嘘ばかり
その村に、ある日聖女が訪れた。
村人たちは無償で病や怪我を次々と治していく聖女に心から感謝した。
この村で病が流行していた事がなければこんな場所には寄って行かなかったかもしれないが。
「——聖女様!」
村を出て行こうとしていた聖女一行を止めに入った者がいた。
50を少し過ぎたくらいの男だった。
「どうかお待ちになってください! 私には孫が一人おります。数日前から原因不明の皆のかかっていた元とは違う病にかかって困っているのです。どうか……どうか私の孫を助けていただきたいのです……」
最後は力なく言った。
聖女は村を出るのを遅らせ、その村人の家に行く事にした。
幼い子が寝込んでいた。
聖女は手をかざした。そのてから淡い光が漂い、数十秒後に手を外しながら村人に言う。
「もう大丈夫です。これで元気になりますよ。」
確かに、呼吸が荒かったのが今では静かになっている。
村人は感謝して、聖女は今度こそ去って行った。
——数日後、別の町で同じく治療を行なっていた聖女の目の前にあの村人が現れた。
聖女がどうしたのか聞くと村人は言う。
「村の大半の人が死にました……」
聖女は聴き続ける。
「村に盗賊が現われたのです。生き残ったものはほとんど降りません。」
聖女は驚き、そして悲しみました。
「私はその中でもほとんど怪我をしていません。ですが、他のものは重症です。どうか私たちをお助け下さい……」
聖女は反対を押し切って村に戻る事にしました。
村はそれはそれは悲惨な状態です。
あらゆるところが赤く染まっていて、匂いも相当です。
聖女様が聞きました。
「お孫さんはどこですか」
村で一番若いのは赤ん坊を除けばこの村人の孫だったはずです。入り口にも近いこの村人の孫を治療するのがいいと考えたのでしょうか。
「前と同じ場所におります。幸いにもあまり壊されてはおりませんから」
盗賊にはこの家は狙われずらかったでしょう。なにせ村で一番ボロい家ですから。
聖女は孫のいるはずの部屋まで急いで移動しましたがそこには誰もいませんでした。
この村人はいつの間にか消えていました。
聖女は死に、一行も殺されました。
村にはもともと死んでいない者はいませんでした。
やがて、誰もいなくなった村は消えてしまいました。
そして、本当に全員が死にました。