第14話
(ここらへんでいいかな)
ルイはいま最初に降り立った10円ハゲにいる。最初は気づかなかったが、だいぶ奥の方にハゲはあったようだ。
(森もハゲがあるのは恥ずかしくて奥に追いやったのかな?)
ルイはハゲの中心に来て、少し伏せる。するとうさぎはぴょんと地面に降り立ち、くるっとこちらを振り向くと、口を開いた,
「飛ぶときちゃんと周り見てください!」
「……グルァァァァァァァァ!!!!???(ギャァァァァァァシャベッタァァァァァ!!!???)」
あまりの大声(咆哮)に空気が揺れて、うさぎが思いっきり吹っ飛び、木に激突した。それを見て、ルイはまたもやあわあわするが、うさぎは勢いよく立ち上がり、ルイをにらみながらこちらに耳を向けると、耳の間からぱちぱちと音がなり始め、なにかがルイに向かって飛んできた。
「グルァ!?(うわっ!?)」
ルイは避けようとするが、ドラゴンの状態で『避ける』という動作をするのが初めてなわけで、思いっきり当たってしまった。
「グル?」
しかし全く痛くなく、なんだったんだろうと首を傾げていると、うさぎがこちらに駆けてきて耳で物理攻撃してきた。
「あなたが、大声を、出しただけで、こんなにも、私は、痛い目に、会うのに、あなたは、私の、精一杯の、電撃を、浴びせても、首を、傾げるなんて、どんな、理不尽ですかかみさまぁ!!!」
ルイは耳でぱちぱち叩かれてももちろん痛くないが、既にうさぎは息切れしまくっている。なんか、かわいそうに見えてきたので、自分のあご?で頭を撫でてあげた。すると、うさぎは攻撃(物理)をやめ、気持ち良さそうに目を細める。しかしはっと一瞬硬直すると、すぐにルイから離れた。
「くっ…なんか悔しいです…とりあえず迷惑かけた罰になんかしてください!」
ルイは頷くと、うさぎを下ろした時のように伏せた。そして、うさぎが乗ったのを確認すると、自分の洞窟目掛けて飛び立った。
ルイは洞窟に着きうさぎが地面に降りたのを確認すると、少しうさぎから離れ、人間の姿になった。
「!!??」
「あーやっぱりこっちの方がしっくりくるわー」
「…えーっと?」
「あ、えっと、さっきはごめんなさい」
驚き、混乱しているうさぎに、ルイはまず頭を下げた。ドラゴンの状態の時は、力が制御できなくて周りに被害が及んでしまうのだ。まあ、大規模破壊とかをする時は重宝するかもしれないが、そんなシチュエーションはめったに来ないだろう。来ないよね?
とりあえずうさぎが落ち着くのを見計らい、ルイは自己紹介を始めた。
「おれの名前はルイだよ。そっちの名前は?」
「私はメリーって名前です」
「ひつじ?」
「うさぎです」
「でも名前はひつじだよね?」
「そうですけどうさぎです」
「うさぎでひつじとか面白いね」
「そろそろ怒っていいですか?」
「すいませんでした」
なんかルイとメリーがコントを繰り広げているが、ひつじはシープであり、メリーではない。
「じゃあ…何して欲しい?」
「…なんかしてください」
「いやなんかと言われましても…」
「……食べ物とか下さい」
「おれここで物食べてないからここにはないなー」
ルイもメリーも名案が浮かばないようで、二人揃ってうーんと首を傾げている。しばらく考えていると、、メリーがなにかひらめいた様子で手を叩いた。
「一緒に食べ物をどこか取りに行きましょう!」
それを聞いたルイは少し考える。
洞窟では一切ものを食べたことがないので、自然で取れる食料には疎く、食べられるものを探すのは時間がかかるだろう。まあ街に出向き、情報を仕入れればいい話だが、それでは街から離れた意味が無い。
そこまで考え、1度断わったのだが、「いいですよ。どうせ私暇ですから」と譲ってくれなかった。
なので、まあそう言うならと納得することにして、食べ物を一緒に探しに森の中に入っていった。
「しっかし改めて森をよく見ると、the 自然!って感じだなー」
「何わけわかんないこと言ってるんですか?」
ルイは都会生まれ都会育ちの地球人である。なかなか人の手が入っていない自然を見ることはないだろう。
まあまだ街に行く前、森で過ごしていた頃では、森は見飽きたものだと思っていたのだが、あの時は実験や何やらで忙しかったからゆっくり森を観察することなどなかったのだ。
のんびり歩きながら森の中を歩いていると、木の枝の先にさくらんぼのような実があったのを見つけた。食べられるかもと思い、手に取って口の中に入れてみたのだが、味がなんというか、炭酸の梅?みたいな感じだった。
「うへー。なんか面白い味ー」
「え、それもしかして食べちゃいました!?」
「?なんかまずかった?」
「まずいなんてもんじゃないですよ!ここは間違っても魔の森って呼ばれてるんですよ!?なんかものすごい危険な超猛毒とかだったらどうするんですか!!」
「……一理ある」
思いっきり正論を言われ、固まってしまったルイに、メリーは思いっきりため息をついた。
「まあ、ルイさんも龍の部類に一応入るのでそんなの聞かないと思いますけど」
「おお…百理ある!!」
「百理ってなんですか!……まあ、いくら龍だとしても、警戒もなしに知らないもの食べるなんてやめてくださいね?」
「ふーい」
そんな生返事で食べ物探しに戻ってしまったルイに、メリーは再度大きなため息をついた。
―――――――――
「結構集まったねー」
「まあ、かれこれ数時間森の中探索してましたからね。結構楽しかったです」
「そりゃあ重畳」
いま、ふたりは洞窟の中にいるのだが、洞窟の半分位が食べ物で埋まってしまっている。
「しかしその時空魔法?でしたっけ?それすごく便利ですねー。どんな荷物でも平気じゃないですか」
「いいでしょーさすが神様だよね」
ルイがそういった瞬間、メリーが見るからに固まった。
「も、もしかして、神様にあったことあるんですか?」
「うん?あるよ?なんか語尾すごい伸びてる変な神様だったけどね」
「!!……銀の龍が神様の使いっていう言い伝えは本当だったってことですか…!」
「へ?なにそれ」
「私達の種族の中には代々伝わっている言い伝えがありまして、その中の一つに月から来た銀の体を持つ龍が神の使いとして出てくるんですよ!」
「へー。その龍なにするの?」
「なんか神に頼まれたとか言って、私達の危機を救ってくれるんです!」
「ふーん。じゃあそれおれじゃない気がする」
「?なんでですか?」
「だっておれ神様に頼まれごと1個もされてないもん」
「あ、そうなんですか…違かったんですか…」
ルイが否定すると、テンションが上がっていたメリー見るからに意気消沈してしまった。
「えーっと。なんかごめんね?」
「いえ…大丈夫です…」
「……ほら、これ食べなよ」
テンションダダ下がりのメリーを見て、なんとか立て直してくれないかと、ルイは山盛りになっている食料から、一つ取り出してメリーにあげた。
「ありがとうござ……ってこれ、ルイさんがまずいって言ってたやつですよね」
ルイが手に取ってメリーに渡したのは、あの炭酸の梅味のさくらんぼだった。
「………oh」
―――――――――
次の日、ルイとメリーはまた森の中を散歩していた。食料探しの時に、行けなかったところへ行ってみようとなったのだ。
しばらく、草木をかき分けながら歩いていると、森の終わりまで来た。
「じゃあとりあえずこの森の外側をぐるっと1周するかー…ん?」
「どうしたんですか?」
「いや、あれ見て」
ルイが指をさしている、森と反対側の方向には、なにか水色のものが見えた。
「なんでしょうかあれ…」
「うーん。もうちょっと近くに行かないと見えないねー……って、なんかこっちに近づいてきてない?」
なんなのかはっきりさせようとよく見ていると、徐々にそれの形が見えてきた。どうやらものすごいスピードで近づいているみたいだ。
「うーん。ドラゴンに見えますね」
「水色で、ドラゴン……カリーナ?」
「カリーナって誰です?」
「前にあったドラゴンなんだけど…こんなところにはいないはず…」
いまカリーナはソフィアと一緒に街にいて、魔の森の近くにはいないはずだ。
もうこの時には、姿がはっきり見えるまでドラゴンは近づいていた。
「キューーーー!!!」
「やっぱりカリーナだ。どうしたんd…ぶふっ!!」
そのドラゴンーーカリーナは、ものすごい高速で飛行し、ルイの顔にへばりついた。相当な勢いがあったため、ルイへのダメージも大きい。よって、ルイは地面に倒れ込むこととなった。視界が水色で染まっているので、顔からカリーナを引き離そうしたのだが、その前にカリーナはルイから離れ、袖を引っ張り始めた。
「どうしたの?」
「キューキュー!!」
カリーナは慌てた様子で、飛んできた方向にルイを引っ張ろうとする。どこかに連れていきたいようだ。
「……ごめんメリー!ちょっと行ってくる!!」
カリーナの慌てようから、なにか重大な事が起きたと考えていいと思い、ルイはカリーナの行く方向についていくことにした。
「ちょちょっとー!待ってくださいー!!」
そうして1人と1匹は森から抜け、駆けていった。
「ちょっとー!速すぎですー!!」
「あー。とりあえず抱えるからそれで我慢して」
「わかりましたーって、カリーナさんが抱えるんですか!?あー!!首根っこつかまないでくださいーー!!それ抱えるって言わないですー!」
「キュキューー!!」
賑やかに、かつ人間ではありえない速度で、カリーナが先導していく方、南へ移動していく。行き着く先にはどんなことが待ち受けているのだろうか。