ハロー・グッバイ
タカヒロが見たものは
タカヒロが祖父、隆の部屋で見つけたのと全く同じ写真が目の前にあった。
今、自分の横にいる美奈とよく似た顔の律子の写真。それだけでなはい、
軽音部のみんなが文化祭の当日に撮ったであろう写真やリッケンバッカーとギブソンが仲良く二本並んでる写真、小高い丘の二本の桜の樹、
二人の思い出の全てが色取り取りのフライヤーに混じって
貼ってあったのだ。
そしてもう一つタカヒロを釘付けにしたものがあった。それは額に入れられ特別な存在として飾られていた
文字入りの袖の部分だけが焦げた黒のTシャツだった
額縁の中に大切に飾られたそれの中にはおそらく手書きのものだろう
こう記されていたのだ
[いつかまた、あの樹の下で・・会いたいね。
もう、一度逢いたいね]
と。
ライブハウスは青春が詰まっていると言ってもおかしくない場所だ。
誰も不思議がる事なく
誰も聞く事もなく
ごく普通に、ごく自然にそこに存在して当たり前かのように・・・・。
その言葉は律子が願い続けた事なんだろう。
タカヒロはそんな事を思うと胸が痛くなった
最初はきっとこれが一番に飾られたんだろう。時が流れたくさんのフライヤーが入れ替わろうとも
何年も、何十年もこれだけは変わりなくここに飾られていたんだろうと。
「美奈ちゃん ありがとう
今日ここに僕を誘ってくれて
・・・りっちゃんに会いたくなったな。
毎日二人で本を読んでる時ね 楽しかったんだよ。」
「うん。」 美奈は優しい表情で、ただ一言だけの言葉で頷く
「僕のじいちゃんをここに連れて来る。
退院したら連れてくる。絶対。」
「うん。待ってるね」 美奈は律子と同じ表情の、口をキュッと結んで、今度は笑顔で頷いた
タカヒロは今度は先に歩き再び店内に入る
冷めた紅茶と残りのケーキを頬張ると
リュックから財布を取り出した
「いらないよ。美奈の奢りだよ!」
「ダメだよ いくら? 」
「じゃ次回奢って!また来るんだよね?」
「うん そうだね! そうする。ありがと」
「おじさんご馳走さまでした!ケーキ美味しかったです!」
カウンターの美奈の父親にも声を張り上げて言った
「あいよ!また来なよ!」
店を出ると夕方の空が夜を迎えようとしていた
「送るよタカヒロくん 待ってて。」
「いいよ!バス停が来る時に見えたし、帰りはバスで帰る!
女の子に送って貰うなんてダメダメ!」
笑いながらタカヒロは店を後にした
「タカヒロくん またね!グッバイ!」 「うんバイバイ!!」
グッバイかぁー。
ハロー グッバイ
<こんにちは >
<さようなら >
そして・・こんにちは。
さよならは こんにちはとセットなんだな。
りっちゃんの過去の「さよなら」は未来の「こんにちは」になる希望だったのかな。
さよならは別れの言葉じゃなくて、再び会うまでの遠い約束。・・・
ずっと前に母さんが口ずさんでたっけ。
遠い約束を交わしたのかな?さよならは言ったのかな?
・・・わかんないや。
タカヒロはバスに乗るために時間をみる
時計をしないタカヒロは鞄から携帯を取り出した
「あっ着信
じいちゃんだ。」
タカヒロはかけ直す
「じいちゃん。ごめんね!今日はすごい一日だったんだよ!電話では話せないほどさ! 」
タカヒロは興奮しながら話した
「どうしたんだ?なんだか楽しそうだ。
、、電話したのはだな、、律子にやっぱ会わないといけねえ気がしてな。
それだけだ。じゃ切るな。」 「じいちゃん今度ま・た・・もしもし?・・マジ?」
電話が苦手な隆は用件だけ言うとすぐに切ったのだ。
バス停に着くまでにすっかり夜の帳に包まれた
人通りの少ない闇の向こうから
眩しいライトを放つバスがやって来る
バス停近くの木々達は夜の風にサワサワと音を立てていた。