若葉の頃<3>
次の日の昼休み 河本が律子を呼び出す
「りっちゃん 文化祭の時間ってやっぱ減らしてもらわねえ?練習の時間を考えるとやっぱ無理かも。俺たち・・
下野達が昨日、隆に絡んだけど気持ちが一杯一杯なんだと思うんだ。
もちろん隆の言い分も間違ってはないけど、あいつの言い方がなー。」
「・・うん。みんなの気持ちは分かった。だけどせっかく時間を貰ったんだよ。ほんとはいつも賞を貰ってる演劇部やバトン部の方が時間が長いはずだった。だけど生徒会のアンケートで私達、軽音部が評価されたんだよ。
貴重な時間を貰ったんだよ。
私の説明不足も悪かった・・今日の部活の時にみんなに話してみる」
「ごめんな。あ、それとりっちゃん・・もし時間が余って仕方ない時は・・俺なんか考えるから!」
「ありがとう~!!助かる!」
5時限目の開始のチャイムがなる
二人はそれぞれの教室に戻った
____________部活の時間
開始前に律子はみんなに説明した
下野が言う
「部長の言いたい事は分かるよ。でも現実は厳しい。俺らだってやる以上は完璧な演奏をしたいと思ってるよ。オーディエンスの心を掴むようなものに仕上げたい。だけど練習量が足りない。
家に帰ってはもちろん親にやいやい言われるし。ほんと厳しい。さっき隆と河本がちらっと言ったけど
メロディやる意見 俺は賛成だ。最後の集大成だし。
一年や2年がもっと人数居れば2部を任せられたのにな。
だから・・1部で精一杯なんだ。」
他の3年も同じ意見だった。気持ちは同じところにあった。
「みんな中途半端な気持ちでライブをするわけじゃない。それは分かるだろ隆?」
隆は頭では分かっていた。だが納得したかと問われたらyesとは言えない自分もいた
「・・・仕方ねえ。河本はどうなんだ?」隆が頬杖つきながら河本の方を見る
「みんなの気持ちは文化祭のライブに向かってる事も分かった。だけど俺も2部までの余裕は厳しいかなと少し思った。だから一部を最高の出来に仕上げて2部は下野以外、ユニットって感じで2組みほど作ってアコギで座ってやってみるとかー 山下は例えばクロマチックハーモニカがバリバリ上手いし、梶谷はカホン出来るし、なんか案出せばあるぜ?俺は・・」
河本の話を最後まで聞かず隆は発言する
「俺が律子と2人でユニットするぜ。どーせみんな時間ねぇんだろ?山下、梶谷どうだ?」
「うん・・時間が・・やっぱ・・」
「俺もな。1部でカホンも入れていくよ。obla di obladaみたいなんだったら楽しくなりそうだし!2部はりっちゃんと隆に任せるよ」
河本は心が苛立った。<なんで隆が律子と・・>
悔しかった。
「隆!いいね!それ! ダブルギターでガンガンやってみる?」律子が弾んだ声で言ってみる
「いいや、俺が弾いて律子が歌えよ」
律子のはにかんだ顔を河本は気付いた。
ガラガラ
教室の扉が勢いよく開いた
「新聞部でーす。文化祭の案内文と写真をお願いしたいんですが~」
律子が席を立った
「あー 案内のコメントは後日にして貰っていいかな?写真は今日、全員揃ってるし宜しく!」
「なんにも決まってないんですか?」新聞部の部長が不服そうに言った
「ちょっとね揉めたりいろいろあって。だけど大体でいいかな?」
1部にはメロディ特集&いろんな楽器。2部は 特別ユニットによる演奏だと告げた
「へえ~~楽しそう!いろんな楽器ってどんなのですかね?えっと全体の写真とユニットの写真、それから楽器の写真と計3枚で行きます。コメントは早めに下さい。構成の都合もありますので」
まるでマニュアルがあるかのようにサラっと言った
次の瞬間、フラッシュをたき始めた。
「OKです!最高です! 楽器は今なければ明日また願いしますね!ではユニットの写真下さい~黒板の前辺りに来てもらえますか?」
「めんどくせぇな~」隆は写真が嫌いだった。笑顔を作るのが苦手だからだブツブツ言いながら移動する
「隆!笑いなさいよ!2ショットなんて撮れないんだからね!律子さんとの写真は貴重よ?」
「はい撮りまーす!山村君 笑ってくださーい!ハイ チー・・笑ってください~~」
「早く撮れよ。」
「は、はい・・ 」カチャ
「あ、ありがとうございました~~」
「隆は相変わらず怖がられてるね?」 「あいつは何枚も撮る気だったぜ?素人の癖によ~」
「そうよね!隆はプロなのにね?」律子が茶化す。
2人の空気が日に日に濃くなってる事に気付いたのは河本だけだった。
「・・・りっちゃん、嬉しそうだったね。写真の時の笑顔・・可愛かった。・・俺も力になれる事あったら言ってね。
応援してるさ」
「あー 河もんありがとう! ねえ 隆~~どんな風にするの?」
今の律子には、隆しか見えなかった
「隆、さっきの写真ね、出来上がったら余分に焼きまわしをしてもらうね。
いらねぇーなんて言ってもだめなんだから。・・文化祭良いものにしようね。」
「ああ。」
部長としての発言でない事くらい 隆も気付いていた。
隆も笑顔を見せるようになっていった。