第10話
この日のミンガイルのギルド内はいつもよりも騒がしかった。
「あいつってAランクだよな?」
「多分な…でもなんで捕まってるんだ?」
「さあ?でも捕まえた人たちあまり強そうには見えないぜ?」
騒がしさの元凶はギルドのカウンターの前にいた。
ルイとソフィアと赤髪の男である。赤髪の男は木の枝ようなもので手を結ばれていた。
「すいません。この人が殺そうとしてきたのですが…」
「なんでそんなにどストレートに言うのよ…」
「あ、はい…ギルドマスターに言ってきますので少々お待ちください…」
そう言って職員は奥に入っていく。
「なぁあいつってバカか?」
「ルイは基本アホなのよ…」
「そんなやつに負けたのか俺は…」
「なんかすごい言われてる気がする…」
しばらく待っているとギルド職員が「ではついて来てください」と言った。3人でぞろぞろとついて行った。
3人と職員はある一つのドアの前で止まった。ドアにはギルド長室と書いてある。職員がノックすると中からどうぞと聞こえてきた。全員部屋の中に入り、見えたのは部屋の中で偉そうにしている子供であった。
「あれ?ギルドマスターは何処へ?」
「「「「………」」」」
「なんで子供しかいないんだろう…てかなんで子供いるの?さっきどうぞーって言った人だれ?」
ルイは部屋の中を見渡しそう言うと、子供が口元を引くつかせながら、「あれー?もしかして私のこと子供って言ったかしらー?」と言った。
「え?だって背低いしどう見たって子供じゃない?」
「…………殺していいかな?いいよね?」
「おやめくださいチルス様!!!」
急に職員が子供ーーギルドマスター:チルスを抑え始めた。
「あちゃー」
「おい銀髪。ここのギルドマスターは子供みたいな外見だが実際はちゃんと成人してるぞ。そして子供っていうワードはこの街では禁句なんだぞ。知らなかったのか?」
「……まぢで?」
「まぢまぢ」
「……すいませんでしたーーーー!!!!」
―――――――――
「それでルイが殺されかけたってわけね」
もう既に呼び捨てである。怒りはぎりぎり収まったようだ。まあイライラしまくりだが。
「まあこの人曰く貴族…じゃなくてトルンジ伯爵に雇われただけらしいですけど」
「こいつは裏で何でも屋をやってる奴よ。暗殺でもなんでもやるの」
「そうだったの?」
「まあな」
「まあそれで?こいつを捕まえたのはソフィアさん?」
「いえルイです」
「は?ルイってまだ冒険者になったばっかでしょ?というかまだGランクよね?」
「そうでしたね…」
この話をきいてソフィアが「Aランクに勝つGランクって何者よ…」とかつぶやいていた。
「とりあえずルイのランクアップは確実として、こいつの処分をどうするか、ね」
「こいつこいつって、一応ギルっていう名前があるんだが」
「「「……初耳」」」
赤髪ーーギルは盛大にため息をついた。突然ルイがピシッと手を挙げる。
「トルンジ伯爵が悪いということでギルは無罪釈放ってことで!もちろん何でも屋稼業は禁止にして」
「その心は?」
「結構いいヤツだった」
「……それだけ?」
「…えっ?」
「…えっ?」
「…えっ?」
「いやいやそんな理由だけじゃダメよ」
「じゃあ…どうしよう?」
ルイはソフィアに助けを求めた。目を向けられたソフィアはジト目でルイを見る。
「そんくらい自分で考えなさいよ。例えば…ルイの奴隷にしちゃうとか」
「それだーーー!!!それにしよう!それならどうですか?」
「うーん。普通奴隷落ちするとかが罰だからそれでもいいわよ」
「よし!ナイスソフィア!」
「いやよしじゃないだろ!」
ギルが急にルイに言ってきた。
「なんで?」
「どっちにしろ奴隷になってるじゃねぇか!」
「…ほんとだ…まあ大丈夫だよ」
「どこが大丈夫なんだ…」
そんな感じのグダグダ感でギルの罰は決まった。
「じゃあ次はトルンジ伯爵の処分ね。意見ある?」
「追放で」←ソフィア
「斬首刑で」←ギル
「じきじきに殴る」←ルイ
「…とりあえず追放は確実ね。あとは…親とかがなんとかしてくれるでしょう。それから契約書は持ってる?」
「はいどうぞ」
ソフィアが契約書をチルスに渡す。それを見たチルスはため息をついた。
「財産の半分ってバカね……ありがと。トルンジ伯爵が追放できて良かったわ」
「前からひどかったんですか?」
「ひどいも何も悪行の連続よ。でも王都に親がいてね、そいつの身分が無駄に高いから処分しづらかったのよ。シンバ送っておいたんだけど役に立ったのかしら?」
「シンバって誰ですか?」
「一応トルンジ伯爵を追放するために送った人員なんだけどね。いま執事やってるって言ってたわね」
「あの初老の男の人ですか?」
「そうよ。もしかしてもう会った?」
「まあ…決闘の対戦相手でした」
「なんか手加減してると思ったのだけれどそういうことだったのね」
「役に立ってたのね。良かったわ」
こうしてミンガイルのギルドマスターとの話し合い?が終わった。最終的にギルはルイの奴隷になり、トルンジ伯爵は追放となった。
―――――――――
貴族街にある豪華な屋敷の中で太った男が憤慨していた。
「くそ!あいつ金を払ったのにも関わらず殺さないではないか!そもそもお前が負けたのが悪いのだ!お前のような雑魚はいらん!!」
「かしこまりました。それではまた会うことを願います。」
シンバは静かに部屋から出ていった。
このあとトルンジ伯爵はミンガイルを追放になり、王都にいる親に呼ばれ無事?廃嫡になったそうな。
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今ルイたちは宿にいる。あの妖精の家だ。
「ただいまマスター!!」
「ただいまー!…ほらギルも挨拶して」
「た、ただいま?」
「おかえりなさーい。あら新しい子が増えてるのねん」
「おいこいつなんだ?」
「こういう人だと認識して?」
「お、おう」
ギルは無事ルイたちの仲間になった。なぜ仲間なのかって?それはルイが上下関係があるのは嫌だと言ったからだ。あと同性の話し相手が欲しいとかなんとか。そうい言った時にギルは「お前男だったのか!」とびっくりしていた。
「どうする?部屋はおれと同じでいい?」
「別に奴隷なんだからそんなの適当でいいだろ」
「ほら自分を卑下しない。おれたちは対等。いいね?」
「…わかったよ」
「じゃあ私は先に部屋に戻ってるねー」
ソフィアは一足先に階段を上って部屋に戻ってしまった。それを見送った後にふと思う。
(あれ?そういえば寝るときは洞窟に戻るんだから一緒の部屋じゃまずいじゃん)
忘れていたがルイは人間ではなく龍である。寝るときは龍に戻ってしまうので夜は宿にいない。それを知られてしまったら困るのだ。なので、
「ギルは別の部屋にしよう!」
「うお!なんだ急に」
「おれの独断と偏見で別の部屋にしようかと」
「いやそんな金のかかること…」
「奴隷なんだからおれの言うことを聞きなさい」
「…さっきと言ってること違くね?」
「…気のせい気のせい」
ルイはマスターのところへ行き、部屋を借りてきた。
「207号室ね」
「了解」
「じゃあおれは部屋に戻るわー」
ルイは部屋に戻っていった。
「…楽しくなりそうだな」
一人残ったギルはそう独りごちると部屋に向かっていった。
2016/5/11 少し訂正