音の記憶
「りっちゃん…」タカヒロはぎこちなく小声で言った
「聞こえませーん!」律子は少し意地悪っぽく、そして少女のように横目でチラッと悪戯に笑いながらそう言った。
「やっぱり 私みたいなおばあさんには呼びにくいと思っているのね?えぇえぇ、耳も遠くなってきましたし? 何れにしろ聞こえませーん!」
今度は少し冷たく拗ねたように言ってみる
タカヒロは少し緊張が解れたようにプっと笑い出す
「わかりましたー!! じゃ、りっちゃん!
あのさ、 さっき言ってたけどりっちゃんも若い時バンド組んでたの?」
「若い時? やっぱり今はかなりおばあさんと言いたいのね。」律子は再び拗ねてみた
「あっ、参ったなあ…」タカヒロは少し困ったように右手で頭をかいた
「冗談!冗談! そうよ、もう何十年も前になるわよ、あっ 頭で逆算しないでよ?女性は結構、年齢の話には敏感なのよ」
茶目っ気たっぷりに話す律子にタカヒロは次第に心を開いて言った
「高校生の時なんだけど 私達の学校は進学校でねクラブとかも少なくてね。 ブラスバンドや今で言う軽音部もなかったのよね。毎日がつまらなくてね。
ある日、ポロっとそんな話をしたの。音楽を楽しめるクラブがあればねーって。
そしたら隣の席の女子とその後ろの男子が盛り上がって 俺達で作ろうぜ!ってなった訳、、」
タカヒロは思った
生きて来た時代は違ってるけど なんだか生き方が似てると、タカヒロは律子の話に目を輝かせながら聞き入っていた
「それでどしたの?」
「それで私達クラスの三人で同好会を作ろうかって話になって担任の先生に相談したわ。担任が運良く音楽の先生だったの。
先生は進学校に赴任になった事を正直に少し残念だったと私達に話した
先生は私達みたいな生徒がいた事に偉く感動してね、、
そんな流れから メンバー募集のポスターを各階に貼らして貰って、、結局3人からのスタートだったのだけど、屋上や中庭で練習してるとね 風に乗って音が学校中を包んだわ。
それから一人、二人とメンバーが集まった。
だけど正直みんな技術的に誇れるほどのものは持ってなかった。
楽しめるだけでいいと言う感情よりも、そうね、、もっと熱いものを?求めるようになったの。 それが何か?なんて事は誰にもわからなかったけど何かを求めていったのね。」
律子は自分ばかり話してる事にふと気付き
「タカ、ごめんなさい 私ばかり話してたわね」
「ううん、続けて。もっと聞きたい!」
律子は記憶の糸を一本、一本手繰り寄せた。
「そう、あれは確か4月も終わりの頃…」