第5話
貴族の男がドラゴンを手に入れ損なった日の夜、商業都市ミンガイルの貴族街の中に、お金がかかっているのがひと目でわかるような屋敷がある。
「なぜこう思いどおりにいかないんだ!!」
その屋敷の中の見ただけで高価なものだとわかるものがただ大量に並べてあり、中央にもまた高価だと思われる机と椅子がある部屋で1人のまるまる太った男が吠えていた。
「クソッどうすればあのドラゴンが手に入るのだ!…いや待て落ち着こう。シンバ、お前ならこの状況からどうやってあれを手に入れる?」
そばには控えていた執事らしき初老の男ーーシンバに貴族の男は問いかける。すぐにシンバは答えた。
「はい、トルンジ様。相手は女2人。決闘で相手を負かしドラゴンを手に入れればと考えます。公正な決闘ならば邪魔が入ることもないでしょう。」
「なるほど。では向こうが乗ってこなかった場合はどうするのだ?」
「それはこちらが負けた時に財産の半分ほどをやろうなどとおっしゃられば必ずしや乗ってくるでありましょう。決闘では私めが出てもよろしいでしょうか?」
「そうかそうか。相手は女。負けることはありないだろう。いいぞ。では一刻も早くあの2人を連れてこい!!」
「かしこまりました。」
そういってシンバは部屋を出ていく。そしてしばらくたってから、トルンジと呼ばれた貴族の男が急に立ち、
「こちらは財産の半分をかけるんだ。シンバも負けることはないと思うが一応保険もかけておくか…」
そう独りごちると悪趣味な部屋を出ていった。
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一方その頃、シンバが廊下を歩きながら考え事をしていた。
(これで私が気づかれない程度に手加減をし、負ければこの家も終わりに出来る)
実はシンバはこの家を潰すために派遣されたのである。
普段から素行の悪いこの貴族は度々事件をおこし皆に迷惑をかけていて、この街の領主が手を焼いている状態であった。この貴族の男の親が王都でかなり上の身分であることから公で処分することが難しいのである。実は、親が子の素行の悪さを問題視し、行動を改めろという名目でこの街に飛ばしたのだが、素行の悪さは良くなっていないのが現状だった。そこで領主が考えたのが、自滅したように見せかければ大丈夫なんではないかという案である。
そして、その案は近いうちに達成されることとなる。
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深夜、もう誰も歩いている人がいないような時間。ミンガイルにある路地裏で、
「金貨十枚でどうだ?」
黒いローブを羽織ったまるまる太った者と人丈ほどある大剣を背中に背負った赤髪の男が話している。
「足りねぇな。Aランク冒険者に頼るんだ、二十枚は欲しいところだ」
「……くそっ二十枚でいい」
「そう来なくっちゃなぁ」
太った男は金貨二十枚を赤髪の男に渡す。
この赤髪の男は裏で何でも屋を営んでいる。金を払えば何でもしてくれるということで人にはいえないことなども頼めると一部の者に重宝されている。
「お金は払ったんだ。お金ぶんはきっちり働いてもらうぞ!」
そう言いながら太った男が睨みつけると、赤髪の男は手をひらひらさせながら闇に消えていった。太った男もその場から離れていく。秋の冷たい風があたりに吹いていた。