優しい目<隆の瞳>
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隆の病室_________
「タカヒロ、この前の雑誌見してくんねえか? 」
「珍しいねーじいちゃん。」
「なんだか退屈すぎてな。ただそれだけだ、、、退屈なだけだぞ。」
「いいよ!無理しなくて!」 少しだけ、からかうように言いながらタカヒロはリュックから雑誌を出す
「無理なんてしてねぇ。退屈なだけだって言ってんだろうが!」
「はいはい。あっ、だけど唾つけてめくらないでよ。折り目も止めてね!それから栞はそのままにしててよ。」
タカは口うるさく祖父の隆に言った
「りっちゃんと二人の本なんだから。」
「りっちゃん?誰なんだ?聞いた事ねえな。」珍しく機嫌のいい隆にタカヒロは初めて律子との事を口にした
「そりゃそうさ、この病院で知り合ったんだー。」
タカヒロは嬉しそうに話す
「お前、こんなとこで女を口説いたのか? で、もうやっちまったか? 」
「じいちゃん、いつもそうなるね 」タカはいつもの言い草に半ば、呆れ気味で切り返す
「そんなんじゃないさ。
りっちゃんとは話しが合う。それになんだか話しをしてると落ち着くっていうか ・・・」
タカヒロは初めて律子と会った日の事を時折、端折りながら隆に話してみた
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「 へぇ 本を二人でなー 。なんだか、かわいい事してんじゃねえか~
で、どんな風貌なんだ?やっぱ女はいい女じゃなきゃな。 」
「じいちゃん あのね、そんなんじゃないって 。」
「教えてくれよ!タ・カ・ヒ・ロ君!」隆はタカヒロの首に手を回し
「教えないとこうするぞ!!お前はココが弱いんだもんな~~」隆はタカヒロの脇腹を擽り始めた
「や、止めてくれよ!もう子供じゃないんだよ、く、くすぐったいよ!」
「おめえはまだまだ子供なんだよー」
2人は久しぶりにじゃれ合った
「綺麗な人だよっ!色が白くて彫りが深くて !」
「ほう、じゃ、目ん玉は青の異人さんで赤い靴履いてたりするのか?ハハハ 」
「ーーだね。そう金髪だっ 。」
タカヒロは初めて律子をみた中庭テラスでの光景を思い出していた
太陽に照らされ髪の毛が金色に輝く律子の姿を
「そうだ、 目の下のほくろが印象的でさ。 」
隆は頭の中で想像を膨らませた
孫のタカヒロは我が孫ながらアイドル並の容姿でいつもいつも家の前には女の子が訪ねてきたりと
自慢の孫でもあった
その孫が病院の売店で逆に声をかけられたのだ
誰がおばあさんと想像するだろうか。
隆は思い出した
何日も前に検査の帰りに金髪の派手な娘とぶつかった事を。
しかも、その手にはタカヒロと同じ本があった
たった二つの点が単純に線で繋がったのだ
「タカヒロ あれはよくねぇ・・よくねぇぞ、遊ばれるだけだ。
黒髪の女にしておけ。」
タカヒロは何を根拠に?とおかしくなった
「じ、じいちゃん 会った事ないだろ?<外見だけで人を判断しちゃいけねぇ>っていつも僕に言ってきたじゃん 」
「言ってきたじゃん! じゃねーよ。 人にぶつかっといてあんな態度とる小生意気な娘はよぅ、、」
隆は小声でぶつぶつ言う
「でね、りっちゃんはすっごいんだ。 ギターもやってたらしいよ。 」
「ギターを? そうか!ギターをなー。ほぅー・・」
その一言で隆は勘違いしたままの金髪の若い娘に少しだけ興味を持った
そして、何十年ぶりかに音楽雑誌を開いて見るのだ。
表紙には実物そのものに近い色鮮やかなギターの写真
そっと写真の弦を指でなぞってみた。愛しいモノを見る優しい目をしていた。
その一瞬の、優しい眼差しをタカヒロは傍で見ていた