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外界機兵アナザイム  作者: 紅陽炎
28/31

28:空飛ぶマーメイド

レインティスプは水中を泳いでいるわけではない。

しかし確実に海の中を移動していた。

その速さはアナザイムが空中で例の移動システムを使った時と大差無い。


レインティスプの移動システムは

(麻由が言うには厳密には違うらしいが)

アナザイムとほぼ一緒と言う。


移動の際に噴射剤を使った反作用ではなく、

自分とその周辺の空間を移動させる為、

空気抵抗も無ければ慣性も無いという。

それ以上のことは和弘の理解を超えていた。


理解は超えていたが、その性能が従来の物よりも

遥かに高次元に位置するくらいは分かった。


例えば現在。

こうしてアナザイムの移動システムを使って動いているはずが、

乗っている本人達からすると、超高速で動いている認識は無い。


機体とコックピットの時空間を別に置くことで、

時間の流れを変えることで、自分の認識を、

その超スピードにあわせることができるという話だ。


ようするにスピードを上げると、

自分の認識はそのままで周囲が遅くなる、ということらしい。


それだけの機体に乗っているにも関わらず、

和弘の表情は晴れない。


(俺が乗っていてもいいのか?)


理由は簡単。

いくら強力なテツビトであろうとも、

操縦士が春日和弘であるという点だ。


例えば九条姫香。

少なくとも腕前で言えば和弘よりも上。

胆力、機転、いざという時の底力。

そのどれも勝っているとは思えない。


相手は革命軍。

その行動は人類を解放するという理屈に基づいている。

しかし世界にとって危険な行動を起こすという矛盾。

その矛盾が調停者が倒せない理由。


故に和弘と麻由が選ばれた。

目的は敵を倒すことならば……


(他に適役がいるんじゃないか?)


そういった思いが和弘の頭の中をグルグルと回っており、

自然と口数も無くなっていた。


「……ろ…ん、……和弘さん!」


麻由に呼ばれていたことに気づく。

自分の迂闊さを嘆きながら、

返事をそのままにレーダーを確認する。

そして何も問題無いことに気づいて胸をなでおろした。

海中にいる現在では補足される心配も無いし、

戦場の位置までは、もう少しある。


「和弘さん、どうしたんですか?」


「あ、いや、ちょっと考え事を……」


通信機の向こうで溜め息をつかれたのが分かった。

すぐに「あのですね……」と聞こえてくる。

若干怒っている、否、決意したような気配がある。


「い、一度しか言わないから、

 ちゃんと聞いて下さいよ……」


その決意も長続きしないのか、

段々と言葉尻が小さくなっていく。

一区切りつけ、気合を入れ直したように、

また言葉を紡ぐ。


「わ、私は、その……か、和弘さんだから良かったんです!

 和弘さんじゃなければ、きっとこんなことしてません、から……」


それでも段々と言葉尻が小さくなっていく。

また一区切り。「だから」と言葉は続く。


「和弘さんじゃなければ、だ……駄目なんです! 私は!」


通信機の向こう側、後ろにいる麻由が

どんな表情をしているのか和弘には分からない。


「わ、私だって決意して艦を抜けてきたのに、

 和弘さんは平気で追ってくるんだもん……」


「俺は今までが演技であのアクティブな行動が本当だと思ったけどな」


笑いながら返事を返す。

結局のところ、そのアクティブな行動こそが

無理をしていたということになったわけだが。


「だ、だって和弘さんが普通に生きるには……

 あれ? 扉はどうやって開けたんですか?

 戦闘が終わるまでは開かないようにしてたのに……」


やっぱりやったのは麻由だったのか、などと思いながら。


「麻由が教えてくれたじゃないか。扉抜け」


意外と天然だよな、なんてことを和弘は思っていた。

もっとも言ったら怒るので黙っていたが。


「……まぁ、俺も同じか」


どこか行動がずれている。

二人してずれてずれて、こんな所にいる。

なるべくしてなった結果と言われても納得した。

それも結果論でしかないが。


「同じって何がですか?」


「……感謝、してるよ」


照れくさくて小声で言ったが、それが聞こえたかどうか。

自然と和弘に笑みがこぼれる。

麻由に見られなくて良かった、などと思いながら。


(たったこれだけで嬉しくなるなんて単純だな、俺も……)


元の世界でも、そんなことはあっただろうか。

ただ、生まれて初めて和弘は、

ここにいてもいいんだと、そう思った。


再び沈黙が二人を包む。

さっきまでの気まずい雰囲気は何処にも無い。


深海を場違いな少女が進む。

更に場違いな戦場を目指して。



◇◆◇



突如上空から現れた謎の球体が放った

光の槍による無差別攻撃により、

戦場は大混乱に陥っていた。


何処の所属なのか?

こちらの攻撃を何も通さないバリア。

全てを文字通り破壊する火力。

テツビトも艦も――――人の命も。


それが何物かをおびき寄せる為の

供物なのだということに気づく人間は誰もいない。

当然だ。誰が自分を供物などと思えるものか。


あちこちで赤い華が先、黒い煙が吹き上がる。

数百、数千年見なかった光景に成す術は無く、

人はただ狼狽えるだけだった。


幸いとも言うべきか、

直線的な攻撃故に戦場から遠くに陣取っていた艦への攻撃は

必然的に密度が薄くなり、被害は少なかった。


勿論、被害が少ないだけだ。

戦場付近よりマシというだけで、

光に槍に串刺しにされて沈んでいる艦もある。


生き残った艦の取る行動は三つ。

無謀にも戦場に躍り出るか、臆病者の謗りをうけて一目散に逃げるか。

運よく攻撃を免れた戦闘艦『けいちつ』が選んだのは三番目の選択肢。

周りの艦の救助に回ることだった。


「おいっ! 補給艦はまだ来ないのか!?」


アートラエスの中で裕樹は通信機に

向かって怒鳴り散らしていた。


『来てるって言ったでしょ!

 送った座標が見てないの!?』


そもそも、こんな事態は想定されていない。

人命救助にしても効率が悪すぎる。

従って補給艦から救助に使えるアイテムがあるかもしれない。

そう考えて艦長の高田は近くの補給艦を呼んだのだが……


「あんなもん来てないのと一緒だろ!

 艦に戻った方が早いじゃねぇか!?」


『しょうがないじゃない!

 中に入れるギリギリの射程圏外の距離が

 今のところそれなんだから!』


効率を重視するならば、即刻後ろに引き返し、

補給艦から相応のアイテムを持ってくるのが一番だろう。

だが艦が沈み、失われるだろう人命を目の当たりにして、

それを見捨てることなど出来なかった。


しかも海に入れば一発で動作停止になるテツビトを使って、

これから海に沈むだろう人の救助は難しい。


『艦長がここから移動しないと言ってる以上、

 なんとかやるしかないだろう』


栗生の通信が割り込んで来る。

見ると栗生のアートラエスは別の艦に取り付いている。

光に槍にやられてゆっくりと沈んでいく艦の装甲を

無理矢理はがしていた。


「栗生は何をやってるんだよ?」


『これなら人が乗れるだろって、美紀がさ』


言ってる間にも栗生のアートラエスは艦の装甲板を剥がし、

それを持って甲板に避難している人達に向かう。


「そういうことか」


慌てて裕樹も艦の装甲を剥がし始める。

装甲板に乗せた人は取りあえず自分の甲板に乗せた。


『裕樹、この辺の人達を助けたら

 補給艦まで戻るって、艦長から通達よ』


「了解。……ったく、アナザイムの瞬間移動なら

 補給艦なんて、すぐなのになあ」


裕樹は最近別れた戦友のことを思い出す。

もし彼がいたら、何かしら良いアイデアが出てきそうな気がしたのだ。

無い袖は振れぬ。そんな事は分かっている。

だからこそ今は自分がやれることをやるしかないのだ。


「あーくそっ!」


いない人間を頼りにしても仕方がない。

人が艦に無事移ったことを確認すると、

次の救助に向けてトモに指示を仰ぐ。

指定された場所に向かって、再びテツビトを飛び立たせた。



◇◆◇



謎の球体の真下――――すなわち先程まで戦闘していた場所。

そこには絶望感が漂っていた。


球体の何処から光の槍が飛んで来るかも分からない。

逃げようとした所で逃げられないと分かる確信。

それはまるで銃口を突きつけられているも同然であり、

既に生殺与奪は握られていると言っても良かった。


その中で生き残っていたのは運が良かったのだろう。

その運が良かった一人である九条姫香も

周囲と同じ面持ちで上空の球体を見上げていた。


「……」


それから周囲を見渡して同じように

生き残ったテツビトを確認する。

ふと、隣に見えたテツビトが意を決して銃口を球体に向けた。


「待っ――――」


姫香が言う前に、そのテツビトは光の槍に貫かれた。

腹と背に光のオブジェを生やしたテツビトは、

鮮やかな炎とスパークを纏って爆発した。


さっきからこの調子だ。

相手は一方的にこちらを殺すことが出来るが、

こちらからは何もすることが出来ない。


ただ死を待つだけの状態。

膠着状態に耐えられず、

せめて最後の一矢を、と思った人から

何も出来ずに死んでいく。


しかし姫香だけは球体を攻撃する手段に心当たりがあった。

ディーンロソルの手を映す。

それはかつて春日和弘とやり合った秘密兵器。

超接近戦を可能とする兵器。


(エネルギーナックル……か)


しかしエネルギーナックは

普段使っているビームを手に纏わせただけだ。

それでは普通にエネルギーガンを撃っているのと変わらない。


だが姫香は知っている。

春日和弘がとった行動を覚えている。


(このエネルギーガンを……叩き付ける?)


それはすなわち物理攻撃。

既に忘れ去られた、調停者によって意図的に

伏せられていた野蛮な手段。


(いや、それならこのままぶつかった方が早いか……)


神風特攻。効果があるかも分からない。

だが現状、死を待つだけならば、

それを命を投げ捨てる愚かな行為と言えようか。


(問題はあの攻撃よね。砲台があればいいんだけど、

 そんなものは見えないし……)


さっきから見ている球体の攻撃方法。

光の槍だが、どこから飛ばしてるのかまるで分からなかった。

砲台でもあれば、そこから攻撃範囲を割り出せるし、

そこを狙おうと考えるものの、球体にそういうものは一切無い。


神風特効も相手に当たってこそ意味がある。

その前に撃墜されては、やはり無駄死にだ。

それだけは避けたかった。


そしてまた一機、離れた位置にいたテツビトが

恐れをなして艦へ逃げようとする。

しかしその後ろから光の槍に串刺しにされた。

光の槍はテツビトを貫通し、その先にいる艦までも貫いた。


着々と減っていくテツビト。

もはや姫香に猶予は残されていない。


「春日和弘なら、もっと良い案があったのかも、ね……」


姫香の脳裏に彼の姿とその機体が浮かび上がる。

敗北感だけでなく、新しい可能性を見せてくれた相手。

アイツなら起死回生の一手を思いついたかもしれない。


(でも、ここに春日和弘はいないのよね!)


特攻を決め、いざ機体を動かそうとしたその瞬間。


――――彼女の目の前に巨大な水の塊が現れた。


「うわあっ!」


この突然現れた奇妙な現象に

姫香は驚きの声を上げて反射的に手を離してしまった。

そして慌てて手を元の位置に戻す。


そうしている間にも水の塊は重力に沿って落下していく。

水が消え去ったその場所には、

長い金髪を携えたあどけない少女の姿。


「…………は?」


あり得ない光景を立て続けに見せられてしまい、

流石の姫香も理解が追い付かない。


姫香が我に返る前に、その少女は

ふわりとしたドレスをたなびかせ、

桜色の粒子を纏っったかと思うと、その場から消えた。


「えっ、あれ? い、今の……?」


ほんの数秒間の出来事。

その誰もが幻を見たと言うだろう。


しかし姫香は覚えている。

色違いと言えど、あの消え方。残された粒子。

忘れるはずがない。


「春日、和弘……?」


思い浮かんだのは因縁の機体であるアナザイム。

何故か姫香は、あれに春日和弘がいると思った。

何の根拠も無い。だがそれならば納得できる。

アイツなら、あの球体を倒せるのではということを。


そして冷静になった後。

また混乱の渦に叩き落された。


(あれっ? でも女の子だったような……

 春日和弘って男だったよね?

 でも人間が飛べるわけないからテツビトってこと?

 じゃあなんで海から出たの?

 そもそも彼が乗ってるの?

 どういうこと?)


それまでその場に留まっていた球体が静かに上昇を始める。

そこに目指すべき敵がいるかのように。

先程見えた少女(テツビト?)が切っ掛けになったに違いない。


それは直接見た姫香にしか理解出来ないことだった。

既に数える程になったテツビトと艦が見守るだけになった今、

彼女がすることは決まっていた。


「悔しいけど……逃げるなら今しかないか」


自分に出来ることは率先して動くことだけだ。

幸いにも自分の戦闘艦は光の槍から逃れていたようだ。

先に見つけていたのだから、回避行動を取れたのかもしれない。


そしてディーンロソルの動きを見た他のテツビトも

一機、また一機と艦に戻っていく。

やられてしまった艦も多く、帰る場所の無くなってしまった機体も

生き残った艦が協力して回収作業に当たる。


着艦し、姫香はその命があることに安堵した。

球体の消えた先を見て、もう一度思う。


(あの女の子、春日和弘だと思うんだけどなぁ……)


実のところ彼女の直感は真実に近い所にいた。

だが一番近い所にいたとしても、そこへ辿り着く術は無い。


この戦いは、彼女たちがいない場所で行われ、

誰も知らないように決着がつけられるだろう。


(私達は蚊帳の外ってわけか)


そして、その考えは正しかった。


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