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Here come The sun

いつも、いつもこうして目を閉じてきた。

もう逢えないのなら忘れようと何度も何度も目を閉じた。夢のあなたを追いかけては同じ朝を迎える。

今また目を閉じれば、、、


律子は眠れないでいた。

 『また同じ朝が来てしまう』と。



「タカ、タカ やっぱり眠れないの。起きて。」 珍しく律子はわがままに隆を起こしてみる


「ああ、律子、実は俺もほとんど寝てねえ。」


「昨日、ここにあなたを探しに来たわ。掃除をされてた人が名札をはずしていたの。山、、って文字が見えた

その瞬間、頭が真っ白になったの。生きて必ず会うって決めてたの。私が癌だって分かった時もそう、私は死なないって。・・・だからタカも死ぬはずないのって・・だから、だから」



隆は興奮気味に語る律子を宥めるように


「律子、俺は此処にいるだろ?  俺の病室は一番奥だったんだ。昨日、退院手続きを終えてな、会計を済まして荷物やギターを取りに戻ったら律子、お前が倒れていた。タカヒロも一緒にいてタカヒロが律子だって気付いてな。・・・俺もびっくりしたんだぜ。

まさかこんな形で再会するなんてな。」


「タカヒロくんもいたのね。あんな中途半端な形でタカヒロくんとも・・・。」


「今日、昼過ぎにタカヒロも来る。一緒に律子を家まで送ってやる。

律子、窓の外を見てみろ。俺たちの方をジっと見てるぞあの鴉。」



窓の外から2羽の鴉がこちらを見ていたのだ

「あの子達も再会したんじゃない?この後は何処に行くつもりなのかしら?」


「誰にも分かんねえさ。今を必死に生きて、生き抜いて。先の事なんか考えてねえんだろうな、

だが人間は違う。この先に何があるか、何を探しに行くのか、前を向く事が大事だと思う。


若い俺もそうだった。けど何かを焦りすぎたんだな。今でもその何かが分かんねえんだ。ただ突っ走りすぎた。

・・・

なあ、律子 ずっと心に引っ掛かってた事があったんだ

俺とユニットを組んだのに出来なかったろ?

恨んでる?俺の事、、」



「恨む?タカを?

そんな事を気にしていたの?

桜の樹の下で毎日、毎日歌ってたじゃない。

嬉しかったのよ。

本番とか関係ないわよ


私はタカのギターで歌えた事が幸せだった。

優しい音色を奏でる。タカしか出せないタカの音。

貴方の隣でああやって歌えた私は幸せ者。そう思う気持ちは当時のまま 変わらないわ。


今でも思いだすの。 あなたのギターの音、あなたの匂い、・・そして優しいキスを。


タカを恨んだ事は一度だってないわ。本当よ。



ここ何十年とね、 もちろんそんな機会もあったの。

だけど私は頑なに断り続けてきた。

私はタカ以外の人のギターで歌うつもりはなかったから。



大学やライブハウス、結婚式、、ギターは弾いて来たけど歌だけはね。」




「・・・まるで鳴き方を忘れたカナリアみたいだな。


律子、俺の願い、聞いてくれないか。


俺の大切なカナリアにもう一度息を吹き込みたい。



チャンスをくれないか?

お前の伴奏をしたい。


指が動くがどうかわかんねえけど


俺、、。 」



「今度は火を点けないって約束する? 」 横目でチラっと悪戯に笑いながら言ってみる


「律子、俺は本気で言ってるんだぜ?」




「冗談よ!」

「・・そんな事分かってるさ!  塩化ストロン、、なんとか?でやっちまうか?

・・冗談だ。」



「タカありがとう。

夢 じゃないわよね? 」


「くどいぜ!夢じゃねえさ。」


明け方の静かな病院の一室で、律子と隆は初めて未来を語りあった。


律子は隆の横で再び歌う自分を想像する



太陽が昇りきる頃いつのまにか鴉の群れも何処かに飛んでいなくなった。



闇は開けた。

心の中にあった不安な気持ちも何処かへ飛んだ、、そんな気がした律子だった



「律子!リベンジだ。文化祭で歌う事にする。」


「文化祭? 」


律子には意味が分からなかったが


ただ、隆の真剣な眼差しに全て預けてみよう。


律子は



「ええ。」

それ以上は何も言わなかった。


律子と隆は今も昔も変わりなく繋がっている。


余計な言葉なんていらないのだ。

______________________________

眩しい日差しが二人の顔を包んだ

二人は再び顔を寄せ、おでこをつけ、鼻を擦り合わせ、頬を合わせる


一秒、一分後の未来をも

今は二人だけの過去に変えてゆくのだった 。




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