じゅーろっくっ
本日2本目の更新。
今回と次回はちょっとえっちぃので注意。
これは、いったい、どういうことでしょうか。
「か、母さん?」
誰にともなく心の内で問いかける。
状況の推移に脳が追い付かず、耳から煙を噴き出しそうだ。
「ほら、早く、入らないと。お風呂、冷めちゃうよ?」
母さんの頭を撫でながら、入浴を促す。
多少顔色は良くなってきた気がするけれど、様子がおかしいし、何かがあっては大変だ。
一刻も早く体を温めて、一眠りして欲しい。
そしたら、目を覚ますまでに、消化の良さそうな晩御飯を作って上げよう、って。
そう、考えていたのだ、けど。
「……やだ」
母さんは。
何故だか、私の服の裾を掴んだまま、離れようとしなくて。
「今は、イヤなの……っ」
少しだけ、掠れた声で、そう訴えてきて――……。
「……~ッ!」
うわあ可愛いマジ可愛い。
「……な、にが」
「え?」
表情筋を、引き締めて。
縺れそうになる舌を、無理矢理落ち着かせて、問いかける。
「なにが、嫌なの?」
「ッ!」
母さんが、息を呑む。
見開かれた丸い目を見詰めながら。
確信を持って、追い打ちをかけるように、言葉を続けていく。
何故だかは、わからないけど。
「私と、離れるのが……嫌なの?」
母さんは。
頬を、真っ赤に染め上げて――大きく、体を震わせた。
「……そっか」
返答は、なかったけれど。
その反応こそ『答え』なのだと解釈した私、は。
「じゃあ――……一緒にお風呂はいろっか!」
これなら、今日こそ、イケるんじゃないの? なんて。
そんなことを思ったので――……ブッ放してみたのだった。
「……」
沈黙。
ああ、外したか、と考えて。
冗談だよ、って、言おうとした。
次の瞬間。
「……う、ん」
消え入りそうな、小さな声で。
母さんは、そう答えて、小さく首を縦に振った。
「え」
これは、いったい、どういうことでしょうか。いや、ホントに、どういうことなんでしょうか!
「……」
脱衣所で、二人。
示し合わせたわけではないけど、背中合わせに服を脱いだ。
母さんをお風呂に誘うのは、毎日の日課のような物だったけど。
いざ、了承されると。
「……っ」
――……衣擦れの音に、肩が震えた。
その音も、止んだ頃。
そおっ、と、振り返れば。
「あ……ッ」
息が、止まった。
「ひ、ひょうちゃ……」
掠れて、裏返った母さんの声。
羞恥からか、潤んだ瞳。真っ赤な頬に、折れそうな首筋に、細い肩。
その儚さからは不釣り合いな程に――……大きくて、存在感のある胸は。
覆い隠すために宛がわれた右腕によって押しつぶされて、ふにゃりと形を変えていて。
「……」
ゴクリ、と。
喉が鳴った。
「そ、そんな、ジッと見ないで……」
そうは、言われましても。
釘付けになった視線は、吸い寄せられるように、下へ下へと下って行って。
「……ふぁ」
閉じることも出来ない口から、間抜けな声が零れ落ちた。
流線型を描く美しい腰、スッキリとしたお腹。
小さなおへそ――……その先で。
宛がわれた左手の隙間から、色素の薄い毛が、僅かに覗いている。
「も、もぉ、氷雨ちゃん……ッ」
ハッ、と我に返る。
顔を上げると、鼻の頭まで赤く染めて、泣きそうな母さんと目が合った。
「か、身体冷えちゃうから、早く入ろうか」
早口でそう言って、母さんと共に浴室へと入った。
「じゃあ、お湯かけるよ」
一声かけて、桶で掬ったお湯を母さんの背中からかけてあげる。
「ん……っ」
吐息まじりに漏れた声に、心臓が跳ねた。
「ご、ごめん。熱かったかな」
「ううん、だ、大丈夫だよ」
ぎこちない会話に、余計に普段との違いを突きつけられて。
なんだかたまらない気持ちになったから、誤魔化すように言葉を連ねていく。
「先に、全部洗う? それとも、体だけ流してから、お湯につかる?」
「私は、いつも全部洗ってから、最後にお湯につかって出るけど」
「そっか、じゃあ、私と一緒だね」
流れのままに、シャンプーのボトルを手に取った。
「それじゃあ、せっかくだから、洗ってあげるよ」
「えっ」
「えっ」
「「……」」
後頭部から、汗が噴き出した。
妙な緊張から、握った手に力がこもって、シャンプーボトルが鈍い音をたてる。
「え、っと……」
喉から、なんでもいいから言葉を絞り出そうとした、瞬間。
母さんの頭が、縦に動いた。
「痒いところはないですかー?」
定番の質問をしながら、手を動かす。
やわらかな泡と、指の隙間を通り抜ける髪の感触に、だんだんと心が落ち着いてくる。
「……ないでーす」
返答してくれた母さんの声も、ずいぶんと穏やかさを取り戻していて。
頬が、自然と緩んでいった。
母さんの頭を洗い終わった後。
「次は、氷雨ちゃんの番だね」
母さんが、そう言った。
「うんっ」
母さんに洗って貰うのなんて、小学生の低学年の時以来だったから。
嬉しくて、大きく頷いた。
――……もう、本当に、どうしたらいいのだろう。
「うん、っしょ」
私の髪は、長いし、量も多い。
母さんとは、髪質だって違う。
だから、だろうか。
「よいしょっ」
母さんは、髪を洗い始めてから、だんだんとその作業に没頭していき。
それ以外が、思考の外に飛んでいったらしい。
「んしょっ」
可愛らしい掛け声が、至近距離から鼓膜を揺らす。
「か、かあさ……」
「よいしょっ!」
ふにゃり。
「……ッ!」
ああ。
もう、本当に、どうしろと?
「やわらかい……」
背中に押し当てられた、とろけそうな感触に。
理性が猛烈な勢いで削られていった。
「よしっ、綺麗になったよ!」
達成感に満ちた、母さんの声。
「ありがとう、母さん」
私は、そう礼を述べながら。
「きゃあっ!?」
くるりと振り返って、母さんを抱き寄せる。
お互いの胸がぶつかって、むにゃりと形を変えた。
「ひ、ひょうちゃ……ッ!?」
驚愕に目を見開いている母さんに。
満面の笑顔を向けて、囁いた。
「お礼に、隅々まで綺麗にしてあげるね」