好きな人
「そう、あれは4月も終わりの頃だった。
違うクラスの男子がメンバー募集のポスターを見たと、一応 代表だった私の所にやってきた」
<メンバー募集って今、何人でやってんの?ジャンルは何? 俺、ギターなんだけど>
律子は男子の真似をしながらタカに話を続ける
タカは時折 プっと吹き出しながらも真剣に耳を傾ける
「ふて腐れたようにさ、ポケットに手を突っ込んだまま話すのよ。私はなんて生意気で嫌な感じの男子だろうって思ったね。
私達もタカと同じTHE BEATLESを主にしていたわ。
その彼はもっとガンガンなハード系をしたかったような事をボソッと言ったけれどギターを掻き鳴らせる場があるならと彼は言って私達は一緒に活動をするようになった。
ところが彼、ギターが凄く上手かった。私達は舌を巻いたわ。学生のレベルなんてもんじゃないのよ!
ギターリフが最高なの! 無口で偉そうで、仲間とかそんな意識もなく ただ彼はギターを弾く事だけに真剣で。熱くて…」
「ねえ、りっちゃん? その彼の事、好きだったんでしょ?すごく今
少女みたいに可愛いい顔して話してた」
タカは律子の中身は当時のままなんだと思った。
「えぇ。凄く凄く、、、大好きな人だった。遠くを見ている横顔も、ギターを弾いている時の下を向いた斜めからの角度も、私と二人セッションした時に目だけをじっと見る瞳も。全部ね…。」
今まで楽しそうに話しをしていた律子の顔が悲しい表情に移り変わった事をタカは察した。
「その人が旦那さんだったりして?」
タカは言葉が上手く見つからず余計な事を言った事に少し焦っていた
「あー なんかごめんなさい りっちゃん、、」
「なんで謝るのタカ。
旦那さんは居ませーん!」
「え?そうなの?もう、、、亡くなってしまった、とか?、、」
「違うわよぅ。最初から居ませんって事よ。
私、結婚はしなかった。
いわゆるシングルマザーってやつ?
別に珍しい事じゃなくてよ。」
次から次へと進むジェットコースター並みの昔話にタカは戸惑いを覚えながらも、律子の穏やかな語り口に居心地の良さを覚えていった