変化
「だったら!こんな現実!救えねぇじゃねえか!!!」
俺は感情のままに現状を嘆くことしか出来なかった。
だが、始まりがあれば終わりがあるように、地獄のような光景は、たちまちに変化を遂げた。
『ーーーーーれ』
後ろから声が聞こえた。反射的に振り返る。
トラックがぶつかって傷ついた電柱の向こうから、人が出てきた。
その人物は、この場に似つかわしくない、そう表現するしかない、あまりにも場違いなほど神々しい見た目であった。
青い服に白いローブのようなものを重ね、頭には金色の装飾物を身につけていた。
とりわけ異質なのは背がものすごく大きいにも関わらず、それ以上に巨大な杖を手にしていたことだ。
俺は、その謎の人物の顔を合わせようとした。
その時だった。
光だ。
閃光だ。
目の前が白い闇に囚われた。
思わず目を閉じてしまった。
そうして目を開けた時には、その人物はどこかへ消えていた。
不思議な体験だった。今はそれで良い。
そんなことよりーーーーーー
?
先ほどまでの地獄のような景色、事故現場は、先ほどの謎の人物と同じように、消えてしまった。
まるで、自分だけが幻覚を見ていたようではないか?
周囲を見るが、静かな住宅街には、きっと変わらぬ平穏が保たれているようだった。
しかし、そこに。
トラック。
ナイフでも突き刺したかのような悲鳴。
ブレーキの跡。
炎、血。
そして、白い腕。
極め付けは白い光と変なヤツ。
それらが存在していたはずだった。
母親とともに手を挙げながら、ニコニコ笑う子どもが横断歩道を渡っていた。
そこには、深く刻まれたタイヤの痕跡はなく、あるのは、目の前にいる親子の暖かな人生の1シーンだけだった。
「お兄さん、大丈夫?顔色がブルーシートみたいだよ!」
「コラ!智子!失礼なこと言わないの!…ごめんなさいね、うちの子が変なことを言ってしまって」
「ブ、ブルーシート… 数ある青い品物のなかから、それを選ぶのか…」
ある意味今日病院出てから一番の衝撃を受けたような気がするぞ。
「いえいえ、大丈夫です!」
さすがにジロジロと見すぎてしまったか。
しかし、怪しんだりせず、見ず知らずの自分を心配してくれるとは、良い子だな。
ブルーシートはよく分からないけど。
「ありがとうね、大丈夫だよ」
少女の目線になるように、しゃがんでお礼を言う。
上から目線っていうのも何だかな気がして。
この子を母親は、智子…そう呼んでいた。
あの白い光に飲み込まれる前は、母親の絶望の叫びと、この子のものと思われる腕が残骸から伸びていた。
でも、今こうやって目の前にいる。本当によかった。
「目…!?」
そうだよ、目の前の幸せそうな景色に当てられて忘れていた!
トラックの運転手!
あの人には『罪』があった。
交通事故を起こし、人を殺めてしまうという。
しかも彼がうわ言のように唱えていたことは何だったか。
『俺じゃない!俺じゃない!トラックが・・・!』
ーーーーーー!!
一刻も早く彼を見つけて、トラックから降ろさなくては!
俺は記憶からトラックのナンバーを辿り、警察に連絡をすることにした。
「あのぅ…本当に大丈夫ですか?顔の色がポリバケツみたいになってますよ?」
いや母親もブルーシートと同レベル!
それはいい、今は置いとく!
「大丈夫です!それより、事故に気をつけてください!では!」
2人に別れを告げ、いてもたってもいられず、走りながら携帯を取り出す。
「もしもし警察ですか!事件です!トラックの荷台に子どもが複数名乗せられていました!誘拐かもしれません!」
ーーーーーその姿を三日月みたいな笑顔で見ている人物には気がつくことはできなかった。