スカルの涙
病室に戻った隆はゆっくりとベッドに寝転がり、丸めたレントゲンファイルからレントゲンを出す
寝転びながら両手を伸ばし天井の蛍光灯の光りにレントゲンを透かすようにまじまじと見つめる。
「これが今の俺自身だ。色もなんもねぇ ただの骸骨じいさんだ。笑えるよな…」
風が強く、桜の花びらが雪の様に
病室の窓の外をどんどんと流れてゆく
「…そんな季節になったんだな。もう暖かくなったんだろうかなー…」
人と接する事を好まない隆は外の庭も中階にある中テラスの庭にも出た事がない。
空気を吸うのはこの部屋の病室からだけである
次々と退院し、他の患者も居なくなってから この部屋の窓さえも開けなくなっていた
ぼんやりと窓の方を向きながら流れる桜の花びらを見つめていると遠い過去の事が蘇ってきた。
毎晩、自分の部屋でギターを掻き鳴らし
…輝いていた若き日のあの頃の自分を。
近所迷惑も省みずアンプに繋ぎガンガンと音を鳴らし好きな事だけをしてた頃、
ギターを弾いては左手で楽譜に書き入れ作曲をしたあの頃、
そして忘れたくても忘れる事の出来ないままの
女の事を…。
それは長年連れ添った妻ではない。心の奥にしまい込んだ…女の事を。
不思議と自分の家族と旅行をした事や、食卓を囲んだ思い出などは隆にとってはどうでも良かった。少年時代の心を捨てきれずに流れのまま夫となり父となった。それなりに<家族>という時間も楽しんだ。
、、、仕事の合間に、そして父親としての自分。
自分自身の狭間で音楽に触れた時に感じた。これは家族ごっこに過ぎないのではないのか?と。自問自答を毎日繰り返しながら部屋に閉じこもる日々。
すれ違いの中で限界に達してしまった妻。<分かっている、分かっている。>自分が全て悪かった事も。いや、過去形では片付けられる事でもなく、、何十年過ぎた今、ふと思い出すのは、、そういう事だ。
無意識に隆は目を閉じながら
想像で現した腹の上にあるギターで、リフをやってみる
ジャッ、ジャッ、ジャー
ジャッ ジャッ ジャジャー …
Deep Purpleの<SMOKE ON THE WATER>が頭を流れていた。
《ソリッドかつワイルドレンジな鳴りを表現出来るのは俺の愛するこのGIBSONだけなんだぜ!》
《それはさー9thコードで味付けして・・・
------これだとさ、Tハイポジのアクセスが簡単に出来てよー・・・ 》
毎日の休み時間。そして家に帰れば電話で、仲間と話す事は全て音楽の事だった。
それは隆が結婚した後も 変わる事がなかった。
花が散り流れゆく儚さとこのベッドの上の自分を悲しくも重ね合わせた。
・・・リフの真似事をしながら。




