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地獄

——————————————— 「あなたは選ばれたのです」


 未だに分からないことだらけのまんまだ。

 今、はっきりとしているのは、自分の目に映るものは、確かに人の罪を映しているということだった。目の前に広がる黒煙が、そう訴えかけているのだから。救いを求める細い腕が瓦礫の中から伸びる。俺はーーーーーーー


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 医者から目の後遺症は無いと太鼓判を押された退院となった。

 ようやく、俺は家に向かっていた。

 「----いろいろ一日で起きたけれど」

 春の到来を告げる強い横風が俺を殴る。思わず目を瞑ってしまった。

 「いい天気だな」

 大きく深呼吸をして、伸びなんてしてみる。

 再び目を開けたとき、視界にノイズが走った。

 「なんだ!?」

 古いテレビみたいに、ザァザァなっている。

 見える景色もどこかおかしい。

 「どういうんだ!?」

 俺はそう叫ぶと、答える声があった。

 「それはですね、干渉です」

 俺の後ろから、あの女の声がした。

 -----黒いコートの女だ。

 「・・・なにと、なにが干渉してるってんだ?」

 そもそも知らないことだらけだ。コイツには聞きたいことがたくさんあった。

 「選ばれたってなんだ!?」「なぜ俺を狙ったんだ!」「俺の目に見えるコレはなんだ!?」

 矢継ぎ早に質問を投げかけた。

 「落ち着いてください・・・順番に答えますから」

 どうやら。今回は聞かせてくれるようだ。

 「まずあなたを狙った理由です」

 「!」

 一番聞きたいことだ。

 「あなたは神に選ばれ、そして私は、その神の意志を維持する代行者でーーーー」

 何を言っているんだ、コイツ

 「神があなたを選択し、能力を付与しました」

 「付与って・・・つまりお前が俺をナイフで襲ったのも?」

 「そういうことです」

 「神はどこに?」

 一度会って文句の一つは言いたい。

 「わかりません」

 「ふざけるな!」

 「本当なんです、私はまだ見習いの身で能力付与は初めてで、神様にはお会いしたこともありません」

 「・・・話を続ける 干渉とは?」

 知らないという以上聞いても答えは返ってこないのが分かりきっていた。聞きたいことはまだたくさんある。続けよう。

 「干渉ですね、それはあなたとあなた以外の能力付与者・・・つまり救済者同士の距離が近づいたことを示しています」

 「救済者?」

 「はい あなた方の事を神は、そうおっしゃっていました」

 救済者。何から、何を?・・・わからない。

 しかし、今それを聞く余裕はなくなりつつあった。ノイズが濃くなってきていたからだ。

 「クッ・・・とりあえず、この干渉とやらを止める方法は?」

 「一定距離以上対象から離れるか、対象の生命活動を停止させることです」

 生命活動を停止?なぜそんな・・・

 「とりあえずここを離れればいいんだな?」

 「はい、そうです」

 よし。聞きたいことはまだありそうだが、この目障りで耳障りなノイズはカンベンだ。

 移動しよう。

 「最後に一つだけお伝えしておきます」

 黒コートの女は、その素顔を俺に明かした。

 「私の名はノエミ あなたに神の息吹がありますように」

 ・・・いちばん大事な俺の目について聞きそびれた。

 決して、その女の顔に目を奪われて忘れていたわけではない。

 いや真実視力は奪われかけた訳だが。

 まぁ、そこはいい。とりあえず走るとしーーーーー!!


 キキーッ!!

 けたたましい車のブレーキ音と、ゴムの焼けた匂い。

 「危ねえじゃねえか!前見て動きな!」

 大型トラックの運転手は俺に怒鳴る。

 どうやらノイズが認識能力の邪魔になっていて、車の接近に気が付かなかったようだ。

 「すいません・・・!?」

 俺は平謝りし、その運転手の方を見た。既に発進しようとしていたようだ。

 その瞬間。見えてしまった。

 ーーーー今から数分後。彼は交通事故を発生させ人を殺してしまう・・・!

  

 「・・・!待ってくれ!!」

 俺は叫んだ。届かない。

 「コレが本当なら・・・!」

 俺は走った。間に合わない。

 「大変なことに!!」

 

 もう、トラックの姿は見えなくなった。

 「ハァ・・ハァ!・・・!干渉が消えた?」


 トラックを追いかけていたためか、別の救済者とやらと離れたようだ。


 「こうしていられない、警察に電話を・・・!」 

 電話番号を打ち込み、いざ発信の、その刹那に気づく。

 誰が、これから交通事故が起きるから今すぐ来てくれと言って、信じる?

 「まるでマンガだものな・・・」

 一人乾いた、虚しい笑いを浮かべることしか、俺にはできなかった。

 

 ドゴッ!!!

 

 遠くから大きな音がした。俺は、その主と、何が起きたか、この遠距離にいても理解できた。

 だが納得はできなかった。

 だから、俺は走り出していた。

 「間違いであってくれ・・・!」


 さっき嗅いだゴムの匂い。それに加わったガソリンの匂い。

 ・・・納得したくない。

 人が叫ぶ声。次第に見えてきた`それ`。

 ・・・嫌だ。

 

 その光景は地獄そのものだった。

 泣き叫ぶ女性と、へたり込んでいるトラックの運転手。

 「俺じゃない!俺じゃない!トラックが・・・!」

 トラックの運転手は、顔の前で手をブンブンと振り、現実から少しでも遠ざかろうとしているように見えた。

 「智子ーーー!!!!」

 女性が叫んだ。その視線の先に。

 子供のものだ。細くて、白い腕`だけ`が見えた。

 他の部分は、大破したトラックに飲み込まれている。

 ガソリンに混ざった赤い液体は、そういうことなのか。

 ・・・!早く救助を!!俺は、子供を救出しようと近づこうとした。

 その瞬間だった。トラックが燃え上がったのである。

 「ウッ・・・!?」

 

 救いを求める手が、空を掴もうとして、萎びた。

 それきり、動くことはなかった。


 未だに分からないことだらけのまんまだ。

 今、はっきりとしているのは、自分の目に映るものは、確かに人の罪を映しているということだった。目の前に広がる黒煙が、そう訴えかけているのだから。救いを求める細い腕が瓦礫の中から伸びる。俺はーーーーーーー救済者なんだろ?


 「だったら!こんな現実!救えねぇじゃねえか!!!」


 俺の慟哭は、黒炎とともに、空に昇っていくだけだった。


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