六日目 手違い
「私でいいならお願いします。」
「・・・。」
明はあまりにも今自分の置かれた状況がのみこめず黙り込んでしまった。
「俺は朝早く学校に来て…浜崎さんに挨拶して…告白したんだよな。じゃあ…この子は誰なんだ。」
目の前にいるのは丸い眼鏡をかけた見知らぬ少女。もちろん浜崎なはずがない。
なぜ先ほどまで自分の目の前に浜崎がいたのに、何故告白を終えた瞬間浜崎さんが別人に入れ替わっているんだ?
そもそもこの子誰だ・・・。
そして自分の手違いの告白を了承したこの少女には申し訳ないがどうやって誤解を解くか。
「ここに浜崎さんいなかった?」沈黙を先に破ったのは明だった。
「さっきまでそこにいたよ。でも何かを見て急いで教室を出ていったみたい。ところでさっきの話って…。」
よく見ると少女の頬は赤くなっていた。
しかしその時、明の頭の中はは少女への誤解を解くより浜崎を探すことでいっぱいになっていた。
「ごめん。その話は後でゆっくりしよう!」
明はそう言って教室を飛び出していった。
結局しばらく探し回ったが浜崎はなかなか見つからず、早朝の告白を断念し教室に戻ってきた。
「明、おめでとう!」
亮太と直樹、沙紀その他大多数のクラスメートが声をそろえていった。
「俺、誕生日は9月なんだけど…。」明が困った表情で返す。
「何言ってんだよ。お前田中眞由美に告ったんだろ。ついに彼女できたんだな。」
今朝のことを思い出した。クラス替えがあったばかりなので全員は顔と名前を把握していなかったがきっとあの子は「田中さん」というのだろう。しかも運悪く同じクラスの人間だったらしい。
「なんでその事知ってるんだよ。」
「何でってそりゃ田中さんが…」 沙紀が答えた。
「あの女…面倒なことを。後で誤解を解こうと思ったのに…。」
明は内心そんなことを思ったが実際はそんなこと言えるわけもなく
「なんか勘違いしてない?俺が女の子に告白するわけないじゃん。」
強引にとぼける作戦にでた。
「え、お前告白したわけじゃないの?」 その事を聞いてクラスが動揺する。
「当たり前だよ、そもそも何で俺があの子に…」
「じゃあ田中さんがそんな話をでっち上げたのか?」
「しらねえ、ただ俺があの子のこと別に…」
明がそこまで言いかけた時、一人の女の子が泣きながら教室を飛び出していった。
それは例の田中だった。当たり前だが教室のみんなが知っていたのだから田中が教室にいてみんなに話していたのだ。
「明、何ぼけっとしてるの。早く田中さんを追いかけなさいよ。いくらみんなにからかわれて恥ずかしいからって今のは田中さん傷ついたに決まってるじゃない。」
沙紀に言われてようやく彼女が泣いていたわけを理解した。
そして明も田中の後を追いかけて教室を出ていった。