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人子(改変版)

作者: 山田マン

第一章・不倫


吉本早苗は30代半ばの女性で、今日は細身の花柄のワンピースを身にまとっていた。


「はぁ」吉本早苗は溜め息をついた。


2LDKの部屋の台所の食卓に座りながら、


早苗は今日も夫、勝彦の帰りを夕飯を用意して待っていた。


「あぁ、今日も帰ってこないのかしら」


毎晩、遅くなると言い、深夜に帰宅する事も多い、勝彦にうんざりする早苗であった。


勝彦は、プログラマという職業に付いていた。


精神と肉体の限界にチャレンジする仕事という評判もまんざら嘘ではない、仕事の圧迫から会社で寝泊りするのも当たり前といった感じであった。


早苗は円満な夫婦生活という偶像に浸っては、現実を見て、またうんざりするのであった。


早苗には一人娘の真里菜という子供がいた。


早苗によく似て、顔立ちがよく、小4と思えないほどの妖艶さをまとっていた。


「真里菜、ちょっと聞いてる?真里菜?」


洋室のフローリングの上に座り込んで、真里菜は小説に熱中していた。


真里菜は、若くして小説家を希望する、将来有望であろう一意専心な性分であったがため、一切として母親の呼ぶ声が耳に入らないのであった。


母親は目の前までいって、体を屈めて真里菜に顔を近づけて「こら、真里菜、集中するのはいいけど、回りに気を配れないのも困ったものよ」と言った。


真里菜は「はっ!」と息を殺し母の注意を聞いた。


「聞いてた?真里菜?」


「え?聞いてなかった」


「ご飯食べてしまいましょう、お父さん今日も遅くなるからね」


そういうと、早苗はすたすたとテーブルに着き、夕飯を口に運ぶのであった。


真里菜は尋ねた「お父さん、今日も帰ってこないの?」


「そうね」早苗は素っ気なさそうに答えた。


夕飯を食べ終わって、二人はリビングでテレビを見ていた。


「真里菜、そろそろお風呂に入りなさい」


「お母さんは?」


「お母さんはいいの」真里菜はその言葉で察した。


また母は自分が寝た後、その格好のままどこかにいってしまうのだと。


真里菜は小4という、若さから夜の9時には寝床に入るのである。


寝室の電気は豆電球ひとつとなり、また他の部屋では早苗が香水を首筋にかけ、外出の身支度をしていた。


早苗は夜な夜な、真里菜の就寝後、外の街へ出向くのが癖となっていた。


バーやクラブ、居酒屋にいっては男と出会い。


行きずりでラブホテルへ行くこともしばしば見受けられた。


夫に顧みられない孤独から、表面的にでもチヤホヤしてくれる

行きずりの男との関係に救いや慰安を見出している。


愚かな行為だと知りながらそれをやめる事ができなかった。


早朝に帰宅し、何もなかったかのように、振舞っては、真里菜を学校へ送り、稀に帰ってくる夫を会社に送るのであった。


昨晩、夫は早くに帰ってきていたらしく、早苗の不在を不信に思っていた。


「昨日は、どこで誰とほっつきあるいてたんだ」


「友達と一緒に飲みに行ってたのよ」


「最近、音沙汰無いけど外でやってきてるんじゃないだろうな」


「そんな、私を疑うの?疑うのなら居酒屋の店長に私がいた事を確認すればいいわ」


早苗には本日と言うと自信があった。昨晩は本当に友達と居酒屋で飲んでいただけなのである。


その証明が今後、絶対の証拠となると察した早苗はこう切り返すのであった。


「これが居酒屋に番号、顔なじみだから名前を言えばすぐわかるわ」


夫はここまでの証拠を見せ付けられると信じざる終えず、電話すらしなかったのである。


第二章・第二子


「おえええ」 早苗がそう発するとトイレに駆け込んだ。


今日は日曜日と言う事もあり、夫が在宅中であった。


「どうしたんだ。早苗?」


「ちょっと、気分が悪いの。吐いちゃった」


「なんか、悪いものでも口にしたか」


「そんなわけないわよ、ちゃんと清潔にしてるし」


「もしかして悪阻かもな」


夫が微笑して言った。


「悪阻かも。なんか真里菜を産んだ時と似てる」


「ほんとうか、産婦人科につれていってやろうか?」


「大丈夫、自分でいけるから」


そういうと早苗は家から数分のところにある、産婦人科に車で向かうのであった。


早苗は診察の順番待ちのときに焦った。


最後に性交した時と時期がずれると他の男との子供という


事になってしまう。


ゴムを付けさせない事もあった、心底不安になった。


「おめでとうございます。妊娠4週間です」ドクターが言った。


早苗は頭の隅々まで神経を行きわたらし、2ヶ月にそれらしき行動があったかと模索するのであった。


結果、2ヵ月半前ほどにそういった行為があったにせよ。


医師の判断は4週間、この時期をどう説明するか、早苗はとっさにドクターに聞いた。


「2週間、2週間ずれるということはありませんでしょうか」


「2週間ねぇ、でもこの感じじゃ6週間というのはむずかしいのですよ」


そしてドクターは続けた。


「こんな事を聞くのもなんですが、なにか後ろめたいことでも?」


「いえ・・・、なんにもありません」


「ご出産なさいますか?」


ドクターの態度は一遍した。まるで願わぬ子を身に宿した人を見るような目で早苗を見た。


「う、産みますとも主人に報告しないといけませんね」


早苗はどうにかなるだろうと軽く返すのであった


第三章・いじめ


早苗は、夫に強要され家族でDNA検査を受けたこと、DNA検査の結果、夫との血縁関係が真里菜に認められなかったことを電話越しに、真里菜が生まれて以来ずっと親友だった西本文子に話していた。


西本文子というと、おしゃべりで有名だった。


文子を発信源に、学校の親御さんたちに広まり、たちまち話題になり、児童にまでその内容が語られていた。


「あいつの親、不倫つーのしてて、親が違うらしいぜ」


真理子の周りは冷たい視線で当人を見ていた。


小4と言えど、そういう出来事には敏感になっている年頃であった。


「やーい、やーい、お前のお父さんは他人のお父さん」


言葉の嫌がらせもさることながら、散々な日常だった。


日常いや日異常という言葉が適切だろうか。


真里菜には信じがたい出来事ばかりが回りで起きた


つくえにはクレヨンでまんべんなく落書きがされており。


放課後、帰ろうとしたら靴に犬の糞が盛られていた。


「私!お父さんの子じゃないの?!」


真里菜が早苗に強く尋ねた


「お父さんの子よ、お父さんの子なの、でもね。お偉いさんが考えたDNA検査っていうのにひっかかっただけよ」


そして、早苗はこう付け加えた


「必ず、疑いは晴れるから、おなかの子は・・・、だけど真里菜は私の子よ」


10ヶ月して真里菜の妹、和子が誕生する


そして早速、DNA鑑定にかけられる。


真里菜とも違う遺伝子が発見された。


これで父親、真里菜、その妹は別の血を引く子供と言う事が明らかになった。


その悲劇はすぐに、周囲に伝わるのである。


そして、学校では


「お前の妹、他人の子!!」


いじめはどんどんひどくなっていくのだ。


虚しくそして切なくその時間はすぎていった


そして、真里菜を精神的に限界まで追い詰めた


「どうして、私はお父さんの子じゃないの、妹はどうして他人なの・・・、どうしてみんな逃げていくの、どうしてみんな私をいじめるの」


真里菜は窮地に立たされた。


すぐ後に母親に電話がいった。


「真里菜ちゃんが!真里菜ちゃんが!」


「どうしたんですか。あなたは誰ですか」


「真里菜ちゃんの担任です。真里菜ちゃんが音楽の授業後に4階から飛び降りていま病院に!」


そして、早苗はすぐに病院にかけつけたが。真里菜は即死であった。


早苗はぬくもりが残るその手を握り締めながら


「私のせいなの、私がすべていけないの、私がしっかりしていれば」


最後の温もりと知りながら、真里菜の手から手が離れない


手を離した瞬間、それはもう真里菜とのお別れを告げることになる


そう感じた、早苗は真里菜の手を離そうとしない


「真里菜は確かに私の子だった、こんな悲劇があっていいのかしら・・・」


早苗は、冷たくなった真里菜の手を握れなくなっていた


真里菜の確実な死に目を背けるしか早苗の心を癒す手はなかった


翌日、真里菜の葬儀と通夜が行われた


勝彦は真里菜の最後を見届けることはなかった


第四章・離婚


「俺は他人の子供を育てるほど、出来た人じゃねえぜ!」


夫がそう言い放った。


「二人目も私たちの子供よ・・・」


「いいや、そうじゃないね。俺とやった時とずいぶんずれてるし、しかもDNAがそれを証明している」


「DNAなんてそんなものを信じるの?}


「あぁ!科学の結晶さ、信じるね!現に俺はもうすぐで二人も他人の子供を育てる羽目になるところだったんだ。慰謝料でもほしいところだ!」


「慰謝料っていうと?」


「離婚だよ!離婚!」


早苗はそれを承諾せざるを得なかった。和子は当然早苗が引き取る事になる。


夫とは印を押して離婚をした。


早苗は必死に職を探したが、不況の現在。育児をしながら妥当に働ける場所など到底ありやしなかった。


早苗は藁をも掴む思いで、書店に応募するのであった。


その面接はあっけなく終わり、即採


第五章・真実


早苗は生活保護を受けながら書店で働くことにせいを出すことで今までの事を忘れようとしていた。


そこの書店はかなり広い上に、分担があった。


早苗は、科学という分野に程近いレジに立たされる事になった。


早苗はお客さんからある、注文を受けた。


大きなメガネが特徴的な、中学生かそれくらいの年頃の少年からの

注文だった。手には子難しそうな本が握られていた。


「小学生でもわかりそうな面白おかしく解説された本ってないですか。」


「少々お待ちください」


注文を受けると上司に相談した。すると最近テレビで話題の科学雑誌がいいのではないかという提案をうけた。


早苗はその本を探す合間に、書店の片隅にとある本を見つけた。


タイトルはDNA裁判と誤審というものだった。


客は「楽しく学ぶ科学」という本を買って帰っていった。


早苗は帰り際に気になってDNA裁判と誤審という本を一読した。


「DNA鑑定はまだまだ未発達の技術といってよい」


という興味深い文章から始まっていたため読みふけった。


「DNAキメラというものは、一人の人体に複数のDNAが存在すると言う現象である」


この文章を見て、早苗はもしかしたら、真理菜もその妹もそれによるものかもしれないという悪寒を感じた。


ある弁護士の提案で、夫の祖父のDNAが採取された。


するとなんと真里菜のDNAと夫の祖父のDNAが一致したのだ。


これは事実上血縁関係を示している。


夫はDNAキメラだったのだ。


夫の体の隅々までDNA鑑定がなされた、すると精巣にDNAキメラが存在すると言う事がわかった。


そして鑑定した結果、早苗、夫、真里菜の血縁関係は認められた。


なんと悲しい真実だろうか、いまさらわかってもという思いが


早苗の気持ちを圧迫してならなかった


だが、和子と言うと完全に不倫相手の子供だと言う事がわかった。


和子はそれを荷としていきていかねばならぬのだろうと


そう思うしかなかった。


第六章・死の責任


早苗はふと思いふけた。


DNAという存在にやつあたりする気持ちも強かった


だが真里菜の死の責任は誰にあるのだろうかと考えたのだ


そう死の責任は早苗にある。


早苗の淫乱ともいえる行為、道理を全うしなかった


生き方がすべての死の責任となるのだ。


END

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