表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/22

じゅうさん

 いけない、とは思ったのに。

 気付いたら、家を飛び出していた。

 駅で、氷雨ちゃんを待つ間も。

 何度も、やっぱり帰ろう、と思った。

 だって、おかしいもの。


 高校生の娘が、野外活動に行ったことが寂しくて、やっと会えると思ったら、いてもたってもいられなくなって、迎えに来てしまうお母さん、なんて。


 きっと、ぜったい、おかしいもの。

 ――でも。


『母さん!?』


 私を呼ぶ、氷雨ちゃんの声を聞いた瞬間。

 一瞬だけ、だけど。


 嬉しい、以外の感情が、頭から飛んで行ってしまった。


 ――……ほんと、どうかしてる。

 どうかしてる、から。


「母さん」


 ――……拒めない。


「氷雨ちゃん……」


 リビングのソファーで。

 氷雨ちゃんの膝の上に向かい合わせで座らされて、隙間もないくらい密着した状態で、抱きしめられている。


「……んっ」


 氷雨ちゃんは、先程家に帰ってきてからずっと、片手で私を抱き寄せたまま、頭、頬、肩、背中、腰、等々、いろんな場所を、味わうように、ゆっくりと撫でていて。

 やめるように、言わなければ、と。

 そうは、思うのだけど。


 私のことを見詰める、潤んだ瞳。

 口元は、だらしないくらいゆるんでいて。


 ――可愛い、なあ。


 自然と、そう感じてしまうから。

 正直、ヤバいのではないだろうか、と、思う。


「母さん」


 声から溢れる愛情に、背筋が震えた。


「きゃ……っ!」


 頬に、柔らかな唇の感触。

 至近距離で、氷雨ちゃんが笑う。


「……っ」


 なにも言えないでいる間に、また唇が降ってきた。

 今度は、鼻の頭。

 顎に、首に、好き勝手に口付けて。


「母さん」


 でも、氷雨ちゃんは。


「大好きだよ」


 ――唇には、触れない。


 ねえ、それだって。

 私のことが『大好き』だからだって、知っているけれど。

 

 妙に、大人っぽくふるまったりもするくせに。

 大人には絶対に出来ない、子供が『宝物』に向けるような笑顔が、眩しい。


 氷雨ちゃんは、私の耳たぶに口付けた後、胸に顔を埋めて、深呼吸をした。

 満足そうに吐かれた息に、ちょっぴり、腹がたったので。

 頭を軽く、小突いてやった。



 いっそ、貴女が汚い『大人』になってくれたなら、なんて。

 そんな、それこそ汚い気持ちには、今日も、気付かないふりをした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ