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わりと本気で窮地

 封印という言葉は、わりと目にする機会が多い。

 世界の神話でも日本の昔話でも、封じるという手段は案外頻繁に使われている。


 マンガやゲームでもそれは同じだ。

 これほど使い勝手の良い設定は他にはない。

 封印が解けて魔物が沸いただの、失った力を取り戻しただの枚挙に暇がない。

 解かれる事が前提になっている話が多い気もするが、それはとりあえず置いておく。

 封印とは厄介なものなのである。

 とんでもない化け物や神様でさえ無力化してしまう非常に強力で効果的な手段なのだ。

 一度封印されてしまえば、内側から破る手段は存在しない。

 まさに、究極の一時しのぎと言えるだろう。


 


 まあ、要するに。


 結構ヤバいです。




 村の周囲では魔術師達が魔法を詠唱し続けている。

 あれが完成すれば、俺達はこの場に封印されてしまうのだろうか?

 持久戦を想定していた為、結構な時間を相手に与えてしまった。

 多分、残された時間はあまり多くない。


 こっちから攻めていかないとな。


 なら、遠距離から魔法で攻撃しよう。

 冒険者達は結界の中に入って来られない。

 魔術師は魔法の詠唱中だから動けない。

 神官どもが厄介だが、冒険者達と比べるとレベルは低い。

 例外はさっきの銀髪くらいだ。


 一方的に攻撃できるかもしれん。



「同志、良く聞け。俺は今から無差別に魔法を乱打する。敵の崩れた箇所を見つけたら特攻をかけろ」


「そんな雑な作戦でいけるのか?」


「他の手段も思いつかん。やるだけやってみよう」


「あいつらの中には、あの銀髪みたいに強ぇ奴が混じってるわけだろ。それがどこに何人いるかってのを把握してからの方が良くないか?」


「これは俺の予想だが、銀髪クラスの奴はほとんどいない」



 俺達がジオーラの冒険者ギルドを襲った時だってそうだ。

 あそこには何十人もの冒険者達がいたが、レベル50を超える奴はリドールを含め3人だけだった。


 さらに、アビコーラの街道封鎖騒ぎで、赤の竜殺しをはじめ、大勢の冒険者達が小銭稼ぎの為に出払ったはず。

 あの街から戻って来たばかり奴が、この大掛かりな作戦に参加しているとは思えない。

 だから、この封印作戦に参加しているのはジオーラとデイビスの冒険者ギルドに残っていた連中だけだろう。

 各方面に高レベルの者を複数人も配置できる程の数はいないはず。



 職業を「騎士」から「大魔導師」へ変更する。

 防御補正が失われるが、その代わりに魔力値に補正が掛かる。


 魔法は基本的に魔力の数値によって威力が決まる。

 魔力が高ければ威力が増し、低ければ威力は下がる。

 属性に関わらず、ほぼ全ての魔法がそのシステムを採用している。

 現在、俺は結界の効果で魔力が低下しているから、それを補う必要があるのだ。


 職業に合わせて武器を剣から杖に、防具を鎧からローヴへ変更する。

 もちろん全てゲーム後半に手に入る強力なものだ。

 守備力など他のステータスを犠牲にし、魔力上昇だけに焦点を絞って構成した。



「いくぜ」



 俺は杖を掲げると、水氷魔法の『濃霧(ミスト)』を唱える。

 これは広範囲に視界を遮る濃い霧を発生させる魔法だ。

 霧による視界阻害なので、接近されると簡単に見つかってしまう。

 だが、敵は結界の中に入ってこられないので、村の中で俺達がどこにいて何をしているのか悟られる事はない。

 弓兵の狙撃を回避できると同時に、同志がどこを狙っているかも分からないはず。


 さあ、反撃開始だ。



「バッカ野郎! 何も見えねぇだろっ!!」



 同志に怒鳴られる。


 そりゃそうだ。

 良く考えたら俺達からも見えない。

 正に盲点。


「はよ消せ」


「わかったわかった、ちょいと待て」


 『解除(ディスペル)』の魔法で『濃霧』を打ち消す。

 霧が晴れると、外の連中が予想以上に動揺していたのが分かった。

 まあ、もう意味ないけど。


 

「今、魔法を消したよな?」


「そうだけど?」


「それで結界を消すことはできるか?」


 できたら、やっとるわ。

 否定すると、同志が残念そうにため息をつく。


「なら、冒険者ギルドで使ったアレを使え」


「あれ?」


「建物ぶっ壊した強烈なやつ」


「ああ、隕石(メテオ)か‥‥」


 確かにあの魔法なら密集している奴ら相手に効果的だな。

 やってみるか。


 とりあえず一番敵の多い正面を狙ってみよう。

 『隕石』の効果範囲を村の入り口周辺へ指定する。

 『隕石』の魔法は放った後、大岩が指定箇所へ衝突するまで多少時間が掛かる。

 なので本来であれば避け易い魔法なのだが、俺達を結界から逃がさぬよう所定の位置から動けない連中には避ける術が無い。

 格好の標的なのである。


「同志、敵が混乱したら一気に突っ込め」


 効果範囲を広げて『隕石』の魔法を放つ。

 少しの間を置いて、最初に放った隕石が武器を構えていた冒険者達の頭上へと降ってきた。

 轟音と砂煙、そして怒声、悲鳴が木霊する。

 隕石は次々と降り注ぎ、入り口周辺は原型を留めぬ程の惨状になっている。

 続いて四方八方から同様の衝突音と爆風が吹き荒れる。

 正面だけでなく、村の裏手や右手左手にも隕石を落とし、敵が混乱するよう無差別に攻撃を仕掛けているのだ。


 周囲に激しい爆発音と絶叫が轟く。

 すでに勝負はついたかのように思えるが、実のところ隕石の魔法は見た目ほどの威力は無い。

 何故なら魔力が下がっているから。

 前にも言ったが 魔法の威力は魔力に比例する。

 かつての俺は少しの力でギルドを破壊する程の隕石を落とす事が出来た。

 しかし、著しく能力の落ちた今、この魔法も以前ほどの威力を持たない。


 それでも上級魔法である『隕石』なら、魔力が下がっていても充分すぎる程の威力がある。

 ‥‥単発であれば。

 この魔法。ありったけの魔力を込めて撃ち込めば相当な破壊力を期待できるのだが、効果範囲を広げて使用すると流星群が次々と落下してくるというエフェクトに切り替わる。

 この場合、複数個所に隕石が落ちるわけだから、かなりの広範囲を攻撃することができる。

 だが逆に言えば、その分、威力は分散してしまう。

 ただでさえ魔力が下がっている状況でこの使い方だ。

 一撃の威力など、たかが知れている。


 このまま単調に撃ち続ければ、いずれ威力の弱さに気付いた連中が反撃に転じるだろう。

 この魔法の狙いはダメージではない。

 爆音と衝撃が招く混乱にある。


「取り乱すな! 障壁の魔法を張るんだ!」


 そんな中、村の正面で誰かが指示を飛ばす。

 チラリと視線を向けると、見覚えのある初老の男がいた。

 声のした付近にいる神官達が我に返り、上空へ魔法障壁を作り出す。

 それを見た他の神官達も次々と障壁の魔法を唱え出した。


 まずいな。

 思っていたよりも混乱の収拾が早い。

 まだ包囲は崩れていないが、これ以上時間を掛けるのは得策ではなさそうだ。


「同志、リドールがいる。村の正面にある入り口のところだ」


「あぁ!? あのジジイ、んなとこにいやがったのか!」


「わかってると思うが、今の俺達じゃ勝ち目は無いぞ」


「ふん」


「結界さえ抜けたら、思う存分暴れていいから」


「わかってる。で、そこが駄目ならどこを狙う?」


 隕石の魔法でクレーターだらけになり、結界の境界線が不鮮明になった右手側。

 神官どもが上空へ障壁の魔法を使っているが、完全に浮き足立ってラインの防衛を忘れている。

 今なら抜ける。


「左は銀髪、正面はリドール。なら右だ、魔法で援護する」


 俺の言葉を受け、同志が全力で走り出す。

 もはや短剣も構えていない。

 ただ、ひたすらに駆け抜けるだけ。

 敵は隕石に気を取られ、同志に気付いていない。



 これはいけると確信した瞬間、危険察知が猛烈に反応した。

 直後、胸に強烈な衝撃を受け膝を突く。

 遅れて激痛が走り、頭が真っ白になる。


 胸元へ目を落とすと、巨大な矢が俺を貫いていた。

 口から血が零れる。

 

「な‥‥なんだ!?」


 慌てて矢を抜こうとする。

 が、今度は左足を矢が貫く。


 魔力を上げるために職業も装備も魔術師用に変えた今、攻撃を弾く事もできない。

 大ダメージと激しい痛みが俺を遅い、気が遠くなりそうになる。


 回復魔法を使おうとして、その手を射られる。

 矢の飛んできた方に目を向けると、村の裏手、その樹上に巨大な弓を構えた女がいた。


 狙撃手か!?


 村外から弓矢が届くとは思っておらず、完全に油断していた。

 そいつに向かって火球を放とうと手を伸ばす、だがその前に腹を射抜かれる。

 速く的確で強烈な狙撃。

 こちらの動きを先読みして矢を射掛けてくる。



 ヤバイ。

 アイツはヤバい。



 銀髪と同じ選りすぐりの精鋭だ。

 ここにいたら狙い撃ちにされる。



 地面に這いつくばって建物の陰に隠れる。

 流石に見えない相手には攻撃できないのか、矢が飛んでくる事はなくなった。

 腹這いになって安全な場所まで移動する。


 魔法で傷を癒してからコッソリと狙撃女の様子を窺う。

 女も弓に矢をつがえたまま、こちらの動きを探っている。

 

 クソ‥‥。

 ロードスリーでは弓兵なんてオマケ程度の戦力だった。

 接近戦なら近接武器が強く、遠距離攻撃なら魔法の方が強い。

 この世界でも同じだろうと考えていたのだが、認識を改めないといけない。

 あいつの弓矢は間違いなく脅威だ。

 同志の援護をしなきゃいけないってのに、とんでもない奴が現れたものである。


 対策を考えていた俺の目に奇妙な物が映った。

 俺に刺さっていた矢だ。

 引き抜いて投げ捨てた矢だ。

 襲われていた時は必死で気付かなかったが、改めて見直すと明らかに普通の物と違う。

 手に持って観察する。


「‥‥銀?」


 そう、銀だ。

 この矢は銀で出来ている。

 矢尻もシャフトも、羽の部分を除いて全て銀だ。

 銀の矢である。

 疑念が過ぎる。


 貴重な銀を使い捨ての武器に使う理由は何だ?

 少しの間、思考を凝らす。


 一部のゲームでは確かに銀の矢には特別な使い方がある。

 銀には神聖な力が宿っているから『邪』を滅ぼす時に使うとか、そんな感じだ。



『魔族にも知れ渡っているとは光栄だ』



 銀髪の言葉が蘇る。



「あー、そういう事か」


 なるほどなるほど、そういう事か。

 了解、了解。納得いった。


 つまりアレだ。

 俺達の事を悪魔か何かだと思っていやがるわけだ。


 視線を上げてぐるりと周囲を見渡す。


 村を包囲する連中の半数は神官達だ。

 何故、これほど大勢の神官がこの作戦に参加しているのか疑問だったが、これで説明がつく。

 

「‥‥ざけやがって」


 むかっ腹が立ったが、今はそれどころではない。

 魔法での援護が滞っている。

 敵が冷静さを取り戻せば突破が難しくなる。

 同志は大丈夫か?


 同志がいる方へ視線を向ける。

 案の定、複数の冒険者達に道を遮られ戦闘に発展している。


 戦っている冒険者達は銀髪や狙撃女程の実力は無いにしろ、連携の取れた動きで同志を寄せ付けない。

 俺が狙撃女にやられている間に敵も陣形を立て直したらしい。

 この状況からの挽回は難しいか。


「同志、一旦戻れ!」


 自分にシールドの魔法を掛けて立ち上がる。

 即座に放たれた銀の矢が俺の胸へ当たるが、シールドの効果で弾き返される。

 その隙に狙撃女の立つ樹木目掛けて火炎魔法の『エクスプロード』を叩き込む。

 大木の幹付近で爆発が起こり、その中央部を吹き飛ばす。

 幹を失った大木が倒れ始めると、慌てた狙撃女が飛び降りようとするが、続けざまに閃光魔法の『シャイニング』を放つ。

 強烈な閃光が迸り、奴の目を眩ませる。

 一瞬でも動きが止まれば、もう木が倒れる勢いから逃げられない。

 狙撃女は倒れる大木に巻き込まれて見えなくなった。


 ざまぁみやがれ。


 村の中央部にいる俺を村外から狙えるのは、多分あの女だけだ。

 他の仲間達が助け出そうとしているが、身体の一部が大木に挟まれているらしく救助は難航しているようだ。

 あの様子だと、しばらくは動けまい。

 

 その頃になって、ようやく同志が戻って来た。

 少々不満そうだったが、事情を説明して納得してもらう。


 とりあえず身の危険は去ったが、状況がまずい事に変わりはない。

 作戦の失敗で余計時間を掛けてしまった。

 多分、次が最後になるだろう。


「さて、どうしたものか」


 正直なところ。

 本気で包囲を破ろうと思えば、できると思う。

 即死魔法の『死の風』を繰り返して唱え続けるだけでいい。

 成功率の低い魔法だが、確率が低いなら放つ回数を増やせばいいだけだ。

 敵の数がある程度減ったところで上級魔法を何発かブチ込めば終わりだ。


 ただ、あまりに多くの犠牲が出る方法なので、できれば控えたい。

 目の前での大量殺戮は俺のメンタルが持たない。

 とはいえ、今のままだと俺達が封印されてしまう。

 気は進まないが、何も良い案が浮かばなかった場合は決行する。

 俺も人の子。我が身が一番かわいいからな。


「どうする、二手に別れて撹乱するか?」


 同志が俺の傍に立つ。

 

「包囲されてるのに攪乱とか‥‥」


 こちらに、もう少し数がいるならそれでもいい。

 だが、二人しかいないなら、何一つメリットがない。

 せめて腕の立つ仲間が数人いれば、それもありなのかもしれないが。




 ん?



 ちと待てよ?



 俺は自分のステータスをもう一度確認する。



 能力値は下がっている。

 だがレベルは下がっていない。

 使える魔法も制限は無い。


「同志、なんとかなるかもしれん」


 俺は建物の陰から離れると、村の正面入り口へと歩き出す。

 その後を同志が首を捻りながらも何も言わずに付いてくる。



 魔力が低ければ、どんな魔法も威力が下がる。

 だが唯一。

 唯一、魔力に左右されない魔法が存在する。


 召喚魔法だ。


 ロードスリーにおいて召喚魔法はレベルによって召喚できる魔獣が変わる。

 そこに魔力の高さは関係しない。




 とはいえ、折角召喚した魔獣も、結界の中ではやはり能力が下がってしまうだろう。

 なので使用しなかった。


 けれど。

 大量の召喚獣を一斉に呼び寄せることが可能であれば、結界外に出られる奴も出てくるだろう。

 結界から脱出できた召喚獣は、本来の力を存分に振るう事ができる。

 そうなれば、俺達が結界を抜ける事も難しいことではない。


 大量の召喚獣を呼び出せる魔法。

 それが、ある。


『アビスゲート』


 特定の条件を満たした者だけが習得できる魔法『禁術』の一つだ。


 アビスゲートとは、その名の通り、異界の門を開き、悪魔を召喚する魔法である。

 普通の召喚魔法と違うのは、門が開いている間、延々と悪魔系モンスターが召喚される点である。

 召喚できる悪魔は完全にランダムで指定できない。

 そして、この魔法で呼び出された悪魔は自分よりレベルの低い召喚者には従わない。


 自分よりもレベルの高い悪魔を呼び出してしまった場合、その悪魔は召喚者を最優先で攻撃してくる。

 門が開いている間はMPが減り続け、MPが無くなれば自動的に門が閉まる。途中で閉める事はできない。

 ハイリスクな魔法であるが、今の俺はゲームで最大のレベル400なので反逆される怖れはない。

 MPを使い切る事になるが、それもエリクサーを飲めば回復できる。

 まったく問題はない。


 俺達を悪魔だと信じている奴らの目の前で、悪魔の群れを召喚してやるのだ。

 さぞや御満足して頂けるだろう。


 いいねえ、なんか楽しくなってきた。

 俺が一人で笑い出したので同志は少し気味悪そうに距離を置く。

 だが俺は同志の肩を掴んで引き寄せた。


 同志に顔を寄せて言ってやる。



「望み通り、なってやろうじゃねぇか。悪魔の王にな」






 村の入口前まで来た。

 あいも変わらず、敵意の篭った視線が四方八方から突き刺さる。

 だが、今はそれが心地よい。

 これだけ俺達をコケにしてくれたのだ。

 相応の報いは受けてもらわないと溜飲が下がらない。


 だが、『アビスゲート』を使うと悪魔の群れを呼び出す事になる。

 呼び出せる悪魔を選べない以上、当然ヤバい奴が現れる可能性がある。

 上位以上の悪魔は非常に残忍で好戦的だ。


 というのも、ただ攻撃をしてダメージを与えるだけでは悪魔の残虐性が伝わらないと考えた制作陣が、両目を抉ったり、手足をもぎ取るといった行動パターンを組み込んだからだ。

 ゲームでは過激な表現は上手くボカしてあったが、それでもテストプレイした俺がトラウマになるくらいにはエグかった。現実の人間がそんな事をされれば発狂ものだ。

 だが俺も鬼ではない。

 奴らに生き延びるチャンスをくれてやる。


 村の入口周辺にいる連中はいつでも攻撃できるよう武器を構え、矢をつがえている。

 すぐに攻撃してこないのは警戒しているのか、それとも何か策でもあるのか。ちょっと分からない。

 弓で狙われると厄介なので、同志の後ろに隠れながら進む。

 同志は腕を組んだまま、不愉快そうな顔をしている。


「流星群は気に入ってもらえたか?」


 同志の背中越しに声を掛ける。

 女の背中に隠れて偉そうに話しかける俺はどのように映っているのだろうか。

 ちなみに返事は無い。


「あれを防ぎきるとは、お前らもやるじゃん」


 もう一度声を掛けるが、やはり返事はない。

 ギラついた眼で睨みつけてくるだけだ。


「一応聞くが、ここを通すつもりはないか?」


 答える者はない。

 別の奴に話しかけるも、沈黙だけが返ってくる。

 完全に無視。

 ちょっと辛い。


「‥‥これ以上、俺を怒らせない方がいいぞ」


 やはり返事はない。

 俺たちの言葉に惑わされないよう会話自体を禁止しているのかもしれない。

 悪魔だしね。

 悪魔の言葉に耳を傾けてはいかんぞってヤツだ。


 まあいい。

 一応は有利な状況にあるコイツらが要求を呑むとは思っていない。

 ならやるしかないな。


「よく聞け、最後の警告だ!」


 急に大声を出したので、一部の連中は若干の動揺をみせた。

 なんとなく気持ちがいい。


「死にたくねぇなら地面に伏せろッ! いいな!」


 返事はない。

 無論、地に伏せるもいない。

 だが、わずかに囁き合う声が聞こえる。

 

 この警告は本物である。

 呼び出した悪魔に、逃げる者と這いつくばる者は見逃すよう命令しておくからな。

 戦意の無い者まで殺してしまう事のないよう、これだけは伝えたかったのだ。


「警告はしたぞ! それでもヤルってんなら全力で来いやッ!!」


 叫んだ直後に弓を構えていた奴らが一斉に射掛けてきた。

 同志と二人、それを避けるように村の中央部へ走る。


 さあ、反撃だ!




半年遅れとか‥‥。

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