第8話
「これがいいかな」
サージさんは散らばっている武器の中から一つの剣を取り出した。なんの装飾もない無骨な剣だ。
「初心者にも扱いやすいように出来てるから使いやすいと思うよ」
「ありがとうございます」
ルイは銀貨をサージさんさんに渡した。お金はソフィアからまとめて借りている。何故かくれると言っていたが、悪いので借りるということで落ち着けた。
「早速依頼を受けるのかい?」
「いえ。ギルドカードが作り終わるまでの間、剣に慣れようかと。なんで外で素振りしてきます。」
「うーん、じゃあ私は宿でカリーナと遊んでるね」
「また来てね」
「「ありがとうございました!」」
ルイたちはサージさんの店を出て、門へと向かった。
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剣を振り上げ振り下ろし、そのまま足で前の敵を蹴り横薙ぎに振るう。そういう風にルイは前に敵がいる想定で真剣に剣を振るっていた。もう既に初心者の域を越しているがルイは気づいていない。この短時間でここまで来れたのはドラゴンの身体能力の高さゆえだ。
「すいませんそこのお方」
剣術の鍛錬に夢中になっていたからなのだろうか、ルイはそう声をかけられるまで存在に気づかなかった。ルイは剣を振るうのをやめ声を掛けてきた人物を見る。
執事服を着た初老の男性で、体の身のこなしからそうとう腕がたつということが見受けられる。なぜそんなことが分かるのかと聞かれると困るのだが、ドラゴンパワーとでも言っておこう。
「1つ相談があるのですが…」
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妖精の家のドアが急に大きく開け放たれた。入ってきた人物はもちろんルイである。今の時間、客はいないようだ。
「ただいまー!お知らせがあるよー!」
「おかえりー何があったの?」
「あのカリーナを欲しがった貴族と明日決闘することになったー!」
「………はぁ!!!??」
「だって勝ったら向こうの財産の半分もらえるっていうんだもん。これでソフィアへの借金返せるし」
「だもんじゃないでしょ!!負けたらカリーナ取られるのよ!!」
勝ったらお金がもらえると聞いてルールも聞かず即決断したのだった。
「とりあえず、決闘には私が出るからね!」
「えっでも…」
「あなたはまだなったばかりの冒険者でしょ?対して私はBランクの冒険者よ?戦闘経験が違うでしょ」
「た、確かにあんまり戦ったことないかも…」
「だから私が出る!いいね!?」
「…はい」
ルイはしぶしぶ頷いた。ルイが戦闘経験があまりないのは事実だが、ルイが出た方が絶対勝てるということをソフィアは知らない。ソフィアもカリーナが関係するということで気がたっているのかもしれない。とりあえず何かあったら変わりに出ようと思い、この場はソフィアに任せることにした。
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「これがギルドカードです。このカードに魔力を通すとステータスを見ることができます」
ルイはギルドに行きギルドカードをもらった。一種の魔道具?のようなものだろう。外見は日本でも見るような普通のカードである。早速、魔力を通そうとしたが魔力の通し方をルイは知らなかった。のでソフィアに教えてもらうことにした。
「ありがとうございます。…ソフィア、あとで魔力の通し方教えて?」
「はぁ?そんなことも出来ないの?どうやって魔物から逃げてたのよ…帰ったらね」
「ありがとう!!」
とりあえず宿で教えてもらうことにして、ルイたちはギルドを出た。
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宿の裏庭でルイとソフィアは魔力の扱い方を勉強していた。
「本当に魔力の扱い方知らないの?」
「うん」
ルイは時空魔法という魔法は使ったことはあるが、ほぼ勘でやったようなものできちんとした扱い方を知らなかった。
「じゃあとりあえず魔力というものは何か、からね」
ソフィアは丁寧にしっかりルイに魔力とはなにかを教えてくれた。まとめると、
・魔力は人の中にある
・魔力の多さは人それぞれで、個人差がある
・魔法を使うのに魔力を使う。
・空気中には魔素というものがあり、人は呼吸によってそれを取り込み魔力を回復している。
とのこと。
「なるほどわからん」
「…」
「で?それをどうするの?」
「…まず魔力を感じることからね。魔力は体の中に血のように流れているのよ。それをきちんと感じ取れるようになるのが魔力を扱う第1歩よ」
「うーんわかんないなぁ。空気中にあるやつならわかるんだけど」
「え?それって魔素のこと?普通人は魔素を感じられないんだけど…魔素を感じられるのはエルフぐらいよ?」
ソフィアは驚きながらそう言った。この世界にはやっぱりエルフがいるらしい。出来るならば会ってみたいものだ。でもソフィア曰く「エルフは森の奥とかでひっそりと暮らしているから相当なことがなければ無理よ」らしい。残念。
「魔素を感じ取れるんなら体に取り込めないの?」
「さぁ?」
「さぁって…まあ魔力の元が魔素だからカードに魔素を通せば大丈夫だと思うんだけどね」
「なるほど!」
ブレスや時空魔法の時にイメージで魔素を動かせたことから魔素を通すのもイメージだろう。ルイはその勘に近い考えの元、ギルドカードに魔素が吸い込まれるイメージを強く念じてみた。
「…!」
とたんに転移の時と同じようにギルドカードの周りに弱い風が一瞬おきた。その風はギルドカードに吸い込まれたように見える。無事成功したのだろう。するとカードの表面に文字が浮かび上がってきた。
種族:月龍(人間,※※)
名前: 狐月 月希 (ルイ)
生命力:50000000
魔力:0
技能,能力:
人化
※※
銀炎のブレス(龍形態時)
浄化の煙(龍形態時)
※※(※※※※)
※※※※(※※※※)
時空魔法(人形態時)
「なんだこの※の部分…」
「どう?何が見えた?」
「え?この文字読めないの?」
「ギルドカードは本人にしか読めないようになっているのよ」
「へーそうなのか」
(こんな変なステータス見られなくてよかった)
「で、どうだったのよ」
「うーん内緒!」
「っ…そ、そんなとびきりの笑顔で言われたら聞きたくても聞けないじゃない…」
忘れがちだが、ルイは見た目だけなら9割の男性が振り返るような顔をしている。男だけど。そんなルイがとびきりの笑顔でいうものなので、ソフィアの気持ちも頷ける。
「…ってなんで魔力の扱い方も知らないのに決闘を受けたのよ!!!?」
「……てへぺろ?」