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In My Life ~ I Love You More~




舞台脇の重めのドアを開け、隆と律子は体育館外へ出た。

2人の曲から自然に流れるようにタカヒロのバンドは<In My Life>へと曲を移す

二人を待っていたかの様に一人の少年が近付く。 

アキヤだった。

「良かったよ。すごく。」 アキヤはズボンのポケットから煙草の箱を取り出すと箱ごと隆に手渡した。

「俺もまた・・やってみようかなって・・。

いろんなライブや路上を俺は見てきた。けど、こんな空気感初めてだった。正直、じいさん達に何が出来んだ?って思ってた。


・・年齢とか関係ないね。」



「そうさ。ここさ。」隆は自分の胸に親指を突き立て叩く。

「うん。俺の耳を通り抜けて心臓に刺さった。上手く言えないけど、そんな感じがした。


あ、それから・・2人はお似合いだよ。」アキヤは初めて笑顔で話す。

「あたりめえじゃねえか。俺の大事な女だ。愛してるんだ。」隆は照れもせず真剣な眼差しでアキヤに告げた。

横で聞いていた律子は隆の小指だけを握ってみる。


「アキヤ。ライブに出るようになったら知らせてくれな。」

「うん。約束するよ。・・で、おっさんもライブやる時教えてくれよな!見に行ってやるよ。」


二人は握手を交わし約束をした。





「ね、タカ。今から行きたい所があるの。」


_________________________________

2人が向かった先は学校帰りによく寄った駄菓子屋だった。

「まさかとは思ったけど、まだやってるのね。」「周りの風景が変わろうともここだけは変わんねえんだな」


季節はずれの浮き輪、出しっぱなしの簾、<氷>ののぼり。

ただ、中に入ればお菓子の並べられた木の台もステンレス製になり、袋入りのスナック菓子も幅を占め

年月を感じさせた。

「歳月流るる如し・・だな」ポツリと隆が言う


隆はあるものに目が行った。

おそらくこの店では年中出しっぱなしであろう麦わら帽子を手に取ってみる。

二つを手にし、一つは自分に、そしてもう一つは律子に被せて見た。

「可愛いぜ。律子。これ買おう。」

「お揃いのもの、初めてね。嬉しいわ」


残暑が厳しい夏の終わり。

思い出の桜の樹の下まで歩く二人。お揃いの麦わら帽子はほどよく光を遮るのだ。

西日の眩しさに律子は下を向く。

「眩しいか?この帽子は鍔が大きいから下を向かなくても大丈夫だぜ律子。」律子を覗き込む。律子は涙を流していた。



「・・ほんと泣き虫になったな。」隆はそう言うと律子の帽子の鍔を少し目深に被せ直し

西日に光る律子の口にそっと口づけをした。


親指、人差し指、中指と5本の指を絡めて手を繋ぐ。


どんどんと、そして真っ直ぐに歩く。無言のまま、ただひたすらに。


寄り添う二人の伸びた影だけは

あの時から何にも変わらない。

「大好きよ タカ」

「俺もだ。律子」


そして、これから先も

変わらない。














___________________________________________


「ねえ〜タカ!こっちの方が風が気持ちいいよ

ここにシート敷かない?」


「そうだな。りっちゃん今日はどんな弁当?おにぎり?卵焼きは砂糖にしてくれた?」



「したわよ~

だからさ りっちゃんって呼ばないでよ

タカだけよそんな呼び方

みんな リコって呼ぶのになんかおばさんみたい 」


「二人も子供いておばさんじゃん 」


「ひどーい 」

理奈子は子供のように拗ねた



「わーん 」


「正樹!また美桜をいじめたでしょ! 」



「ちげーよ!」  「正樹も、直に三年生なんだからいつまでも妹をいじめてたらダメじゃない!」



「パパー あのね、ミオがね、あのお花が綺麗だからね、 近くでみたい!っていったの

そしたらね、 おにいちゃんだけ木に登ってった。

ミオも登りたいって いったらねミオのぼうしを取ってね

高いとこにのっけた。」



「正樹!!

男は女に優しくするものよ」


「ハハハ。

男はこれぐらい悪じゃなきゃダメだよな?」


「あたりめーじゃん! 」

男同士顔を見合わす


娘の帽子を取りそっと娘に被せるタカヒロ


「ありがとパパ !」



「おい ミオ 次あっちいくぞ!」   「まってーーおにいちゃん!」




「あそこにお墓が見えるね 」理奈子がタカヒロに言った


「そう ・・・・

この場所は僕のじいさんと大切な人の眠る場所なんだ」



タカヒロは小高い丘の上からそこを見下ろしそう告げた



程好い風を受けながら理奈子は呟くように言う

「素敵な場所よね」



「あいつらが結婚してさ、孫が出来た頃 俺らはどうしてるかなあ 」


「そうね。 長生きしたいわね 」



「俺らは一緒の墓に入ろうな。」



「俺らは?・・当たり前じゃない ?夫婦なんだから。」



「夫婦だからって同じ墓に入るとは限らないよ

人生は長いんだ。先は誰にもわからないさ 」



「ふうん ・・

そうかも知れないね。

でも私はあなたとずっと一緒にいるわ。」



「ね?理奈子。」

「ん?何? 」


「もしさ、俺達が神様の悪戯でさ ・・」



「うんうん! おっかしいタカ!

悪戯って子供みたい 」


「真面目に聞けよー」

「ごめん! ごめん!」



「もし今 神様の悪戯で俺達が離れ離れになったとしたらどうする? 」


「やだ~ 悲しい仮説ね。

もちろん探しに行くわ。毎日毎日歩き回ってでもあなたを探す


神様は悪戯で私達を出会わせた

だからまた悪戯で離してみたの。


ふざけるなーっ!!て思ってあなたを探し続ける。

大好きになった人だもの「 もう一度、逢いたかった」って


そう言うの 。

そして、腕が痛くなるくらい抱きしめて貰らう ・・

そんな日を信じて歩きつづけるわね 」




       「タカ 大好きよ 」

       「俺もだ りっちゃん」






桜の花びらが風に舞い

小高い丘は一面桜に埋まった。


____________________________________________________


振り返れば 思い出される場所がある

すっかり変わってしまったはずなのに 今でも思い出したくない場所もある


無くなった場所もあれば 残っている場所もある

そんな場所は 恋人や友人のことを 今でもはっきりと思い出させる

死んだ人  まだ生きている人

今でもみんな 愛しい人ばかり


そんな恋人や友人の中でも

あなたは特別だった  色褪せないあなたを思い出す時

他の記憶は 虚しいばかり

過ぎ去った人や思い出は

いつまでも 愛しいだろう


でも、私の人生であなた以上に愛しい人はいない 

これからも 静かに思い出すだろう


私の人生であなた以上に愛しい人はいない


In My Life I Love you more・・・。










最後まで読んでいただきありがとうございました。

大好きなビートルズをふんだんに入れさせていただきました。

後半のタイトルに使う事は後半で決めました。

頭の中で音楽と本文が融合すれば素敵だなと思いました。


回想部分を書くにあたり、誰が回想すれば馴染むんだろうと悩みました。

それによって流れも変わりそうな気がしました。

結局、語り手がバラバラになりましたが、きっとこれが私の書く私の形なんだろうと

自分で納得しました。


人は生きていく中で いろんな出会いがあります。楽しい事や嫌な事含め、

出会わなければ良かったなどという出会いはほんとは無いものと私は信じたいです。


音楽好きの律子が軽音楽を作り、そこで隆と出会う。

音楽を封印したはずの隆はタカヒロや再会した律子によって変わる。人間嫌いの隆が心を開いていく。

若い看護師もまた隆によって変わる。最後に登場したアキヤも隆と律子の真剣な熱い演奏によって心が動く。


出会うって最高じゃないですか。

あなたの中にもう一度、逢いたいって人はいますか?

私はいます。


隆の場合置き忘れたものは<後悔>の二文字でした。

一方、律子は きっとまた逢えるという<希望>でした。


そんなすれ違いなまま時が流れました。

もう一度、逢いませんか?


あなたと、誰かの人生。置き忘れたものを探しに。






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