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Hey Jude

「きゃ~タカヒロせんぱーーーい!こっち向いて~~!」

タカヒロの人気ぶりはすごいものだった。


「タカヒロくんすごいな!」「ほんとね!タカヒロくんはルックスも抜群な上にギター抱えた姿も格好いいもの!」


律子の孫と下野が話す


タカヒロ達は汗を飛び散らせながらステージいっぱいを使いオーディエンスを煽る。

座っている生徒はどんどん立ち上がり女子に至っては前に詰めより、ライブハウス並みにステージ前は溢れる


舞台袖にスタンバイしてる隆は

「あいつら、格好いいな。本気だ。会場がほんの数分で一つになってやがるぜ。

あー俺も、もう一回・・戻りてえな。ガンガンと掻き鳴らして気持ちいいだろうよ」

顎に手をやり髭を触りながら独り言を言っている。


そんな隆の様子を律子は見つめ、隆にこう告げた


「また、やれば?・・・河もんはもういないけど、下野くんもいるし、後のメンバーも連絡取ればいいのよ。」

「今さらか?やってくれるだろうか?」

「わかんないわよ。だから自分から動けばいいんじゃない?長い間、それぞれがそれぞれにいろんな道を来たと思う。諦めていた事も沢山あるだろうし。


タカ、今ここに私達が同じTシャツを着て舞台袖にいる。こんな事は奇跡よ?再会出来ただけでも幸せ、それで十分だったのに。人間って欲の塊だわ。次々に求めるものなのよ。


タカと暮らせる。そんな夢みたいな事も目の前にある。


やりたい事をしたらいいのよ。やりましょうよ。すごく楽しいかもね?」


律子の言葉に隆は真剣に耳を傾けた。

そして隆は律子に拳を突きつけた。「成功させようぜ。律子。お前の伴奏、心を込めてやらせてもらうよ」


律子は隆に拳をつけた

「ええ。」律子の、律子らしい笑顔で頷いた。




「ではここでゲストを紹介します!!山村 隆さん、広沢律子さん。どうぞ!!」

隆はスタスタと先に歩く


マイクにすら近寄らず無表情で舞台中央の椅子に腰かける。

律子は軽く会釈をしながら椅子に向かい、静かに座った。


隆の無表情な顔は 甲高い黄色い声や手拍子なんか必要ないと言わんばかりの雰囲気にさせたのだ。


静まり返る会場、再び落ちる照明。

スポットが丸く二人を包んだ。背景にはタカヒロが美術部に頼んでおいた大きな木がシルエットのように黒く浮かび上がった。




~Hey jude ,dont make it bad

Take a sad song and make it better

Remember to let her into your heart

Then you can start to make it better~   律子の歌いだしから始まった


隆の優しい音が律子の声を上手く拾い調和する

17歳の律子の声と67歳の律子の声をちゃんと考え、隆は今の音を探求してきた。


全てを取り戻したい。あの時のようにしたい。そう思う気持ちが何度も空回りをした。

だが律子に言われ気付いたのだった。 

『過去に拘らないで 今の私達の音を作りましょう』




年齢と共に部分、部分がハスキーになりつつある律子の声を

カバーではなく生かす術はないのかと。


隆は分かっていた

どんなに練習をしようが合わせようが技術の面だけではライブという空気には勝てないと言うことも。

全ては本番だけが物を言うのだ。


律子もまた分かっていた


先日の隆の伴奏で50年ぶりに歌ったにも関わらず、すんなり歌い上げれたと言う事。

隆を愛し、隆のギターを愛し、そして信じ、安心していた自分。


貴方だから成功した。だから今日もそう。貴方だから成功をすると。


心が繋がると言う事とはそういう事なのだ。

合図もいらなければ言葉も必要ない。


静かに聴いている学生達は皆舞台に吸い込まれている。微動だにしないのだ。


歌い終わり律子は立つ。丁寧にお辞儀をした律子の肩が震えだした。

律子は下を向きながら泣いていた。


隆は律子の涙が見えた。「律子。良かったよ。さあ、顔上げな。

聴いてくれた人たちの顔をきちんと見なきゃダメだ。」と小声で伝えた。


隆も立ち上がる。正面を見据え会場を見渡し深々とお辞儀をした。


その時、律子の肩にヒラヒラと何かが落ちてきた。律子が肩に手をやりそっと掴んだ

ピンク色の折り紙が丁寧に花びらの形に切られている紙だった。

ヒラヒラ..上を見上げた。緑や黄色、銀色の小さな紙が沢山舞い降りてきた。


隆も驚き自分の髪についた紙を取る。銀色の丸い紙だった。

ヒラヒラ  ヒラヒラ どんどん降って来る。


いろんな色の紙が舞台の二人の元に舞い降りる。


四月の桜、新緑の緑、落ち葉の黄色、そして雪。タカヒロの案だった。

春夏秋冬いろんな季節が流れ、繰り返された50年。二人の思い出の桜の樹の下。


どんなに時が経とうが関係なかった。

あの日の二人の消えそうな願いが今こうして実現された。

仮想空間の花びら、落ち葉、雪が舞う下、隆と律子の時間はもう一度だけ、止まった。





       Then you can start to make it better・・・

       その時、全てがいい方向に向かい始めるのさ・・・


_________________________

舞台を降りた隆は真っ暗な裏口の扉の前で律子をギュッと抱きしめた。

「律子、ありがとう。

それから・・・・済まなかった。高校最後の大事な舞台に俺は・・・・

この前、律子の店でこの歌をしなかったのは分かるだろ?

時代は流れちまった。けど、この広い会場の中でライブハウスではないこの場所で緊張感に包まれ

沢山の生徒達の前で歌うと言う事をあの時のように感じて見たかったし、感じて欲しかった。

・・・17歳の時に忘れてきたものを取りに来たかった。」


隆は律子を抱きしめたまま律子の髪越しの耳元に唇を押し当てるように話した。



「タカの考えてる事はなんでも分かる。・・・あの時の気持ちが蘇ったわ。ほんとよ。

たった一回限りの本番でしか出せない私達のグルーヴが出せたと思う。思うじゃないわね。


出せた。ありがとうタカ」隆の胸元に顔を埋めながら律子は言った。











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