若葉の頃<1>
――――――――――― 隆、高校三年の春
軽音部代表 広沢律子
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放課後、律子が召集をかける
「みんなー!はいーは~い 集まって~。文化祭のミーティングしまーす。
今年はなんと!我等が軽音部25分も貰いました!去年より10分も多くいただきました!拍手!! 」
「ほんとに?じゃ何曲やれんだろー?」
「なんでなの?」
「まあー今年が創立10周年って事もあるんだけど、 三年前からの私達のライブの評判がかなり良かったみたいなの!」
息つく間もなく話し続ける律子
「一年生には今から説明しまーす
毎年、二部構成でやってるのね。一部は勿論 BEATLESで二部は毎年アイデアを出し合い変わり種をやるんです。 一部は午前の部の最後で、二部は午後の部の一番。
では、ここからはボーカル担当の河モンから宜しく! 」
「河モンこと河本が説明しまーす!
俺らが一年ん時は、二部は化粧バリバリにやってビジュアル系で曲は勿論 BEATLES。 一部はバラードを混ぜた大人しい系ね。まぁyesterdayとかその辺ので二部は盛り上がり系をやった訳。
二年ん時はさー 事前にさ、自分の好きな言葉とかを集めてさ もちろん先生からもね。 みんなから1フレーズづつくらい貰って繋げるんだ
一年生わかる?」
「あんまりわかんないっす 」
「だよなー。
えっと タカ、弾いてくれよ。」 隆がギターを手に前に立つ
「校長先生のフレーズは < 雨にもマケズ、、風にも、、、 > ジャン!
んで生徒のが <煙草をふかす 、、> ジャジャーン!
家庭科の先生が <味噌汁の匂いが 、、> ジャラジャラ!!隆のギターが合いの手になり部室に響く
後、<ヘド吐きそうな退屈な日々>や 数学の先生は<サイン コサイン、、>
まあー こんな感じでフレーズを集めた 。先生達と生徒のフレーズの温度差がこの歌の面白みなんだ。
で、おいら達が繋げて作曲をするって感じだ。」
「はい!質問~~なんかぁ~~生徒の言葉が荒っぽいんですけど~真面目な言葉もあったはずでーす。」
「・・・もちろんありましたが、ROCKには向かないので却下しました。」おどけて河本は言った
「ではでは、タカ行くぜ!」
2人は目で合図してジャッジャ・・得意のリフで
[雨にも風にも負けない場所で
俺らは煙草をふかすんだ
初心忘れず サイン コサイン タンジェント
ヘドが出そうな毎日でも
俺らは教科書開いてる
俺達みんな サイン コサイン タンジェント
鉛の体を引きづって 実験室で馬鹿やって 爆発寸前大目玉
学校なんて ららららら
味噌汁飲んで バスに乗る
可愛いいあの子に会うために
やればやる時やりましょう
バ行バ行らららら ]ジャラジャラジャラ 、、、ジャジャーン「OK!!」
みたいな? 感じだ
「まだ覚えてる すごくねぇ?俺ら!」 河本は隆に親指を立てた。
河本と隆は親友だった
「いいっすね!それ!
今年もそれにしましょうょ 」考えるのが面倒な1年がそう答えた
「やらない。」
「同じものはやらねぇ。」 2人が一年に揃って言った
「軽音部の名が廃る!
少し笑いを取ってからガンガン系で締めたんだっけな。 」
「だけど今回は時間もある 」と隆。
「逆にプレッシャーじゃね?
それに、、練習時間あんまりねぇよな。
まだまだ先とは言え 俺らはりっちゃんと違って追試組なんだぜいつも。しかも三年だろ?ちょい厳しいよな、、 隆もいつもやべぇんだろ。
俺は母さんに毎日怒られてんだよなー ・・・」
「俺とこもだよ、成績下がったら音楽なんて止めてしまいなさい!!って。 」ドラム担当の下野が言った
「あたしんちも 」「同じくー。」
三年メンバーほとんどが口々に答える
隆は言う
「最後なんだぜ。俺らの文化祭に 親、関係あんのか?甘い事言ってんじゃねえよ。やる気あんのか?」
河本が隆の言い方の生意気さに反応したのだ
「おい隆、言いすぎだぜ。実際問題、俺ら毎日一生懸命取り組んでるだろ。好きだから頑張ってんだよ。
だけどこの学校に入った理由ってなんなんだ?中学から頑張って勉強して、競争率高いこの憧れの高校に入ったんだ。それに、俺ら一人で大きくなった訳じゃないだろ。もちろん今が青春ってやつだしさ。
けど3年なんだ。1、2年時みたく行かないのが現実なんじゃないの?それを非難するような言い方は良くないぜ」
「じゃ、今すぐ止めろよ。どんな時も中途半端はどうなんだって話だ。おかーさんが?怒るから?
おめえら、まだかあちゃんのおっぱい吸ってんじゃねえのか。てめえの人生じゃねえのか!」
互いにヒートアップする
他のメンバーも加担する
「あのさ~先生って呼ばれる親を持った人はやっぱ違うんじゃね?どんな事も許されて。お金で解決する術を持ってる。俺たちも金で解決してみたら?」 「下野・・言い過ぎ。」河本が下を向きながらボソっと言う
「おい、お前もう一回言ってみろ!表でろ!!」隆はギターを荒っぽく置くと下野の首元を掴んだ
「もう、止めなさいよ。」黙ってじっと見ていた律子が冷静に止めに入る
「なんでそうなるかなー。隆も河本も下野もみんな出てって。この教室から。今すぐね。部長命令よ」
「はぁ~やってらんねえ~」と下野がさっさと教室を出る
「りっちゃん、また隆の味方?」
「はぁ?何言ってんの?誰の味方でもないわよ」律子は自分が纏められない事に悔しくて涙目になっていた
ベースの女子もキーボードの男子も、ドラムもみんな帰り支度をし部室を後にした
隆は再びギターを掻き鳴らす
今し方、言い合いをしたこの騒がしい教室での出来事がなかったかのように・・・。
「律子、文化祭は9月でまだ先だ。進路指導習慣は活動出来ねぇけど 俺はやるさ。
・・・練習時間が僅かでもなんとか成功させられる方法を考えよう。セトリを2人で案だして、河本に相談しよう。メロディ特集もいいかな。繋ぎはダサくないものを俺と河本で責任持って考えるよ。
お前一人で抱え込まなくていいよ。」
「隆・・ありがと。今日はなんか優しいんだね」
「は?優しかねえよ。ウサギみたいな赤い目したってちっとも可愛かねえしお前。ウォンバットって感じだぜ?」
「隆~~~!!!!」
オレンジの光がカーテン越しに柔らかく2人を包む
「帰ろうか」
「うん。」
その様子を廊下で聞いていた河本は足音に気を使うように下駄箱の方へと向かった