うけどね。」
「さてと、そろそろ不審者にはお帰りいただこうか。この世界は君たちが居ていい場所じゃない。」
そう挑戦的で、でも、自信のある態度で、青年は言い放つと、満面の笑みを浮かばせながら、手招きする。
「ふーむ、カモン?」
彼の余裕溢れる様子に、怒りを堪えきれなくなったのか、まず真ん中の不審者が襲い掛かってくる。両手を猛獣の鉤爪のよう荒々しく構え、自信の全てを相手にぶつけなくては気がすまないとでもいうように、右足から力強く踏み込んで、約10mほど真上に跳んだ後、そのまま青年の後頭部にぶつかっていく。
だが、素直に青年が受け止めるはずもなく、避けるに違いないと私が確信を覚えたその時、そこには不審者の男の渾身の攻撃を眉毛すら動かさずに、小指で払いのけた青年の姿があった。
力強い眼差しで、それでいて威風堂々とした彼の姿はどこか頼もしく見える。いや、彼ほど頼もしい男はいないだろう。
「つまらない。これで、全力だというのなら、終わりにしようか。はぁ!」
青年は、小さく終わりを告げると、残りの二人に向けて、勢いを乗せて、回し蹴りを放った。
回し蹴りと言うのも憚られてしまうほど、有り得ない威力がこもった一撃。それを受けて建物の壁を打ち破り、遥か彼方へ吹き飛んでいく男たちを横目に、私は名前を聞かずにはいられなかった。
「あ、あなたの名前は?」
「僕かい?僕は君のヒーローさ。助けが欲しいときは、いつでもいってね。どんな時でも、風よりも早く駆けつけ、救いの手を差し伸べるから!Bye,お嬢さん。」
ヒーローと名乗った青年は、颯爽と答えると、私の目の前に現れた時のように、唐突に姿を消した。
「あっ.....。いない。」
それと同時に、今まで暗闇しか存在しなかったこの路地に明りが照らし出され、人通りも増え始める。現実に戻ってゆく周りの景色に対して、私は、彼と話した短い時間が夢であるかのように思えて、"ぼーっと"その余韻を感じていた。
「私の、私だけのヒーロー。」
彼が私にかけた不思議な力のせいなのか、彼と過ごした記憶が薄れつつある中で、今ここに願う。また、会えると信じて。
途中から、少し調子に乗ってしまい、かなり大袈裟な表現になりました(笑)
人間技じゃないですよね、絶対。