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言い出せなかった事

次の朝、いつもより早めに病院に行くタカヒロ


面会時間は11時からだったがモヤモヤとした自身でも分からない気持ちが、気付けば一本早めのバスに乗っていた。ガラガラの席ながらタカヒロは冷たいパイプに掴まりながら立っていた。家から病院まではバスで30分の距離。その間中タカヒロは右手はパイプに掴まり左手はポケットの中に入れたあの写真。

写真の角を人差し指の腹で幾度も確認しながら車窓から流れる景色をただ、ボーっと見ていた。


________________



「おはよ、、。」


「おぅ。 タカヒロおはよう」


どんなに機嫌が悪くとも二人は挨拶だけは交わす

タカヒロが小さい時から隆に厳しく躾られて来た事だった




「これ。」ギターが入ったケースを背中から降ろしベッドの脇に立てかけた。

コンビニの袋に入れられた小さな紙箱は少しふて腐れた表情で


「はい・・・」 左腕を伸ばし 隆に取れとばかりに差し出す

心の荒れが小さなビニール袋を揺らす



「ありがとな。 で、どしたんだ そのふて腐れた態度は?おぅ? 」



「別に・・・。」



「別に!って事ねぇだろ。」


「ピック見たけど、 どれもボロボロだし・・ 使えそうなのはないみたいだし・・・。」


そんな事はどうでも良かった。

・・・が自分の態度には嘘をつけず、理由を作りたかっただけなのだ


「あー箱の中、全部引っくり返して見たけど、どれもボロボロだった。」

「そうか。」

「・・・・」


隆は写真の事など忘れているようだった。


隆は袋からピックの入った紙箱を出し蓋を開ける


「懐かしいな~」 にこやかに笑いそう呟く


一枚を手に取り出し 笑い出す


「どしたんだよ急に。 何がおかしいの?」声を上げ笑い出す隆にタカヒロは冷めた口調で尋ねる


「なんでピックがこんなに欠けてるか分かるか?」

口を尖がらせたまま目だけで隆の方を見るタカヒロ


「タカヒロ、 おめぇが小さい頃  来る度にこの箱を開けてたんだ。

色やデザインが一枚、一枚違うだろ?  小さい子にしたら珍しく思えたんだろ?。」



「あんまり・・覚えてないよ。」  今時ではない、くだらない玩具に驚いた事と、幼い頃に引っ掛かった少しの記憶。今はそんな事は話したくないタカヒロだった


「このピックをさー。ステレオの硝子の隙間に一枚一枚挟んで、なんの遊びだか色事に分けてみたり、形事に分けてみたりな、サムピックなんかは全部の指にはめて怪獣の真似事をしてたんだぞ


可愛いい遊びと思って放っておいたんだ。だが後でギターを弾こうと思ったらこの有様だ。 使いもんにならねぇ。

何度注意してもダメだった。

でな おもちゃ屋でなびっくり箱を買ってな、 仕掛けておいたんだ

臆病者のお前は叫ぶように泣いたぜ 。ギャーってな。


だけど 子供でも学習能力はある 一度っきりしか引っ掛からなかった 」



ぷっと吹き出してしまうタカヒロ 。

怒っているだろう自分自身とは違うところで無邪気な子供の頃の自分の事をしっかりと記憶に留めておいてくれている祖父の事を愛しい気持ちで聞いている自分。



「俺はよ、 紙箱からおもちゃを引きちぎってピックの入った木箱にそれを仕掛けたんだ。面白かったぜ!」


「なにやってたんだよじいちゃんー。」


タカヒロは先程までの自分を隠したくなった。



「毎回 、毎回入れ替えるんだ。だからなだんだん自分でも分からなくなってよ、

俺も引っ掛かったんだ。 ピューーーーン飛んで来てな、一人で声を上げたぜ!あれ、びっくりすんな。」


タカヒロはもう我慢出来ずに腹を抱えて笑い出した



「自分で仕掛けたのに?ハハハ!!」


「正直、そんな事は 今この箱を開けるまで忘れてたがな。

・・・ありがとよ。


で 、なんかあったのか?」


「え、?何も入ってなかったからさ、、 」タカヒロは悪い事をしたように思えた。

自分のズボンのポケットに入っているものを触りながら、ドキドキしてそう答えた


「違げぇーよ。 タカヒロお前様子が変だっただろ? 」



「あ、いや・・ううん。 なんでもないさ  疲れてただけだ。寝不足だよ、ただの。」

どうしよう、出せないやこの写真。きっかけを自分で無くしてるよな。


パンドラの箱の底には・・希望・・

このピックが入れられた紙箱が本当のパンドラの箱なんじゃないかとタカヒロは思った。

隆の「・・・ありがとよ」の言葉に少しだけ先が見えた。

そんな気がしたのだった。


「じいちゃん、午後から、またりっちゃんとテラスで話ししてくるよ。」

「熱いねぇ~羨ましいねぇ~ りっちゃんに宜しくな。あー黒髪の方が似合うって伝言しておいてくれ」


「失礼なそんな事言えないよ。」何言ってんだか・・

タカヒロは写真の事で頭がいっぱいになっていた。


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