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外界機兵アナザイム  作者: 紅陽炎
25/31

25:気になるあの人あの事情

桜木麻由は姉である桜木美月から

直々に手ほどきを受けていたとはいえ、

今まで誰も理解できなかった彼女の技術を

扱えるくらいの才はあった。


そんな彼女が自他共に今まで価値を見出せなかったのは、

これもまた桜木美月の才能が眩すぎたこともあるが、

この世界のシステムによって、操縦士も得られなかった為に、

整備士になれなかったことも原因のひとつとして存在する。


ようするに桜木美月がいた頃は、

妹であるが故の、彼女の付属品でしかなかったわけで、

ただ何の意思もなく、後ろを歩いていれば良かった。

当時は意思が無かったせいか、その頃の記憶が曖昧だ。


姉はいつも正しかった。

姉のパートナーである春日和弘は頼もしかった。

何も考えなくても特に問題は無かった。


しかし春日和弘が死んでから、彼女の環境は一変する。

新しく呼び寄せた春日和弘を自分に押し付けて、

桜木美月は行方不明となったのだ。


調停者の話を聞いた今、恐らく彼女と調停者で

何らかの話があったのだろうと推察できるものの、

あの当時はとにかく混乱したものだ。


何も知らない自分が、何も知らない相手にどう接するか迷ったが、

幸いというか整備士の真似事ならば自分にも出来る。

ただ誰もが初めてのことだったので、

押し付けられた自分が率先して何かするしかなかった。


取りあえず質問に答えるなり、

ちょっとした秘密を共有するなりすれば、

相手もある程度信用してくれるかもしれない。

そう考えてドアの開け方も裏技含めてこっそり教えておいた。


それからあの楽しかった日々に至る。

潰えたとはいえ、かつて自分が目指していた道。

こっちの春日和弘も良い人だし、仮初でも楽しかった。


だからこそ夢から覚める時は、潔く身を引こうと決めていた。

自分は本当の整備士ではないのだから。

更に言うならば、こちらの春日和弘も優秀だ。

少なくとも相応の成績は残している。


優秀な操縦士は貴重だ。

自分がいなくなれば、今度こそちゃんとした整備士が着くことになり、

名実共に、この世界の住人となるだろう。

この世界に住むに当たり、本人の確認も取ったから大丈夫なはずだ。


後は自分が消えるだけ。

そのはずだった。


「……なのにどうして追って来たりしたんですか!?

 和弘さん、死ぬところだったんですよ!?」


「いやいやいや、そりゃ麻由も同じだろ。

 ……って、なんで途中で切れてるんだよ」



◇◆◇



和弘がアイデアを出し、

それを元に麻由が桜木美月の技術を煮詰め、

建造は調停者の方で行うことになる。


最終調整は和弘と麻由が行うが、

大規模作戦までにどれだけの時間が取れるのかは

若干の不安がある。


一つ言えることがあれば、

建造している間は二人とも暇だということだ。


和弘からすれば話をするなら今しかないと思った。

場違いだろうがなんだろうか、この機会を逃したくないと。


ところが蓋を開けてみれば、

何故か麻由から話が始まって、

何故か何故か麻由が謝罪する雰囲気になって、

何故か何故か何故か麻由に怒られてるという。


そもそも和弘からすれば身に覚えがない事で謝られても

それはそれで戸惑ってしまうのだが。


ただ和弘は言い訳も無く怒られるままに甘んじていた。

空回りが多分にあったにせよ、

麻由は和弘の事が考えていることが分かったからだ。


少なくとも同じ時に「ああ、もうすぐ死ぬんだな」などと

思っていた和弘が口を挟めるはずもない。


(自分勝手なのは俺の方か)


麻由が和弘の下を去ることを決めたのは、

和弘が自分の事を調べ始めたからだと麻由は言った。


(死ぬと決めていたのに、自分のことが知りたいとか、

 どこまで中途半端なんだか)


心の中で自嘲する。

しかし、このまま自己嫌悪していたら、

自分が何も話せないまま終わってしまうと考え、

無理矢理自分を奮い立たせて、言葉を返す。


「ただ、麻由もせめて一言でも話して欲しかった」


和弘が言いたかったのは、この一言だけだった。

恐らく今回二人で腹を割って話していれば解決していた問題だ。

そしてそれは麻由も分かっていた。


「ご、ごめんなさい……」


問題を解決するかしないかよりも、

良かれと思ったことで重い後悔を引きづるのは流石に嫌だ。

それはこうやって話合ったことで得られた二人の共通事項だった。


(多分、二人して抱え込みそうな気がするけどな)


(でも、私も和弘さんも抱え込むんだろうな……)


そして二人とも心の中で付け加える。

正しいと分かっていても、やらないだろうということも、

なんとなく二人して分かっていた。


お互いに隠していることもある。

言いたくても言葉にならないこともある。


でも、それで良かった。

ただのまやかしかもしれないが、

分かりあえた気がした。


今はそれだけでいい。


だから二人で笑った。

楽しかったあの時と同じように。


わだかまりは、もう無かった。



◇◆◇



≪食事です≫


トレイには錠剤一錠とコップ一杯。

錠剤を口に放り込み、水を飲み干すだけ。

ここに来てからの二人の食事だった。

一日に二回、食事と言えるか怪しい献立。


味は無いが、栄養価はしっかり取れるようで、

お腹が空いたとも喉が渇いたとも思ったことは無い。


「前から言ってるけど、普通の食事もしたいなぁ……」


≪前から言ってますが、

 そのようなエネルギープラントを

 私達は必要としませんので≫


「あんた達作ったヤツの中に

 一人でも食通がいれば良かったのに」


≪残念ですが必要性がありません≫


もう何度目かになる問答。

和弘も普通の食事が出るとは思っていない。

毎日これだと、やはり愚痴りたくもなる。


「こんな風に不満溜めるから戦争起こるんじゃないのか?」


≪終わったらしっかり料理を食べさせてあげますので、

 今は我慢して下さい≫


ただ、この日は少しだけ勝手が違っていた。

いつもは傍観している麻由が話に加わってきたのだ。


「……戦争って止めることが出来ないんですか?」


≪いきなりな話題ですね。何故そう思うのです?≫


人間らしい仕草で肩をすくめる調停者を気にせず、

麻由は話を続ける。


「いえ、大規模作戦の時に革命軍が行動を起こすのなら、

 それ自体を無くせればいいんじゃないかなって思ったんです」


そういえばここに至って戦争について

聞いていないことに和弘もようやく気が付いた。

既に戦力は決定的なまでに差が開いているのだから、

無理矢理にでも終わらせることも出来るはずだ。


「そうだな……人による世界を作るなら、

 戦争が終わった後でもいいはずだ」


この時、和弘が思いついたのは

ゲームによくある格闘大会で

優勝者が世界の代表といったものだった。


脳筋が世界を導くのもそれはそれで違うが、

考えればもっと平和的な解決方法もありそうではある。


≪そうですね。それを説明するには……≫


そう言って少し考える動作をした後、再び顔を向ける。

それは本当に無駄に人間らしい動きだった。


≪艦やテツビトのエネルギーって、

 どうやって生み出しているか知ってますか?≫


「テツビトはエネルギー供給ケーブルを

 繋ぐだけって言うのは知ってるが……」


≪そのエネルギーの元ですよ≫


質問を質問で~などと言いたくもあるが、

和弘は黙って従うことにした。

自分より賢いヤツの言うことだ。

そんなことくらい百も承知だろう。


「火力発電や原子力発電とかか?」


≪今言ったものは古すぎて

 とても使えたものでは無いですね≫


「……そうですか」


科学技術が進んでいることを実感しつつも、

未来の技術など和弘は何も知らない。

こうなってしまうとお手上げだ。

それに答えたのは麻由だ。


「水ですね。海水を使ってます」


「海水?」


聞けば補給艦には当然ある設備だと麻由は言った。

しかし和弘の貧相な頭でも、海水でエネルギー的なものを

生み出せた話は聞いたことが無い。

やっぱり超技術があったりするのだろうか。


≪急激な地殻変動によって、

 地上……いえ、海以外の物は全て飲み込まれています。

 しかし地殻変動によって食われたエネルギーは

 海水に浸透を始めたのです≫


「……すると、どうなるんだ?」


「簡単に言うとエネルギーが取れる水になったってことです」


相変わらず難解な説明に麻由が補足をしてくれた。

本当に彼女には助けられてばかりだ。


(海水が超海水になったようなものか)


そして自分の知ってる海水と違うことに和弘はゾッとした。

麻由を助けたあの時は、外に出たはずだ。

海水も微量ながら浴びてるかもしれない。


≪御心配なく。水ぶくれするほど浴びるならともかく、

 多少掛かったくらいじゃ人体には影響ないでしょう≫


どのみち異常はものはこの艦に乗った時点で

チェックはしていると調停者は笑って言った。


(そういえばベッドに寝かされてたな。

 何故か森だったけど)


それにしても全然話が見えてこない。

確か戦争を終わらせることが

出きるかどうか、だったはずだ。


≪この海中のエネルギーですが、

 徐々に増え続けてまして、放置しておくと

 重力場が乱れて地球が崩壊すると計算が出ています≫


「……は?」


エネルギー問題が唐突に地球崩壊まで

話が飛んだことに和弘の目が点になる。

麻由の方を向くとその顔は真剣だ。


「エネルギーを常に使わせる為には、

 今の状態が一番ってこと……ですか?」


≪大規模作戦も調整の一環です≫


流石にこんな冗談を調停者がつくとは思えない。

メリットが無いし、もっとマシな嘘をつくだろう。


ただ、今の話で和弘も納得できる部分はあった。

コーティングバリアとそれを貫けない武装。

無駄のように見える効率の悪いカプセルバリア。

今の説明で一応は筋が通る……ような気がする。


「でもカプセルバリアは何とかならないのか?

 あれ、動けなくなるし、バリアは中途半端だし」


()()()()が間違えて殺してしまったら大変でしょう?≫


和弘の何気ない一言に対する答えだったが、

これだけで和弘は大体察してしまった。

言葉だけなら、ただの一般論だが、

調停者が一部分を殊更強調すれば和弘にも分かる。


(ああ、なるほど)


彼らはやはり機械だ。

そしてどこまでも調停者だった。


きっとそれは正しいことなのだろう。

この世界にとっては。


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