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WANTED

「同志、旅に必要な物は何だと思う?」


 俺達は再び街中へ繰り出している。

 恥を忍んでランディに銀貨を50枚返して貰った。

 買いたい物は色々あるが、長旅に備えて必要物品を揃えるのが先である。

 通りに並ぶ露店を同志と二人で見て回る。


「食い物だろ?」

 

 銀貨50枚の内、すでに20枚が消えている。

 その全てが干し肉になっていた。

 同志に預けた事を後悔せざるを得ない。

 

「食料も大事だが、水を入れる革袋。調理をするならその道具。食器類。風雨を避ける為の外套も必要だ。あと干し肉以外にも食い物はある」


 日持ちはするかもしれんが、そもそもアイテムボックスの中にあれば腐ったりはしない。

 持ち運びに適さない大きな物でも構わないのだ。

 干し肉にこだわる理由が分からん。

 栄養も偏るしな。

 不味いしな。

 硬いしな。


 残った金で、パンとチーズ。何種類かの豆とジャガイモに似た根菜類を購入する。

 指名手配されている関係上、外套は顔を隠せるようフード付きの物を選んだ

 こっそりとワインや果実酒を買ったのは内緒だ。

 

 


 一通り買い物を終えた時、後ろから声を掛けられた。

 振り向いた先にいたのはヴェリオールだ。

 手綱を持って馬を引いている。

 商売道具は持っていないようだ。


「ヴェリオールさんじゃないですか」


「何をやっておられるんですか、お二人とも‥‥」


 ヴェリオールは呆れたような顔をする。


「今や、あなた方はお尋ね者ですぞ。こんな昼間から堂々と‥‥」


 なんと、俺達の事はもう知っているらしい。

 まだギルド関係者にしか知られていないと思っていたのだが。

 そんな俺達の表情を見てか、ヴェリオールが説明をする。


「先ほど商業ギルドから連絡を受けました。冒険者ギルドを崩壊させた男女の二人組みに気を付けろと」


 言いながら、ヴェリオールは周囲を用心深く確認する。


「その二人の名前が、あなた方、お二人のものでした」


「もう、その話も広がってるんですか‥‥」


「‥‥では、事実で?」


「事実です」


 答える俺にヴェリオールが眉をひそめる。


「何故、そんな真似を‥‥」


 俺は今までの経緯をなるべく簡潔に伝える。

 静かに聞いていたヴェリオールも最後まで聞き終える頃には憤怒の表情へ変わっていた。


「なんたる傲慢! それが冒険者ギルドのする事か!」


 大声で怒りを吐き出す。

 拳を握り締め、何も無い空中を何度も何度も殴りつけるような動作をする。

 

 目立つからやめろ。


 髪の無い頭を引っ叩いて落ち着かせる。

 

「失礼、取り乱しました」


 本当だよ。


「しかし拙いですな。冒険者ギルドを敵に回しては命がいくらあっても足りませんぞ」


「わざわざ俺らみたいなのを狙う奴なんていねぇよ」


 同志が「無い無い」と手をヒラヒラ振る。


 同志の言い分も尤もだ。

 自分で言うのも何だが、俺達のやった事は凄い。

 正面から冒険者ギルドに殴り込み、そこにいた多数の冒険者達を蹴散らした上、ギルドマスターと竜殺しパーティまで秒殺している。

 いや、あれ秒殺と言っていいのか?

 まいっか、楽勝だった事には変わらないしさ。

 とまあ、こんな強ぇ俺様達に立ち向かう連中が、どこにいるんだって話だ。


「そうでもありませんぞ。お二人には高額の賞金が懸けられております」


「賞金?」


「左様。懸賞金です」


「へぇ、いくらですか?」


「それぞれに金貨五千枚。二人合わせれば一万枚です」


「ぶふぉ!?」


 思わず変な声が漏れる。


「一人、金貨五千って‥‥すっごく高いんじゃ?」


「この街の領主の館を建てる時に掛かった費用が金貨二千枚と聞きます」


「えっと‥‥つまり?」


「どえらい額です」


「‥‥はは」


「金の為なら命をも捨てられるのが冒険者です。いえ、冒険者だけではありませんな。

 この情報は他のギルドや各地の領主、貴族達にも伝わります。賞金や名声欲しさに襲ってくる者は限りが無いでしょう」


 ヴェリオールから聞かされる内容はかなり深刻だ。

 気の休まる時が無い。

 どこにいても狙われ続けるというわけだ。


「今はまだ容姿についてまで詳しく知られていません。ですがそれも時間の問題。急いで街から逃げるべきです」


「あ‥‥ああ、どうせ旅に出る予定だったしな」


 だが、そうなると城門付近は兵が目を光らせているはずだ。

 領主へは真っ先に報告が行くだろうし、賞金の話を聞いた冒険者達が待ち構えているかもしれない。

 

「城門を抜ける方法はありますか?」


 ヴェリオールに意見を聞いてみる。


「厳しいですな。普段ならともかく、今は厳戒態勢が敷かれています。一筋縄ではいきますまい」


 そりゃそうだろうな。


「馬車の荷台に隠れさせて頂くわけにはいきませんか?」


「馬車がありません」


 そうでした。


「それに‥‥申し訳無いのですが、お二人の逃亡を手助けしたとあっては私も死罪を免れません」


 ヴェリオールが頭を下げる。

 そうか、手伝ったのがバレたら死刑になるよな‥‥。

 くっそ‥‥。

 どうすりゃいいんだ。




 一応、同志にも聞いてみる。




「壁を登ればいいんじゃね?」


「登った上に兵士がいます」


「夜に登ればいいんじゃね?」


「夜にも兵士はいます」


「空を飛べばいいんじゃね?」


「そんな魔法はありません」


「地面を掘ればいいんじゃね?」


「そんな魔法はありません」


「使えねぇな!」


「ロードスリーの魔法は戦闘用ばっかりなんだよ‥‥」


 舌打ちする同志に説明する。

 なんで俺が謝らにゃならんのだ。


「なら方法は二つだ」


「ほう?」


 全く期待していないが、とりあえず話だけは聞いてみる。


「作戦一、正面突破。強引に押し通る。一番手っ取り早い」


「まあ、それは俺も考えた」


 何も考えが浮かばなければ、不本意ではあるが、それしか道は無いだろう。


「作戦その二」


「うむ」


「人質作戦」


「具体的に頼む」


「そのオッサンを人質にして、『動くな、動くとコイツをぶっ殺すぞ!』と脅しながら門を開けさせる」


「‥‥ほぉ」


「兵士は仕事だからやむなく警備しているだけで、本心じゃ俺らみたいな化け物とは戦いたくないと思っているはずだ。住民が人質にされていたので手が出せなかったと『戦わなくていい理由』を与えてやるのさ」


「なるほど」


「それに、この案だとオッサンは被害者という立場だから、死罪にはならんだろう」


「悪く無いな」


「作戦その三」


 まだあるのか。

 二つじゃなかったのかよ


「おとり大作戦!」


「ほう、陽動か」


「まず、ヴェリオールのおっさんが城門前で暴れる」


「あ、もういいです」



 二番目の人質作戦に決定した。

 もし、途中で作戦が失敗した場合はヴェリオールを放り捨て、作戦一の強行突破へ変更するという形を取る。

 ヴェリオールは顔を引き攣らせていたが、作戦には参加してくれるようだ。

 








 作戦実行は東門で行う。

 俺達がこの街に入って来たのは西門だ。

 丁度、反対側になる。

 東に決めた事に特に理由は無い。

 単純に一番近かったからだ。


 城門の周囲には重装備の兵がズラリと並んでいた。

 相当に厳重な警備である。


「では行きます。ヴェリオールさん、しっかり頼みます」


「ああ‥‥神よ」


 ヴェリオールが祈りながら城門へ向かう。

 それを俺達は少し離れた場所で見送る。

 門兵がヴェリオールから身分証を確認する。

 ヴェリオールが門を抜ける事には何の問題も無い。

 門兵が下がり、ヴェリオールが歩き出す。


「いくぞ、同志!」


「おうよ!」


 大声を上げながら城門へと走る。

 気付いた兵達が槍の穂先をこちらへ向ける。


「止まれ! 何者だ!」


 だが止まらない。止まれない。

 兵達を突き飛ばしてヴェリオールに走り寄る。

 同志が羽交い絞めにすると、俺は首筋に剣を当てた。


「動くんじゃねぇ! こいつがどうなっても知らんぞ!!」


 出来るだけドスの効いた声で周囲を威圧する。

 何事かとあちらこちらから兵士達が集まってくる。

 俺達の姿を見て何人かが大声を張り上げている。

 門兵達には容姿が伝わっているようだ。

 好都合だ。


「ごちゃごちゃ言ってねぇで、もっと下がらんかい! このオッサンをぶっ殺すぞ!」


 兵達はお互いに顔を見合わせながら思案している。

 その表情には怯えの色が見える。

 おそらく、俺達を街から逃がすなと厳命されているのだろう。

 だが、相手は冒険者ギルドを半壊させるような連中だ。

 普通の神経をしていたら戦おうなんて考えるわけがない。

 幸いにして、俺達は人質を盾にしている。

 人質の人命を優先して見逃したという事にしておけば、兵達の面子も立つ。

 わざわざ攻撃を仕掛ける奴はいない。

 

 兵達を威嚇しながら、ゆっくりと城門を抜ける。

 俺達以外に動く者は誰もいない。

 

「よぉし、もういいだろ。行け!」


 ヴェリオールには悪いが、尻を蹴飛ばして兵達の方へ押し出す。

 彼は一目散に門兵に向かって走り出した。

 足を縺れさせて何度も転倒しながらと芸が細かい。

 

 ヴェリオールは兵に保護され、俺達は街の外へ。

 作戦成功だ。

 

 同志と二人で高らかに笑いあう。

 きっと今の俺は悪い顔をしてるんだろうな。




 突然『危険察知』が発動する。

 慌てて周囲を見回す。


 「避けろ!」


 同志が叫ぶ。

 後ろを振り向くと、何十本という矢が俺に向かっていた。

 慌てて剣で振り払おうとして気付く。

 普通の矢ではなく、炎で形作られた魔法の矢であることに!

 『火炎短矢(ファイアボルト)』だと!?

 いきなりの事に反応が遅れ、何本かの矢の直撃を受ける。

 魔法耐性の数値が高い事と『炎ダメージ半減』スキルがある為、ダメージはほとんど無い。

 それでも攻撃を受けたという事実に軽く動揺する。

 魔法が飛んできた方角は城門がある側だ。

 赤い外套が四つ視界に入る。


「赤の竜殺しか‥‥!」


 冒険者ギルドで倒した四人が城門から姿を見せる。

 リベンジに来やがったのか。

 連中は冒険者ギルドで会った時とは違い、すでに臨戦態勢に入っていた。

 表情に以前のような余裕は見られない。

 俺達を本格的に討伐対象として認識しているようだ。

 装備も昨日と少し違う。魔法への対策を取って来たか。

 話し合いなど通用しないだろうな。


「同志、やるしか無いぜ」


「今度は巻き込むなよ」


 ああ。

 ここは城門の外。

 周囲への被害を考慮しながら力を抑える必要もない。

 前回は見逃した。

 だが、今回は殺すかもしれない。

 そして、無用な戦闘を持ち込んできたこいつらを生き返らせるつもりも無い。


「二度目は無いぞ、竜殺し!」


 俺に魔法をぶち当ててくれた魔導師の女を標的に据える。

 女は突進してくる俺を見て、少し揺らぐ。

 だが、避けようとはしない。

 俺の軌道上に馬鹿デカイ剣を持った赤髪の少年が立ちふさがる。

 こいつで時間稼ぎをするつもりらしい。

 勿論、そんな暇を与えてやる気は無い。

 一撃で仕留めるつもりで胴を凪ぐ。

 少年は、それを器用に大剣で受け流す。

 続けざまに今度は首筋を狙う。

 が、少年は僅かに身を屈めただけでかわす。

 屈んだ少年の後ろから、女が何かの魔法を唱えているのが見える。

 詠唱を中断させたいが目の前の少年が邪魔で通れない。

 剣を持つ手の逆手で魔法を放とうとすると、一転して少年が攻勢に入る。

 俺の魔法が危険だと知っているからだ。

 厄介な男だ。


 だが、それでも俺の方が強い。

 剣の速さも、一撃の重さも俺の方が数段上だ。

 事実、奴は俺の攻撃を捌ききれず、少しずつ傷を増やしている。

 奴の攻撃は俺の強力な守備力に弾かれ、ほとんど通っていない。

 このまま押し切るのも時間の問題だ。

 しかし女の魔法が気になる。

 少年に斬られるのを覚悟で女へ突っ込む。

 案の定、巨大な大剣が俺の胸部を切り裂く。

 

 周囲に血が飛び散る。

 結構痛かったが、傷は後で癒せば良い。

 そのまま女に向かって走り込むが、一瞬遅かった。

 魔法の詠唱が完了する。

 女の放ったのは火炎魔法だろう。

 『ロードスリー』には無い魔法だから名前は知らない。

 俺の周囲10メートル四方の地面から巨大なマグマが噴出し、俺を飲み込む。


 馬鹿な!

 自分ごと焼き殺す気か!?


 この距離で広範囲魔法を使ってくるなんて予想もしていない!

 俺の傍には仲間の少年だっているんだぞ!?

 何を考えていやがる!


 だが、その答えはすぐに出た。

 少年は平然とマグマの上を歩いているのだ。

 魔導師の女も火傷一つしていない。

 炎ダメージを無効化するような何かを持っているのか?

 そうか!

 あの、赤いローヴか!?

 やってくれる。


 同志はというと、同じ暗殺者である長身の男と、戦斧を振るう巨体の男の猛攻に押され気味だ。

 一つ一つの動きは同志の方が速い。圧倒的に速い。

 だが、長身の男は素早く動いたかと思うと急に緩慢な行動を取る等、緩急のある動きで翻弄している。

 一方で巨体の男は只ひたすらに斧を振り回す。

 動きは単調だが、驚異的なリーチの長さと一撃に込められた威力は計り知れない。

 長身の男に気を取られていると、遠い間合いから強烈な勢いで斧が振り下ろされる。

 この二人も相当な実力の持ち主のようだ。



「まあ、俺らには敵わないけどな」


 俺はマグマから這い出すと、少年の大剣を身体で受け止める。

 ちょっとダメージが入った。

 血が噴出す。

 少年が驚いたような顔で、間合いを開ける。

 女は再び魔法を詠唱し始めた。


「死んでも恨むなよ」


 剣なんて届くはずもない距離で、ゆっくりと剣を振り下ろす。

 すると少年が崩れ落ちる。


「え?」


 魔導師の女が声を上げた。

 何が起こったのか理解できないのだろう。

 少年は胸を切り裂かれて倒れていた。

 周囲に血溜まりが広がっていく。

 だが、息はあるようだ。

 あれで死んでいないとは流石だな。


 今のは剣術スキルの『真空斬』だ。

 高速で振り下ろした剣が真空の刃を作ってどうのこうのって奴だな。

 無論『ロードスリー』の技である。

 だが『ロードスリー』はゲームだ。

 それもVRRPGである。

 VRなんだから、プレイヤーが自分で動かないと、キャラクターは動かない。

 けれど、真空を作れる速度で剣を振れる奴なんていない。

 それでは『真空斬』というスキルの存在する意味がない、

 それどころか、ほとんどのスキル技が使用できない事になる。

 だから、スキル技は『発動条件』というものがある。

 条件さえ満たせば、スキル技が発生するというものだ。

 『真空斬』の場合であれば、剣を装備した状態で、『真空斬』と頭で唱えて剣を振るうだけでいい。

 『発動条件』に剣を振る速度は含まれていない。


 俺がゆっくりと剣を振ろうと、条件が満たされている以上『真空斬』が発生するわけだ。

 勿論そんなこと相手が知っていようはずが無い。

 少年が突然倒された事で、女は戦意を失ったようだ。


 同志はどうだろう。



「効かねぇな~」


 側頭部と首、腹部に短剣が刺さっている。

 ついでに巨体の男の斧が胴体を真っ二つにしたところだ。

 正確には斬られた部分は直後にくっついているので、まるで何事も無かったかのように立っている。

 長身の男は青ざめて立ち止まっている、もう動けないのか?

 巨体の男は半狂乱になりながら、何度も斧を振り下ろしている。

 しかし、斬り付けても斬り付けても、同志はビクともしない。

 まあ、4000以上も体力減ってるけどな。


「同志、こっちは片付いたぞ」


 俺の言葉に二人がビクリと反応する。


「そろそろ終わらせろ」


「あいよ」


 同志は短剣を構えると、突っ立っている長身の男へ投げつける。

 男が身を捻って短剣をかわす。

 が、その軌道上には先読みして動いた同志の姿があった。

 胸部に掌底を打ち込む。

 胸を押さえて倒れる男を無視して、今度は大男の振り上げた斧を掴んで無理やり奪い取る。

 それを大きく振り回し、柄の部分で大男の顔を殴りつける。

 大男がふらつくが、倒れずに踏みとどまった。


 おお、耐えやがった。


 だが、もう決着は着いた。

 今度はポケットからリボルバー式の拳銃を取り出す。

 両足の太股に向けて発砲すると、巨体の男も膝を突いた。



 信じられないものを見せられたかのような顔をしている女魔導師へと近づく。


「仲間の命が大事なら、俺達の要求を呑め」


 女は逆らう気力も残っていないようだった。

 がっくりと項垂れる。




 悪いこと思いついた。

 






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