第6話
ルイたちは街の門の前に着いた。行列はもうなくなっている。それもそのはず、今の時刻は夕方の7:00頃であり、この時間で外から街に入る者や外に出る者など皆無に等しいだろう。もっとも、ルイたちが今から街に入ろうとしているのだが。
「身分証明できるものは持ってるか?」
「持ってないんですがギルド登録するつもりです。」
「私はギルドカード持ってます」
ソフィアはギルドカードを門番に渡した。この世界ではギルドカードが身分証明できるものになっている。もし持っていないものや無くした者が門を通る場合仮の通行証を発行しギルドカードを再発行することになっている。
「じゃあ君は仮の通行証渡すからギルド登録する時に渡してくれ。君は確認できたよ。二人とも通ってよし。」
門番はそういってソフィアにギルドカードを返した。
「「ありがとうございます」」
ルイたちは街の中に入っていく。
(かわいい子達だったなぁ。)
門番は見えなくなるまでルイたちを見ていた。それもそのはずで、2人は10人いたら8人が振り返るような美貌を持っている。まあ片方は男なのだが。
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日が落ちかけていてもまだ人が行き交っている道をルイたちは歩いていた。建物は基本的に木造が多い。文化レベルが中世くらいだからであろう。道には出店や屋台が立ち並び、夕方にも関わらず大変賑わいを見せていた。
「いらっしゃい!焼き鳥うまいよ!」
「ねぇ焼き鳥買おうよ。あんたの分も買ってあげるから」
「えー悪いよ」
「ギルド登録するんでしょ?ならギルドでお金を稼いだ時に返してもらうわよ」
「……わかった。お言葉に甘えるよ」
「おばちゃーん!串焼き2つくださーい!」
「はいよ!銅貨6枚だよ!」
「はいこれ」
「まいどありー!」
ソフィアは焼き鳥をルイに渡して歩き始めた。
「うまいなこれ。何の肉なんだ?」
「フォーゲルラウフっていう地上を走る鳥よ。肉がうまくて食用としてよく流通してるのよ」
「へー地球でいうダチョウみたいなやつなのかな?」
「ダチョウ?」
「俺の故郷の鳥で地上を走る鳥なんだよ」
「へー」
すると、ソフィアが「あんた遠くから来たの?」と聞いてくる。ルイは少し考えてから「とっても東の方から来たんだよ」と言ったところ「東か...1度行ってみたいわね」と言っていた。日本は地球で極東と言われていたから嘘ではないであろう。
「で、今どこ向かってるんだ?」
「私がいま使ってる宿」
「え、別に俺は野宿でよかt「黙ってついてきなさい」……はい…」
しばらく歩いていると一つの建物の前でソフィアが立ち止まった。二階建ての木造で看板に『妖精の家』と書いてある。この街で中くらいのクラスの宿だろう。
ソフィアが建物の中に入っていき、つられてルイも建物の中に入ると賑やかな声が聞こえてくる。1階部分は食堂となっているようで、酔っ払った男たちや賑やかに食事している女たちもいた。人気店のようだ。ソフィアはまっすぐカウンターのところまで行くと「マスターいるー?」と声をかける。その後すぐにルイの方に振り返った。
「マスターは変な人だけど一応いい人だから仲良くしてあげてね」
「えっ?」
ソフィアが意味深な言葉をルイに投げかけたあと、しばらくして奥から出てきたのは筋肉でできたようなハゲのいかついおっさんだった。
「な〜に〜あら、ソフィアちゃんじゃない!どうしたのこんな夜遅くに帰ってきて〜」
マスターと呼ばれた筋肉マッチョは体をくねらせながら言う。
(…………………)
「あら?この子はだれ〜?ソフィアちゃんのお友達かしら〜?」
「そうなの。カリーナをどっかの馬鹿貴族に取られそうになったのを助けてくれたの」
「だからカリーナはあんまり見せびらかせちゃいけないって言ったじゃないの〜」
「ごめんなさい。」
「まあ無事に帰ってくれたから私はうれしいわ〜」
(………………はっ!!衝撃的すぎて思考を放棄していた…!)
地球ではオネェなどテレビの中でしか見た事のない貴重な人種である。いきなり目の前に出てきて、しかも筋肉の塊のような人だったら誰でもこういう反応になるだろう。そのため立ち直ったルイは戸惑いながらも短く挨拶することしか出来ない。
「こ、こんばんは」
「こんばんは〜私はここのマスターよん。あなたはこの宿に泊まるのかしら〜?」
「あ、お金持ってないと思うから私が払うわ。ルイ、それでいいでしょ?」
「あ、ああ、うん」
そういいながらソフィアは銀貨を5枚ほどマスターに出す。
「「ようこそ妖精の家へ!」」
衝撃を抑えられないまま話がだいぶ進んでしまった。この世界はこんなに適当でいいのかと考えたルイはまだ地球人なのだろう。しばらくマスターと話したソフィアは「じゃあ私は部屋に戻るからタツヤも早く部屋に行きなさいよ〜」と言いながら階段を登っていってしまった。
「………」
「…………」
……気まずい…
「ルイちゃん?で合ってるかしら?」
「は、はい」
「ソフィアちゃんを助けてくれてありがとうねぇ」
「い、いえ関わってしまったものを見捨ててしまうの目覚めが悪いので…あ!そういえばあの貴族の人はいつもあんなことしているんですか?」
ルイはこんなことでお礼を言われるのはこそばゆいので別の話題を出した。するとマスターはため息をつきながら言った。
「そうなのよ〜トルンジ・ぺガー伯爵って言ってね、自分が気に入ったものは力づくでも手に入れようとするの。もちろん人間もね。ほんといやになっちゃうわ〜。…あなたも気に入られないように注意しなさいよ?可愛いんだから」
「はぁ…」
気に入られないようにというが、ルイはもう喧嘩を売ったのと同等のことをしているからそんなことはよほど馬鹿じゃないとしないだろう。よほど馬鹿の中にトルンジも入っている可能性もあるが。というかそもそもルイは男だ。
ルイはその後少しマスターと話した後、階段を上り割り当てられた部屋に入った。ベットに小さな机、棚など必要最低限の設備で整えられているこじんまりとした部屋だ。冒険者など収入のそう多くない人が利用する宿らしいのでこのくらいで抑えられているのだろう。
ルイは早速ベットに横になると、今日の疲れをとるために早めに寝ることにした。風呂などはドラゴンなのでという理由でしなくても大丈夫だ。事実、森で過ごしている時は水浴びなどをあまりしていない。吸収した魔素の力かなにかで綺麗になっているのだろう森にいた頃よりも密度の高い1日だったおかげで、横になっただけで睡魔が襲ってきた。ルイはそのままその睡魔に身をゆだねていった。