第3話:皇帝陛下の「お持ち帰り」はあまりに強引すぎる
「さあ、乗れ。我が帝国の至宝となる女性を、
これ以上雨に濡らすわけにはいかない」
ジークハルト陛下に促され、用意されたのは馬車――。
というより、移動する宮殿だった。
漆黒のボディに金の装飾、中にはふかふかのソファと、
見たこともない豪華な食事が並んでいる。
「あの、陛下……。私はただの追放者なのですが、
こんなに良くしていただいてはバチが当たります」
「バチだと? 私の呪いを消し去った者に、
これ以上の礼ができるか不安なほどだ。まずはそれを食べろ。
君は痩せすぎだ」
ジークハルトは、甲斐甲斐しくリリアーナの皿へと、
肉料理や果物を盛り付けていく。
その目は、まるでお気に入りの小動物を愛でるかのように熱い。
(……なんだか、思っていた「冷徹な皇帝」と違うような?)
戸惑いながらも、リリアーナは一口料理を口にする。
「美味しい……! でも、このお肉……少し『喉がイガイガ』していますね」
「何? 毒か!?」
ジークハルトが顔色を変えるが、リリアーナは慌てて首を振った。
「いえ、毒じゃなくて。このお肉の元になった牛さん、
喉の精霊に嫌われていたみたいで。ちょっと失礼しますね」
リリアーナが手近にあったハーブティーに指先でちょんと触れ、
その雫を料理に数滴垂らす。
すると、料理からキラキラとした光が溢れ出し、香りが数段跳ね上がった。
「……っ!? なんだ、この旨味は。宮廷料理人の味を超えているぞ」
「素材が持っていた『精霊の詰まり』を取っただけですよ。はい、陛下もどうぞ」
リリアーナに「あーん」の要領で差し出され、ジークハルトは一瞬固まった後、
耳まで赤くしてそれを食べた。
その瞬間、彼の魔力がさらに澄み渡り、心地よい多幸感が体を包み込む。
「君は……。料理まで『処方』してしまうのか」
「え? 普通じゃないんですか?」
「普通なものか。……ますます、誰にも渡したくなくなった」
ジークハルトの視線が、保護欲から独占欲へと変わっていく。
一方、リリアーナを捨てた王国では。
エリオット王子とシェリルが、深刻な顔で立ち尽くしていた。
「報告します! 王都周辺の農作物が一晩で全滅! さらに、
王立騎士団の剣がすべて錆びつき、使い物にならなくなりました!」
「なっ、なんだと!? シェリル、お前の光魔法でなんとかしろ!」
「やってるわよ! でも、なぜか私の魔法、精霊たちに無視されるの……っ!
むしろ、魔法を使おうとすると精霊に噛まれるのよ!」
シェリルの手は、精霊に拒絶された反動で赤く腫れ上がっていた。
彼らはまだ気づいていない。
リリアーナが「処方箋」を書いて精霊をなだめていたからこそ、
この国の平和が保たれていたということに。
「おい、あの女……リリアーナを連れ戻せ。
あの女に『処方箋』とやらを書かせれば、この異変も収まるはずだ!」
エリオット王子の身勝手な命令が下る。
しかし、その時すでにリリアーナは、
帝国の結界の中――、最強の皇帝の腕の中にいた。




