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その先に

隆は待った。


待っていたのだ。散髪も済ませ、髭も久しぶりに剃り、後、パジャマが揃えば万全だった





しかし、肝心の律子からの返事が来ないのだ

手紙を渡してから既に、4日も経っていた

いつもはその日か次の日には繋がっていた。互いに長い年月の空白の時を

短い文ではあるものの、それに置き換えられた一文字、一文字の言葉達は柔らかな温もりを持ち始めていた


   それなのに・・と

隆の心は別の所にあった



「検温ですよ 山村さん。」 ハッと我に返る


この階の石野婦長だった


「石野さん 小川婦長から、、預かってないですかね?」


「そうね 最近は来られてないわね。」


「忙しいんですかね?」

「まあ忙しいのは毎日ですよ。」


点滴の残量を調べ、用紙に記入をしながら、表情さえも変えず淡々と話しを続ける石野


「最近は急患もないですし、退院の方も増えてるのでね  来れない事もないんですけれど。



ねぇ、山村さん 最近いい顔してらっしゃるわ。


楽しみが出来たのかしら?」



「いや、まあ。・・ その恥ずかしながら人と接する事って、鬱陶しく思っていたんだが


なんかね、、、

人間は一人では生きていけねぇなと、この年で分かったんです」



「そう。こんな退屈な入院生活だけど時間がありすぎていろいろ考えるでしょう?

日常の生活なら気付かなかった事がね

非日常に晒されると分かるものですよ。

白い天井に飾り気のないカーテン、味気ない病院食、それにヒステリックな眼鏡看護婦、それ以外ないですものね?

分かりますよ。」

茶目っ気を出し、そう伝える石野


隆は目を丸くさせ、口をへの字にしながら頭をかく、「参ったな、、」

ピピピ...ピピピ...


体温計の音が優しく会話に入り込む



「うん、よし。安定しているわ」


体温をカルテに書きながら石野は言う



「山村さん、 小川婦長に聞いておいてあげるわよ。


あっそれから・・・


髭、ない方がいいですよ!」


ヒステリ眼鏡と思っていた石野の笑顔に隆は戸惑いながらも 嬉しかったのだ



「有り難うございます。

ああ、 俺に惚れちゃいけませんぜ。火傷しますからね」



「あら大変!退散しなくっちゃ?」


二人は初めて笑顔で語り合ったのだ


看護士と患者でなく

人として接したのであった。

__________________


タカヒロが夕方にやって来たのだ



「じいちゃん 調子どう?」


「おう タカヒロ!安定してるよ 直に、俺も退院だ」



隆はボディビルダーの真似をして、軽く腕を曲げてみる



「じいちゃん なんだか明るくなったね!おっかしいや! だけど色が白くなったんじゃない? 体で勝負の男は肌の色も肝心さ!

やっぱね太陽の光りを浴びなきゃね!


律子さんに会う前に日サロでも行く?」


タカヒロはおどけてみる



「ヒサロ?なんだか解んねえが予約しておいてくれよ! ピンサロではないな?」




「・・じいちゃん 日焼けサロンだよ!


病院の中にあったらびっくりするよ


アハハハハ! 」



「金払って体を焼くのか?

軟弱な奴が行くとこだな。



それはそうとタカヒロ、 律子から返事来ねえんだ。 」


「え?そうなの?四日前だよね、、

分かった!りっちゃんもあれじゃない? 」



「なんだ? 」



「美容院行って、パジャマも新調してるとか! うーん・・

それか、、、具合でも悪いのかなあ?


ねえ、じいちゃん、これに着替なよ」



タカヒロは紙袋から真新しいパジャマを出した


絹織の黒めのパジャマだった。



「おお! こんなの家になかったよな?わざわざ買って来たのか?へぇ~渋いなぁ~今はこんなのが出てるんだな」



隆は早速、右手を通してみた


「渋いけどよ、 なんだかマフィアみたいだな。葉巻でも持つか!」隆は嬉しかった



「待ってても仕方ないから行こ。」

「いや、 もし律子の体調が、、」


「そん時は婦長さんに一言告げて引き返せばいいのさ。僕がりっちゃんに会いたいのさ。」


「そうか?

タカヒロが会いたいのか!...なら仕方ねえな。」






二人はエレベーターに乗り込む


隆は思う


この息苦しい殺風景な乗り物に何回乗った事だろうと


入院が決まって重苦しい気持ちで乗り込んだ事


けして楽ではない検査の為に度々乗った事



金髪娘とぶつかり 自分という人間に愛想つかしてこの壁を殴った事



しかし今、 ドキドキとしている

学生の頃のような気持ちを抱いている


この扉が開くと律子に会える


まさにタイムマシーンに乗り込んだ気分だったのだ


50年前というボタンを押す俺がいる



<6階です>

聞き慣れた自動音声が流れる


チン! と音をたて扉が開く

なぜか降りる足が竦んだ



「じいちゃん、行こう。」

タカヒロの手が隆の背中を優しく押す


胸の鼓動が早くなる


「じいちゃん?大丈夫 」


「おう」


エレベーターの斜め前の受付が見える



「こんにちは。」タカヒロが受付に挨拶する




「わっイケメン!やばくない?かなりイケてる!」


ヒソヒソとナース達が話ししている


後ろの隆も遅れて挨拶をする


「こんにちは。」


「あっ!あのじいさんだ。」


新人ナースと美山が顔を合わせる



「なんだかダブルヤバいよね、、。 」


婦長が気付き前に来る


「山村さん!この方 お孫さん?」



「はい。」


「まあ 俳優さんかと思ったわよ!」


照れるタカヒロ


「あなたが広沢さんのお友達だったのね!そりゃ楽しみが増えて元気になるわ! 」



わざわざご挨拶に?


「え? まあ、、」 と隆は言う



「あの広沢さんは今日?

今 検査ですかね? 」



「えっ?ご存知なかったの? 」


「えっ?」


静かな空気が流れた


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