刹那
部屋に戻った二人は今までの事を話した。そう、二人の時が止まったあの日の事を。
「タカ、 文化祭の時なぜ一言、相談してくれなかったの?」
「あぁ。 」
「ジミヘンの事。
一言・・一言みんなや私に言ってくれれば演出に変える事だって出来たのよ。
学校、、、 辞めなくて良かったのよ 、、
ねっ 知ってる?燃え盛る炎にアルコールを拭きつけるの。アルコールに溶かした物質によっては炎の色を自在に変える事が出来たのよ?
暗幕の張られた舞台では最高の演出になったわ!
例えばね、塩化ストロンチウムは赤、ホウ酸は緑、塩化リチウムに至っては深紅になる。
・・・・そんな事、後で思っても仕方ないのに・・なんかね、当時は振り返ってばかりいたの。かなりショックだったわ。どうしてタカが学校を辞めてしまわないといけないのって。」
「そうなのか?さすが律子はよく勉強出来たからな。
最初はサプライズでやろうと軽い気持ちもあった
だが親父の事や なんだろな・・いろいろあったんだな。
今考えれば浅はかだったが
けど後悔はしてない。
俺の生き方のシナリオには最初からあったかもしれねえ。そう思ってるさ、今でもな。 」
「そうね あなたらしいかもね 。
ねっタカ?
簡易ベッドは固いわよ
横に来る?」
「律子、、二十年いやせめて三十年若かったらな
律子、やろうぜ!
なんて言えてたのにな?」
「馬鹿ね!タカったら!
そうね私ももっと、もっと若かったら?
しよ!なんて言ってたかもね?」
「ホントか?」
「言わないわよ! ばかっ。
ねっ手を繋いだまま眠りましょうよ。」
「おう。」 大きな手で律子の細い指を握る隆
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夜中に暑さで目を覚ます律子
繋いでいた手はいつの間にか離れていた。
なんとなく現実に戻ったと思った
律子は、隆の背中をじっとみつめていた。
会いたかった人が今、 この今私の十センチも離れていない此処にいるのだ
律子は隆が愛おしくたまらなくなった
律子は隆の背中に顔をつけ背中に抱きついた
温もりを感じたかったのだ 向けられた背中に
歩んで来た道のりの長さやそれぞれの環境の違いを知らされた思いもしながら
律子は隆の背中にぴったりとくっついてみた。
朝方、病院の周りでは鴉が沢山飛んでいた
うるさいくらいに泣いている。
病院からさほど離れてない場所には火葬場や墓地がある為か
入院中は毎日鴉の声で目覚めていたが気にもとめなかった
ただこんな日の特別な朝は違った。
鴉の声が切なく響いた。律子の心の中に染み付くように大きな声で鳴いている
カアカア 、カアカア
何かを探しているのか、ただ共鳴しているのか・・それとも威嚇しているのだろうか・・・・
鴉の奇妙な声を聞きながら 律子はギュッと隆にくっついた
律子は思う
これから、この先どんな朝を迎えようと
鴉の声を聞く度に私はきっとこうして貴方の事を思うんだろうと。
近くにいるのに遠い人、、 人は時として過去を思い出す瞬間に五感が震えるように騒ぎ出すのだ
あの時の・・匂い・・あの時のBGM・・あの時の風景・・
薄暗い窓の外、電線には薄気味悪い鴉たち、けれど自分の横には大好きな人がいる
「う、うーん暑いな」 寝返りを打ち、 隆が目を覚ました
「律子 寝れないのか?」
律子の方に向いた隆に律子は告げた
「ずっと一緒にいたいわ。」
隆は黙って頷いて律子を抱きしめる
「鴉か?うるせえな。 」
「なんか怖いわね 」
「ん?鴉が? 俺がいるだろ?
まだ夜明けだ。 寝なよ」
隆は律子の髪をなで 髪の毛にそっと
キスをした
カアカア カアカア、、
今は何も考えず、ただ隆のぬくもりに甘えていたい。と思った。
時が止まるなら、今がいい。まるで刹那主義の若者のような・・そんな気持ちに似た感情だった
「腕枕、してやろうか?」
「いいわよ。タカの腕が痛くなるわ」
「なに遠慮してるんだ。」そう言って隆は右手で律子の頭をそっと持ち上げ自分の左手を律子の頭の下に
そっと入れてみた
カアカア、カアカア・・・・
「鴉の声が愛おしく思えるまで腕枕しててやる。だから寝なよ。」
律子はそっと目を閉じた。