鮮やかな苔
昨日はごめんなさいね。 それに私ばかり話しをしていたわ。
「そんな事ないさ!りっちゃんの話は楽しいんだ。だけど不思議だね。一昨日売店で会ってさ、昨日いろいろ話しをして。ずっと前から知り合いだったみたいだ。」
「そう言って貰えると嬉しいわ。よくあるじゃない?昼ドラマの設定でね、本屋さんに行って、同じ本棚から偶然に同じ本に手が行って触れ合って、そこから二人は、、なんてね!だけど相手がおばあさんだったからがっかりね?」
「昼ドラか~僕はその時間学校ですー。見たことないですー。ハハ!昨日のリベンジですー。」
「あら、嫌ぁね~タカは学生さんだったわね。タカと話をしていると不思議ね。自分が何歳かも忘れているし、タカの年齢さえも。ごめんなさいね~ 不思議繋がりと言う事で・・よろしく!?」
「りっちゃん、やっぱ若いよ!全然おばあさんに見えないよ。話ししてると同級生のような気分になる。音楽の話しも普通に出来るしね。なんか学生時代から時が止まっちゃってるみたいな?」
時が止まるか…律子はタカの呼び名を聞いた時から胸の奥が少しだけ騒がしくなっていた事に気が付いていた
「タカはどうしてTHE BEATLESをやっているの?
きっかけはなんだったの?タカは若いしなんだか珍しく思えたのよ 」
いいや、違う、律子は確かめたかったのだ。どうしても繋がってしまうのだ。タカと言う名前を耳にした時から律子は何かを感じていた。<タカ>と[タカ]・・・・
「うん、じいちゃんの事 昨日話したじゃん?
じいちゃんの家さ、レコードがすっごい沢山あって 最初どうやって聴くんだろうって思ったよ。やたら馬鹿でかいしさー
ステレオ!あれいいよね!音にノイズみたいなんが聞こえるんだけどそれがいいんだよね。
当時の音楽事情が手に取れるような感じとライブ感?違うな、レコーディング風景?みたいな、なんかさ!僕らの時代は音ってすっごい鮮明じゃん?ストレートな感じがいいのかもしれないけど、古き良き時代の雰囲気、好きだなあ。りっちゃんとその時代に行ってみたいよ!
あ、話しが逸れちゃた。
でね、
じいちゃんの部屋に入ってったらエレキやアコギが何本かあってさ、レコードはガンガン系がやたらあったんだ。
The Who,とかJeff Beckとかほんとすごい枚数のレコードだよ。
でね どれも無造作に置かれてんのに THE BEATLESだけ飾ってんの。 なんか特等席みたいな場所に。そら目を引くじゃん?中学になった頃だったか じいちゃんに これ聴いていいか?って尋ねたんだ
そしたら、じいちゃん どしたと思う?
奥から白い手袋を持ってきて丁寧にジャケットを扱うんだ。びっくりしたよ!
よほど大切なものだったんだね。
「・・・そうなの」
律子は胸のざわつき、フラッシュバックしてたもの、あの目眩に似たやっかいなもの全ての
、感覚の正体が形となって見える気がした
タカに聞いて見たいことがある。
いや、聞いたところでどうなる。確信に変わったとこでどうなる。もし、そうだとして?
もう私はおばあさんだ。もちろん[タカ]もそうだ。思い出は鮮やかなまま、しまう方がいいではないか・・
脳の奥の方でずっとへばり付いていた綺麗な緑の苔。形を崩さずに剥がせるというのか?
あの頃のままの私、あの頃のままの[タカ]な訳ないのだ
律子は葛藤の中でもがく
「それで・・・ アルバムのタイトルはなんだったの?」 お願い・・<Hey Jude>って言わないで。
複雑な気持ちが律子の心いっぱいになる
「Hey Judeだよ。」
律子はもう倒れそうだった。もうその先は言わなくていいのよ。
体中の水分が瞳に行き渡るまで そう時間はかからない事を 律子は察した。
タカは続ける
「でね、レコードジャケットのHey Judeのとこに赤い丸印が付いてあったんだ。じいちゃんが気に入ってるのかなーって思ってその曲を一番意識して聴いていたら 大好きになったんだ。しかも7分もあるんだよね!」
「そうだったの・・」律子は小さい手で顔を覆う
「りっちゃん、、どうしたの?大丈夫?気分悪い?ごめんね。ごめんね。」
タカは焦って律子の顔を覗き込んだ