若葉の頃<5>
軽音部の面々が同じベクトルに向かって走りだした。
河本も文化祭に向け隆と協力し、自身の気持ちを封印した。向かうべき、やるべき事はただ、一つだと・・・。
「隆と河本で進めてくれたセットリストを発表します」律子がメモを見ながら話す
1、Revolution
2、Help
3、Can't By Me Love
4、All You Need Is Love
<メンバー並びに楽器紹介>
5、I Want To Hold Your Hand
6、Ob-La-Di Ob-La-Da
7、She Loves You
8、Hello, Good Bye
9、In My Life
以上のメロディ特集で行きます
ギター、ドラム、ベース、キーボード以外の使用楽器は、クロマチックハーモニカ、 タンバリン、 カホン
後、ハンドクラップも入れて行きます
隆、河もん 続けてください
「can't by me loveではエフェクター ワウペダルを使う、
繋ぎの部分も後々言うが山下はバッキング。
3曲目で俺と入れ替わってくれ。
I want to hold your handでは梶谷がハンドクラップ、オーディエンスを誘導してくれ。
she loves youでは一年でタンバリン・・・.8曲目では俺と河本ダブルボーカル。
・・このセトリにはいろんな思いが入ってる。特に3年の俺らは今までいろいろあった。
一年に言っておくがセトリってのはとても大事だ。曲調を揃えるだけでなくオーディエンスの心の目を向かせることだ。ワンマンになってはいけない。わかるか?
まあ一番大事なのは俺らが楽しむ事だ。いい加減な気持ちでやれば向こうもそういう目で見る。
隆の白熱した指導は続く
「2部は隆とりっちゃんで・・Hey jude。隆がアコギに持ち替えフルの7分で行く。」隆に代わり河本の説明が続く
それから俺たちの当日の衣装は上は黒のTシャツ。背中に文字を入れる。
その文字は<Revolution>革命だ!!
以上。
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軽音部は6時半までの練習は許された。受験組は仕方なく帰って行く
隆と律子は二人だけが知る場所で部活の帰りに毎日立ち寄る
「律子!おめーはサビの部分の声が弱いんだよ。ハリがない。」
メンバーの中で唯一呼び捨てにする目の前にいる少年がやけに大人びて見えた
少年は男らしいゴツゴツとした指で優しくアルペジオで音を奏でる
律子にはそのギャップがたまらなくドキドキとしたのだ。
普段 無口で偉そうに話す彼なのにギターを抱え弾き初めると柔らかないい音色を出す。
エレキの時は大人顔負けの技術でジャカジャンと掻き鳴らす
律子はいつの頃からか信頼や尊敬
それが恋という感情に移り変わるまで 時間はかからなかった
ただ メンバーで活動して行く中で 特別な感情はご法度だとは分かっていたが・・・。
心にしまったまま 高ぶる感情を押し殺したまま 毎日の練習をたまらなく喜んでいた
「律子。俺、お前の声好きだよ。良いと思う。」
律子は心臓が破裂しそうだった。
「だけど、なんとかなんねーのか そのサビんとこ。も一回Bメロから行くぞ。」
「な、なによ、 褒めたと思ったらすぐけなすなんて。
ギターの技術でなんとかカバー出来ないの?出ないもんは出ないのよ。」
「俺は弾く。お前は歌う。カバーも何もないぞ。」
冗談で反論しても真面目な顔で返答する
そんなやり取りさえも心地好いほど
律子の心は熱を持った
「私の事嫌いなんでしょ?だからきつい言い方するのねいつも。 分かったわよー!ギターに負けないくらいになってやるわ!
一章節目から通しでやるわよ! さん、はい!」
クスクスと笑い出した
勝ち気な性格な癖に弱い部分を時折見せる 律子の事を隆もいつしか同じ感情になっていた
「律子、お前の声 聞こえねぇから 正面じゃなく真横に来てくんねぇ?」
「なによ、私に指示するの?
あなたのフィンガーテクを見なければいけないのにさ?代表としてね。」
相変わらずの口調で横に移動する律子
「じゃ 最初から通す…」
不意に律子の唇に隆の指が。 内緒のシー とうしぐさで人差し指を律子の唇に当てる隆
冷たい風が隆の指の温度を下げていた
律子の唇に隆の指の温度がひんやりと伝わる
ドクドクと心臓の鼓動が波打つ
柔らかい律子の唇の感触を確かめるように 隆は自分の指を左に右にと移動させてみる
隆の真っすぐな瞳が律子を見る
律子も見る
「ハハハ何ドキドキしてんの?」
「はあ〜? いい加減にしてよね!!」
ドキドキした気持ちを見透かされた事に腹立たしさと恥ずかしさが入り混じった。
律子は右手をあげ 反撃に出ようとした
隆は律子の右手を反射的に掴み その手をグイっと引き寄せた
次の瞬間
二人の唇は
同じ温度を持った。
ただ重ねるだけの柔らかな時。しばらくそのままでいた。律子は薄目を開け、近付いた顔を確認する。目を閉じた優しい顔がそこにあった。律子がゆっくり腰に手をかける。同時に律子の背中に温かさを感じた。
満開の桜が半分緑になり、そして木々の全体が緑一色に変わる頃 二人の気持ちも新緑のように季節を変えようとしていた。
ヒラヒラと最後のひとひらが舞い隆の肩に辿り着いた