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外界機兵アナザイム  作者: 紅陽炎
4/31

04:事故率0%

テツビトの性能はシーブルー、ネイチャーともに

名前と外見以外に基本的な性能に変わったところはない。


武装は手持ち式のエネルギーガンと、

肩に担いだエネルギーキャノンの二つ。

また、テツビト自身を薄い膜で覆うバリアを展開する。


コーティングバリアと呼ばれるそれは、

薄い膜のように展開してパイロットと機体を守る役割を果たす。

見た目の頼りなさとは裏腹にその強度はテツビトの攻撃を通すことは無い。


しかしコーティングバリアの消費エネルギーは高く、

ビームの直撃を受ければ一撃で空になってしまうほどで、

手や足のような末端でさえ数発しかもたない。


そしてバリアのエネルギーが空になった瞬間、

今度は機体に残っている他のエネルギー全てを使い

機体を中心とした球体のバリアを張る。

この時は勿論、機体は完全に停止する。


カプセルバリアと言われるその形態は回収されるまで、

ずっと海に浮かぶことになる。

それで撃墜されたことになるという仕組みだ。


機体とパイロットの絶対安全保障。

これがこの世界の戦闘であり、

操縦士が戦場に出る前に理解する全てであった。


ではコーティングバリアのエネルギーの減る箇所はどの部分なのか?

機体同士で接触したらどうなるのか?

エネルギーガンの射程外で減衰した攻撃は?

想定稼働時間を超えた場合はどうなるのか? 


それらは一切知らされていない。

なので、取りあえず知ってみようと思った。



◇◆◇



「これでこの項目は終わり、と……」


和弘は手持ちの端末に今しがた終わった実験データを入力していた。

画面にがデカデカと『レベル1失敗』の文字が表示されている。

既にレベル1~2での失敗回数は20回を超えようとしているが、

そもそもクリアが目的ではないので特に気にしない。


「シミュレーションとは言え、

 実機と似たような反応をするのは助かったな」


和弘が危惧したのは、そこまで知る必要もないし、

通常ならばそんな状況は起こらない為にエラーが発生する可能性である。

オペレーターを務める麻由から通信が入ってくる。


「和弘さん。項目34-B、準備できました!」


「今日はどこまでやるんだっけ?」


和弘の頭には入っているが

思い出すだけで気が滅入るので、

知らないふりをして麻由に聞く。


「40までですね」


当たり前だが気が滅入った。


(結構あるな……これサブ項目もいくつかあるわけだし)


そうは思うものの最初に予定を立てた時に分かっていたはずだ。

和弘は気を取り直し、シミュレーションを再開した。



◇◆◇



結論から言えば訓練した甲斐はあった。

まず分かったのはオペレーターの重要性だ。

辺り一面海と空、目印にする存在が無いので距離感がつかめない。

下手すると方向感覚を失って墜落しそうになった。


ついでに言えばオペレーターがいない時の為に

動かすオートサポートなんてものがあった。

ただこれが本当に最低限のサポートしか行われておらず、

逆に麻由のありがたさを知ることになったのは皮肉だが。

主に動作テスト用に使用するデバッグプログラムだろうと麻由は言っていた。


次に操作がほぼオート任せということ。

気づいてみればマニュアル操作でやっているものが無く、

自力でコックピットを開ける方法が分からなかった。


オート任せなのは整備も同様らしく、

例えばエンジンが何処にあるかということは分かっても、

そこを見る為に装甲板を外すにはどうすればいいのか、

何処を繋げればいいのか、というのが分からないというのは和弘が驚いた。

理論や理屈が分かっても実際にやるのは機械任せというわけだ。


(技術の進歩に人が追い付いてないって、

 こういうことを言うのかなあ……)


などと和弘は思ったものだが、

そういうシステムが既に日常で当たり前になっている以上、

この世界の住人にとっては和弘が言ってることこそ

見当外れの意見なのかもしれない。


「それにしても知らないことが多すぎるな……」


コーティングバリアはパイロットを守るものだが、

機体同士が接触すると干渉を起こして反発し、

お互いの機体が弾かれる上にバリアの内部エネルギーが著しく減少する他、

海に接触すると即カプセルバリアモードになってしまい、撃墜扱いにされてしまう。


オートロックオンは一定方向に

ほんの少しずらすことで牽制を容易にして相手を誘導できたり、

直撃さえしなければ一撃で堕ちることも無いので、

腕や足を盾代わりにできるなど、知らない小ネタも盛りだくさん見つかった。


どれも知らなくても良いとされるものだ。


「みんな知らなくても問題無いって言われているんですよね」


「操縦士にしても整備士にしても

 知っておくに越したことはないだろうに」


なお、これらは全て知る必要の無い知識とされており教えられることはない。

和弘の感覚ではおかしいと思うのだが、

麻由が特に疑問に思っていないので、それが普通なのだろうが、

しかしどうにも不気味さを感じざるを得ない。


とにかく、和弘のすることは世界を憂うことではない。

訓練が終われば、復習と反省、新しい発見があれば項目の追加、

今後の予定など、やることが山ほど増えた。


そのお陰が多少もあったせいか不安を感じる余裕も無くなっており、

加えて妙な充実感があった。


そんな夕食後のゆったりした時間。


「そういえばさ……」


「なんですか?」


食器を洗ってる麻由の背中を見ながら、

和弘はふと思いついた疑問を投げてみた。


「整備士って操縦士にここまでやってくれるものなのか?」


「あれ? 聞いてませんでしたか?

 操縦士って整備士より立場が上なんですよ」


この世界について(和弘が)変に思うことはいくつも聞いてきたので、

今更驚くことはないが……それでも妙に座りが悪い。


「まあ、料理は私の趣味ですけどね。

 体調管理も専属整備士の仕事です」


「整備って人も含まれるのか」


「あ、言われてみれば……!」


和弘にとってはちょっとした冗談のつもりだったのだが、

麻由に感心した言葉を返されて、少し困ってしまう。


「うん。そこでビックリされても困るんだが」


最初は操縦士である和弘の世話を焼くところから始まって、

戦闘時のオペレーター、機体の整備と操縦士のそれと比べて

掛かる負担が相当に大きいと思っていた。


しかし知ってみれば整備の実態は殆ど機械任せということもあり、

言うほど負担も重くないのかなと今は考えを改めている。

それでも操縦士と比べれば多いのだが。


(……というより、操縦士のすることが少ないのか?)


そう考えたものの、麻由からは意外な言葉が返ってくる。


「……それに操縦士と違って才能無いですから」


「才能?」


余程のことじゃなければ自分程度には

動かせるはずだ、というのが和弘の認識だ。

しかし若干トーンの下がった麻由の言葉からすると、

真実味があって嘘だとはとても思えなかった。


「私じゃ操縦方法知ってても、そんなに素早く動かせませんから」


「運動神経や反射神経ってことか?」


「私、ちょっと鈍くて……

 あ、でも一般的ですからね! 一般的!」


「その割には……」


料理とか手際いいんじゃ……と、言いかけて止めた。

和弘の世界で言う所の格闘ゲームやアクションゲームが苦手な人は一定数いるし、

そういうものなのだろうと納得することにした。

色々変な所はあるが、そういうものなのだろう。



◇◆◇



訓練艦「しょうかん」の艦長、細谷は「またこの時が来たか」と頭を抱えていた。

『餞別』と呼ばれるそれは、これから正規パイロットになるという者に対する

景気づけという意味の『悪しき習慣』である。


『餞別』は細谷が就任する前から存在したが、

その時から本来の目的からは既に遠くなり、

またその『餞別』を行う正規パイロットになる者達の評判は良かった為に、

おいそれと中止にするわけにもいかず細谷を悩ませていた。


確かに正規パイロットになる者達にはウケが良い。

しかし……


(彼らが潰れてしまわなければいいが……)


そんな懸念を抱きつつ、候補生の一覧データを抽出する。

訓練期間とクリアレベルを見ながら成果が出ない者から何人か選択する。


「仕方無いことなのだ……」


訓練艦は如何に正規の人員を送り出すかが主な目的だ。

成果を出さない者より、成果を出している者を優遇するのは当然のことだった。

そんな中で和弘達が選ばれるのは何も不思議も無かった。


初日に判定プログラムをレベル3までクリアしただけで、

残りはひたすら訓練しかしておらず、

そのどれもが精々レベル2止まりだった成績だったのだから。



◇◆◇



目の前には『レベル1クリア』の文字。

もはや失敗の方が多くなった現状だが、

彼が嬉しかったのはクリアできたことではない。


「終わったー!」


「全行程終了です!

 やりましたね、和弘さん!」


目的を達成したことが妙に嬉しくて二人でハイタッチなんかする。

通り過ぎる他の候補生が怪訝な表情を向けるが当然だ。


二人のやってることを知らない人間から見れば

レベル1をクリアした程度でこれほど喜ぶなんて、

どれだけ操縦下手くそなんだと誰もが思うだろう。


しかしここにそれを気にする人間はいない。

怪訝な表情をした他の候補生もすぐに興味ない風に通り過ぎていく。


未知のトラブルに対応することから始まった訓練は

思わぬ副産物を2人にもたらしていた。


意見をぶつけ合い、協力し合い、共同作業も一度や二度では無い。

既に一般の正規兵以上に信頼のおけるパートナーに

なっていたことに二人は気づいていない。


「それじゃ、今日は早めに切り上げて

 明日判定プログラムをやりましょう!」


「遅れを取り戻さないとな」


この後は意気揚々とリフレッシュルームに向かって、

検討兼ねた休憩を行い、ささやかだが豪華な食卓を囲む予定だった。


明日の判定プログラムで一発クリアは難しいかもしれないが、

情報を集めた限りでは十二分にクリアできる難易度だ。

問題は無いだろう。


二人してそんなお花畑なことを考えてる時だった。

艦長から直々に呼び出しが掛かったのは。


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