第4話:枯れた聖樹と、真の聖女の「お掃除」
帝国の皇宮に到着したリリアーナを待っていたのは、豪華な出迎え……ではなく、
重苦しい静寂だった。
「……リリアーナ、見てくれ。これが我が帝国の心臓だ」
ジークハルトが指し示したのは、中庭にそびえ立つ巨大な『聖なる大樹』。
だが、その葉は一枚もなく、幹はひび割れ、不気味な紫色の霧を吐き出していた。
「この樹は帝国の魔力の源だが、数年前から枯れ始めた。私の呪いも、
この樹の汚染と連動していたのだ。学者は皆、もう寿命だと言うが……」
ジークハルトの横顔には、国を背負う王としての悲痛な色が浮かんでいた。
しかし、リリアーナは目を丸くして、その大樹にトコトコと駆け寄る。
「寿命? いえいえ、ただの『重度の肩こり』ですよ。この子、
ずっと重い荷物を持たされて疲れているだけです」
「……聖樹が、肩こり?」
周囲に控えていたエリート魔導師たちが「何を馬鹿な」と失笑する。
だが、リリアーナには見えていた。
大樹の根元に、行き場を失った「古い魔力のカス」が、
ヘドロのようにこびりついているのが。
リリアーナはスカートの裾が汚れるのも構わず地面に膝をつくと、
大樹の根に優しく触れた。
「大丈夫だよ。今、マッサージしてあげるからね」
彼女が指先から、ほんの少しだけ「処方箋(魔力の循環)」を流し込む。
すると、どうだろう。
ひび割れた幹から眩いばかりの緑の光が溢れ出し、
一瞬で枝々に青々とした若葉が芽吹いたのだ。
紫色の霧は爽やかな風へと変わり、宮殿全体を清浄な空気が包み込む。
「なっ……聖樹が、再生した……!?」
「数百年、誰も触れることすらできなかった浄化を、あんな一瞬で……!」
驚愕する周囲をよそに、リリアーナは大樹の幹をポンポンと叩いて立ち上がった。
「はい、おしまい! これで後輩の精霊たちも動きやすくなるはずです」
その瞬間、聖樹の枝が意志を持っているかのようにしなり、
リリアーナを抱きしめるように優しく包み込んだ。
帝国最高の守護神が、彼女を「主」として認めた証だった。
ジークハルトは震える手でリリアーナの肩を抱き寄せ、
その額に誓いの口づけを落とす。
「……リリアーナ。君はもはや、恩人などという言葉では足りない。君こそが、
この帝国の……真の救世主だ」
一方、リリアーナを失った王国では。
「処方箋」を失った反動で、王都に「魔獣の群れ」が押し寄せていた。
「どういうことだ! なぜ結界が機能しない! シェリル、お前の祈りはどうした!」
「ひいっ、無理よ! 精霊たちが、私を見るなり岩を投げてくるのよ!」
エリオット王子は、逃げ惑う民衆を前に立ち尽くす。
かつてリリアーナが「ゴミ」として処理していた国の淀みが、
今や巨大な怪物となって彼らを飲み込もうとしていた。
「……そうだ、リリアーナだ! あの女を、何としても、
どんな手を使ってでも連れ戻せ!」
それが自分たちの首を絞める、最後の一手になるとも知らずに。




