じゅーいち
今回少し性的っていうか倒錯的っていうか変態だろコレ、って感じなので、苦手な方は読み飛ばし推奨です。
――……晩御飯を作りすぎた。
お米はあと2合少なくても良かったし、野菜炒めのキャベツの量も、3分の1でよかった。
作り終わって、食卓に並べる段階で気付くなんて、どうかしてる。
しかも、今日で二日目の過ちだ。
昨日は、ハンバーグを2個焼いてしまった。
「……」
お箸をくわえたまま、固まる。
せっかく作ったごはんなのに、自分でもどうかと思うくらい、不味い。
「……独りは、やだなあ」
小さく呟いて、溜息を吐いた。
独りだから、お風呂のお湯を溜める気にもなれなくて、シャワーで済ませた。
早いけど、もう今日は寝てしまおう、と思った。
「……」
自室に向かう途中で、足が止まる。
悩みながらも――……どうせ独りなのだから、少しくらいいいだろう、なんて自分に言い訳をして、目的地を変更した。
飾り気は少ないが、整理整頓の行き届いた――……氷雨ちゃんの部屋。
勝手に入ることに、多少の罪悪感を感じながらも、やめる気にはなれなかった。
青いシーツの張られたシングルベッドに倒れこむ。
同じく青いカバーのかけられた枕に、顔を埋めた。
氷雨ちゃんの匂いが、微かに鼻腔に漂って、心の中にポッカリ広がった空洞を、ゆっくりと満たしてゆく。
実は――……これも、昔からのことなのだ。
氷雨ちゃんが、学校行事等で私を置いて行ってしまう時、私はいつも、こんな行為を繰り返している。
誰にも言えない、絶対の秘密だ。
「氷雨ちゃん……」
第三者の視点で考えると、気持ちの悪い女だと思う。
母が娘を想う愛情なんかじゃない。
これは『依存』だ。
でも。
体を伸ばして、氷雨ちゃんのベッドの下に手を伸ばす。
――……やっぱり、あった。
「……見当たらないと思ったよ」
ベッドの下に隠されていたのは、性的な本、などではなく。
私の『下着』だ。
初めて気付いたのは、氷雨ちゃんが小学6年生の時。
氷雨ちゃんが修学旅行に行ってしまったので、その寂しさを紛らわす為に、今日のように部屋に忍び込んだのだけど。
つい、興味本位で、ベッドの下を探ってみたら。
私の『ショーツ』が隠されたいたのだった。
まさか、と思って、確認し――赤面してしまった。
クロッチ部分から私の匂いが漂う――……使用済みのものだったから。
その時は、咎めると、自分が行った行為もバレてしまうと考えて、抵抗はあったが、見なかったことにし、ベッドの下に戻した。
その後、氷雨ちゃんが帰宅してから二日経ったのち、洗濯籠の中にそのショーツが戻されていた。
気を付けて観察してみた結果、どうやら、洗濯籠の中からこっそりと持って行っては、またこっそりと戻して、ということを繰り返していることに気が付いた。
悩みながらも、あんまりにも異常な事実に、結局何も口に出せないまま、今日まできてしまっているのだった。
「……」
自分の下着を手に握ったまま、上がっていく体温を自覚しながら、呟く。
「これを、使って。いったい、なにをしてるん、だろう……」
想像が脳裏で映像として再生されかけたので、慌てて首をぶんぶん振って、頭から追い出した。
でも。
「おあいこ、だよ、ね……」
変なのは、私だけではなくて、氷雨ちゃんもなのだから。
だから、私の行為だって、少しくらい、許容されるべきなのだ、なんて。
本当は、自分自身でも、1ミクロンだって同意出来ない言い訳を考えた。
自室に戻ると。
置きっぱなしにしていた携帯が、タイミングよく鳴った。
「も、もしもしっ!?」
名前も確認せずに、大急ぎで受話ボタンを押したのは。
『――母さん』
貴女からだって、信じていたからだよ。
「氷雨、ちゃん……」
上手く、声が出なくて、掠れた。
ほんと、どうかしてるね。
『こっそり抜け出してかけてるんだ。……どうしても、声が聞きたくなって』
そっか。
うん、そっか。
言葉にならないから、こくこく、うなずく。
もちろん電話越しに見えるはずもないから、沈黙が続いているように感じられるはずなのに、氷雨ちゃんは気にしない。
気にせずに、言った。
『会いたいよ、母さん』
私は。
「……うん」
そう、たった一言だけ、喉から絞り出した。
自分のモチベ上げる為の回でした。