表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
外界機兵アナザイム  作者: 紅陽炎
27/31

27:ある意味で最強

TS物が流行ってると聞いて(棒)

『最強』


それは誰しも一度は憧れた言葉。

全知全能である必要は無い。

他人より優れ、そして唯一無二の絶対の力であればいい。


分かり易いのが腕力、もしくはそれに殉ずる力だ。

『チート』なんて呼ばれる力は、

本人以外には誰も届かない場所にいることを意味する。


また、本人の能力でなければ、

それを別の物、道具に託す形でも存在する。

伝説の剣や大出力の光線を放つ大砲。

この世界ならば、テツビト。


ありとあらゆる最先端の技術を

惜しみなく注ぎ込んで出来たテツビトは、

間違いなく誰もが認める『最強』に他ならない。


そんな『最強の力』を目の当たりにして――――


(なんてことだ……)


――――和弘は頭を抱えていた。


目の前にあるのは、

今まで見てきた他のどのテツビトとも異を成す形状。

一目見ただけで分かる圧倒的存在感。

ただし、それは別の意味で、という注釈がついていた。


(これは、まるで……)


さらさらと揺れそうな金髪のロングヘアーは美しく。

その整った綺麗な顔の瞳は閉じたままに。

民族風の衣装にゆったりした長いスカート。

それはどう見ても、まだあどけない少女の姿。


(そのまんまフィギュアだ!)


巨大な女の子のフィギュア。

和弘が真っ先に思ったことはそれだった。


「……これ、テツビトだよな?」


言葉を選び、感情を誤魔化し、

なんとか和弘が出せた言葉はしかし、

拒絶の言葉ではない。


麻由だけでなく、隣の調停者も

そんな表情があったのかと思わせる程の

やり遂げた顔が眩しかったからだ。


≪ええ、あなたの言う通り、

 逆の発想から、あり得ない外観を目指しました≫


そう、それは和弘自身が(冗談のつもりとは言え)書いたものでもだった。

無責任に書いたそれを相手はそれを実現しただけであり、

恐らく外見に反して性能は相応にあるに違いない。

それが自業自得というものなのか和弘には判断つかない。


「髪の毛や服は動かすと、それっぽく動きますよ」


麻由の言葉に細かい所に拘るのは職人芸だな、などと変な感想を思う。

髪はともかく関節部も折り曲げするジョイント部を見ることはできない。

布やゴムでも使ってるのか、と和弘が聞いた所、


「伸縮する金属を使ってるに決まってるじゃないですか」


という、実に身も蓋もない答えが返ってきた。


≪まったく、あなたの発想には驚かされますよ。

 これなら話しても誰も信じませんからね≫


麻由と調停者の二人の顔、弾む声を聞く限り、

どの言葉も賞賛にしているのは間違いない。

嫌味に聞こえてしまうのは自身の心が狭いせいなのだろう。


(まぁ、でも……麻由も調停者も、そう決めたんだから

 正体まで届かないって判断したんだろうな)


噂にはなるかもしれないが、それだけだ。

それに操縦士の存在も隠すこともできる。

仮にあれがテツビトだと分かっても、

乗ってる人間は女だと誰もが思うだろう。


(俺だったら男が乗ってるとか考えたくないしな……)


バレたら変態扱いされるかもしれないが、

知る人は事情を知ってる人だろうし、

詮索なら『乗ってるのは女だろう』と返事をすればいい。

考えれば考えるほど理に適っているように思えてくる。


(物は考えようだな、うん)


そう思って、自分を納得させる。

どのみち外観なんて乗ってしまえば分からないのだし、

気にする必要は無いはずである。

後はモチベの問題だ。


性能は間違いなく現状最高峰でもあるには違い。

操縦することを考えると不謹慎ながらワクワクするの確かだし、

だだ下がりしていたテンションも徐々に上がっていく。


彼らは注文通りに作っただけだ。

それもこれ以上無いくらい全力で。

そこに悪意は存在しない。


ならば問題は和弘自身の心持ちということになる。

ここのテツビトに乗る者を笑う者がいない以上、

それを気に病むのは、ただの馬鹿だと言う他にない。


「それで、コイツを何と呼べばいいんだ?」


「レインティスプ……私が姉さんから聞いた

 御伽話に出てきた妖精の名前です」


和弘はもう一度、その女の子……否、レインティスプを見上げる。


「妖精、ね」


少しばかり大きい人形にしか見えないそれは、

妖精というよりは巨人に見えるが、

どのみちファンタジックな印象は拭えない。


(行き過ぎた科学は魔法と変わらないと言うが……)


携帯電話も昔の人が見れば魔法に見えるのだろうか。

そんなことをぼんやりと考えてしまう。


よほど呆けていたのだろう。

麻由が目の前にいることに気づいた時には、

長い紐のようなものを首に掛けられていた。


「なんだこれ? ……ペンダント?」


「私からのプレゼントです」


中央にある飾りは桜の花びらをモチーフにした形をしている。

桜の部分は光沢のある銀色だが、仄かに桜色に光っており、

本当にそういう色がつけられてるのかと錯覚する。


「……なんて、レインティスプに乗る為に必要なキーなので、

 無くさないようにしてくださいね」


照れくさそうに笑う麻由も似たようなペンダントを身に着けていた。

ただ桜ではなく三日月の形をしたものだ。

やっぱり仄かに月を思わせる光を放っている。


「大切にしないとな」


麻由から貰ったプレゼントと言うこともあり、

プライベートスペースに収納しようとしたものの、

一向に収納される気配が無い。


「何か特別な素材なのか?」


「それデータ媒体じゃなくて実物ですから。

 首に掛けていて下さい」


バツが悪そうに頭をかく。

そこに思い至らない辺りは、

この世界に慣れているという意味でもあるが。


「じゃあ、乗りましょう」


≪テストは済んでいます。

 あなたにはこのまま出撃して貰いますので、そのつもりで≫


調停者の言葉で和弘はようやく自分が乗るものだと自覚した。

そもそも目的にしろ、和弘の役目にしろ乗った後の話だ。

乗る前から逡巡するなど論外である。


(ま、外見がどうこう言えるのも今だけだな)


如何に外見がファンタジックであっても、

中に乗る以上、そりゃもう本体が割れるしかないし、

機械的な中身が見えれば、今の浮ついた気持ちも

吹き飛ぶに決まっている。


しかし、そんな和弘の思いとは裏腹に、

麻由は無造作にレインティスプに近づいていき、

そのまま体をめり込ませていった。


「んん……!?」


そのまま埋もれて見えなくなってしまった麻由の姿に

和弘はギョッとして立ち止まってしまう。


「和弘さん、何やっているんですか?

 そのまま入れますから」


スカート外側からそのままニュッと麻由の首が出てくる。

スカートに生首がくっ付いてるような姿は、とてもシュールだ。


「ど、どうなってるんだ!?」


≪空間をずらすことによって……≫


「細部は違っててもいいから、俺に分かり易く頼む!」


例えるならレインティスプ自体が

立体的なワープゲートのような感じということだった。

麻由の消え方はゲートに消えていくそれだ。


こう言えばSFみたいだと思うが、

しかし見え方はファンタジーとしか思えない。


(うーん、SFとファンタジーの違いが

 見た目だけと言うことになりかねないな……)


無論、違うジャンルとして確立している以上、

ルーツを辿るなり、もう少し知識があれば違いは分かるのだが、

残念ながら和弘にはそこまで造詣が深くなかった。


「……頭いい奴の発想はわからんな」


「和弘さんがそれ言いますか!?」


≪春日和弘、まさか怖いのではないでしょうね?

 桜木麻由はこうして入っているから、

 躊躇う意味が分かりませんが≫


「い、いや、そういう意味じゃ……」


調停者に急かされて恐る恐る和弘も手を触れる。

だがスカートに触れた感触は無い。

意を決して、そのまま足を突き出し体を中に入れる。


中空に放り出された足は地に振れてたたらを踏む。

顔がスカートにぶつかると思った瞬間、

その景色はコックピットへと姿を変えた。


コックピット内の操作系統の配置はアナザイムと同じだ。

モニターは広く取られ、その空間はかなり広い。

と言うより、明らかにレインティスプよりも大きい。


「驚きましたか?」


後ろからの声に振り向くとそこには

座席の背を乗り越えてる麻由の姿があった。


「空間操作の技術を使って、

 外側と内側の内容量をずらしました。

 つまりですね……」


「言いたいことは理解出来たけど、

 言ってる内容は理解できないから、それ以上はいいや」


得意気に説明しようとする麻由を手で遮った。

ようするに中が広くなったのは

ちゃんとした技術に基づいた理由があるということだ。

そしてそれ以上言われても分からない。悲しいことに。


「あれ……?」


良く見るとコックピットのシートは二つあった。

背合わせに設置しているから見えなかっただけで、、

反対側には別のモニターや和弘の知らない計器類が並んでいる。


「麻由も乗るのか?」


「海の底じゃサポートも出来ませんよ。

 反対側だと声も聞こえにくいので基本的には通信を使います。

 和弘さんにとってはいつも通りでOKです」


言われてみれば確かにそうだ。

それにしても複座式とは言え変わった構成である。


麻由を上、和弘を下に設置して麻由の足を

和弘の肩に掛けて……というのは冗談だとしても、

どうせなら前後に置いてもいいはずだ。

後ろからなら和弘の様子も見れるだろう。


「それはその……酔っちゃうので」


麻由はそう言った和弘の言葉を苦笑して否定した。

言われてみれば納得かもしれない。

酔うかどうかはさておき、気にする部分が余計に増えて

サポートが疎かになるようならば本末転倒だ。


「武器は?」


「詳しい話は移動中に説明しますが、

 調停者のエネルギーガンを持っていきます」


和弘は以前の戦闘で使われた時の事を思い出して身震いした。

そして殺し合いに行くのだと念押しされた気がして気が重くなった。


(あの一撃でテツビトを吹き飛ばす出力のヤツか。

 本当に命の奪い合いをやるのかな……)


気を紛らわす為に目の前の機器のスイッチを付けていく。

配置がアナザイムと同じだし、テツビトを操作するのが

日常となっている今では、何処を動かしていいのか分かっているつもりだ。


広くなったモニターに映し出されたのは、

普段見慣れた金属の鯨の中だ。

他にもいくつかチェックして動作することを確認した。


「操作はアナザイムと一緒か。違うのは外見だけか」


『だから、そう言ってるじゃないですか』


通信機から麻由の声が聞こえる。

そちらの方も上々のようだ。


「いや、悪いね。

 あんまりにも人……というか、

 テツビトのイメージと違うからちょっとね」


『そうは言っても、やっぱり人と違う部分もありますよ』


「へぇ、どんな?」


『まずスカートがめくり上がりません。

 ふわふわ感には拘りましたけど。

 あと、立体データの応用でスカートの中は

 見えないように工夫しました』


どうでもいい所を拘ってこそ匠と言うとか言わないとか。

そんなことを和弘は思ったが、後ろで麻由が

得意気な顔をしているだろうなと容易に想像出来たので、

苦笑するだけにとどめておいた。


和弘の様子に気づくことなく麻由の力説は続く。


『表情もちゃんとつくんですよ。

 なんと、そこに座ってる和弘さんの表情がそのまま――――』


それを聞いた瞬間、今まで適当に流していた和弘が、

後ろに身を乗り出した。


「よし、麻由。場所交換だ」


「ちょっ、何言ってるんですか!

 大体、私に操縦できないし、和弘さんだって

 サポートしたことないじゃないですか!」


じたばたと和弘の出す手を、わたわたと追い払う麻由。

いつまでも終わらないと判断したのか、

それを止めたのは調停者の声だ。


≪お二人とも、いちゃついてる場合じゃありません。

 時間はもう無いんですよ≫


その言葉には呆れたようなニュアンスが含まれていた。

感情の含まれない機械で作ったような不自然な声だが、

ここ数日の生活で意思疎通は慣れたものだ。


「表情対応については後で話すからな!」


和弘はレインティスプを調停者の指示に従ってカタパルトに乗せる。

操作感覚はアナザイム以前のテツビトと変わらない。

あれほど気になる外見も乗ってしまえば見ることもない。


(さて……)


冗談を言い合える時間はここまでだ。

これから行く所は未知の領域だ。

和弘の顔が険しいものに変わる。


少女の顔がその外見に似合わない表情を浮かべているが、

そんなことは既に和弘の意識には無い。


隔壁が閉じて注水が開始される。

今回の相手に対抗出来るのはレインティスプだけという判断の為だ。

そしてレインティスプが水中でも活動出来るならば、

わざわざ鯨が浮上することはない。


水が満たされ、外の水圧と同じ状態にしてから射出される。

物理法則は変わらない以上、技術が進んでも変わらない所もある。


≪出発前にひとつ聞かせてくれませんか?≫


「何を?」


≪何故、あなたが私達に協力する気になったのですか?≫


通信機越しで麻由の息を飲む雰囲気が伝わってきた。

これは麻由が聞きたかったことを伝えただけなのか、

それとも本当に調停者の興味なだけなのか、


「今、それを聞くのか?」


≪今しか聞けないと判断しました。

 桜木麻由が望むのら、私達を倒すのが一番ではないですか?≫


「確かに普通の物語なら、真の自由とやらを手に入れて、

 自由を手にしたぞ、で終わるのがパターンなんだろうけどな……」


当然、和弘なりの理由はある。

ただ、あまり言うほど前向きな理由でも無い。


和弘は常に自分がこの世界の人間では無いと思っている。

だからこそ調停者を打ち倒すのは、自分ではなく、

真にこの世界の人間でなければいけないと。

そういう人間がいると信じたかったというのもある。


「その後が一番大変だからだよ。

 あんた達を倒して戦争を収拾させる自信も無いしな」


だから、それだけを言うことにした。

しかしこれから和弘が戦うことになるだろう相手は、

この世界について考えていた人間である。

そういう人物を倒してしまっていいのだろうか。


だが、和弘はその問いをあえて無視した。

調停者が直々に出る必要は無いと判断する以上、

何かあるのだろう。


『和弘さん、射出準備完了です。

 カウントダウン、20からスタートします』


いつの間にか注水は完了していたようだ。

上を見上げると射出口が見える。

普段は砲弾のように飛ばされているが、

この鯨は上空に飛ばすものらしい。


「行くか……」


≪ご武運を≫


魚一匹、生物すらいなくなった静寂の世界。

深海を泳ぐのは一頭の鯨の姿。


その鯨の頂点から潮吹きのような形で、

一人の少女が放たれる。

水中で泳ぐにはまるでそぐわない衣装を着て。


相応の知識があるならば、それは異常な光景だろう。

しかし、それを見ることが出来る存在は何処にもいない。


上空に飛ばされた少女は、

その周囲に粒子をまとったかと思うと渦を巻いて消えた。

残留した粒子は、すぐに色を失って消えていく。


その粒子の散り様は、桜の花びらを思わせた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ