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森の魔女見習いは、光の少年に恋をした  作者: 國村城太郎
第二章 逃避行の灯と、迫りくる影

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第8話 薄氷の逃避行と、帝国の執念

 温もりは、いつだって薄氷の上にあった。

 二人がそう気づくより先に、帝国の罠だけが静かに動き出していた。



 ——

 追っ手の攪乱の為に東よりの進路を選んでいた二人だが、これ以上は遠回りになりすぎるということで、南に進路を変える。

 

 宿屋での温かい交流は二人の間に人との関わりの大切さを教えてくれていた。


 そしてトキが隣にいる、その事が、ナナの心を穏やかにしていた。

 

 トキの横顔をみて、ふと、昨夜の『唇と頬の距離』が胸によみがえった。

 ——顔が急に熱を持ち、あわてて前を向いた。

 胸の奥で、あの時の鼓動だけがまだ続いている気がした。


 

「いつかまたあの街にいきたいな」

 

「リサンナさんのスープ、最高だったね。おちついたら、教わったこと、試してみたいな」

 

「ナナさんのつくったスープもきっと美味しいですね」

 

 そんな会話をしつつ、旅を続けた。

 

 森のあった地域から離れるほど、緑は減り乾燥した土地が増えてくる。

 

 それでも、少ない緑と水場があれば人は集いそこに集落ができている。ナナたちは不要な危険を避ける為、人のいない街道から外れた道なき道を南に向かった。

 

 

 

 乾いた風が、二人を撫でていき、少しずつ見晴らしの良くなる景色は、追手の姿を見つけ易くすると共に、自分たちの姿を追手に晒け出すようにも思えた。


 鞍上のナナは遠くの丘陵に見える風車の廻るのを眺めている。


「早く湖に行かなきゃ」


 そうポツリとこぼす。

 

「二人で一緒に、行きましょう」

 

 旅の中で少しずつ強い気持ちを見せるようになったトキを、一瞬頼もしい……とそう感じた。そして慌てて、私が守るんだから、とそう思い直して、自分のさっきの考えを否定する。

 

 そんな事を考えてクルクル表情を変えるナナを、トキは不思議そうに眺めていた。 


 —— 幕間 ——


 その頃、二人からほど近い荒地に二人の旅人が居た。やけに姿勢が良く、訓練されたものの動きをしている。

 彼らは帝国の偵察兵であった。

 

 周りを見回しながら、若い男が、手にもった何かを必死に気にしている。

 

 そのうち、風のない荒れ地に、手にもつ石が淡く光った。

 

 おどろいた若い男は、思わず隣の先輩をみて、話かける。

 

「感知石が、しばらく光りました。この近くにいる事は間違いないんですが」

 

 そして、年配の男に石のようなものを見せる。

 

「ふむ、とにかくどちらかに、走ってまた光ればよし、光らなかったら引き返すしかないな」

 

 年配の男はそういうと、駆鳥(かけどり)の手綱をしごいた。

 

 しばらく進んで、石が何の反応もないと、とまって、首を振った。


「だめだ、外れか……だが、この近くに魔力持ちが居たことは間違いない。上に連絡せねばな、とりあえず近くの手紙が送れる街に移動しよう、上に報告をせねばならぬ」

 

 そう言って、ナナ達の居る方角と反対にある街へと移動していき、辛くも発見されずに二人の旅路は、薄氷の上を進んでいたのであった。


 ——

 身を隠せる藪を発見し、ナナ達はそこで今夜の野営の準備をしていた。

 

「急いで火をおこして調理だけ済ませよう、さすがに温かいものを食べないと身体がもたないから。見つかる危険を冒してでも、食べないとね」

 

「火起こしは、僕に任せてください。ナナさんは料理の準備をしててください」

 

 そういうと、トキはもう慣れたように焚き火に火をおこす。

 

 もう、守られてばかりじゃない、自主的に、することが増えて、幼い少年から、頼もしい、青年へと成長の兆しをみせている。

 そんなトキの様子が、頼もしく、誇らしく、そして、また私が助けたいのに……とそんな気持ちも一緒に心の中に表れては消えていった。

 

 急いで食事の準備を整え、慌ただしく火を消す。そして、温かくなった食事を身を寄せ合いながら、食べていた。


「ナナさんの料理はやっぱり美味しいですね」

 

「料理というほどの事は何も出来てないよ、ただあぶっただけさ。大湖について、姉弟子の結界に入れたら、リサンナさん直伝のスープ、つくってあげるよ」

 

 そんな話をしながら、二人は肩を寄せ合って、風をしのぎ、同じ寝袋で寝る。

 

 この温もりをずっと守りたい。ナナはそうこころに誓っていた。

 

 いまこうしている事自体が、師の話した助け合うという事なのだと、ナナは少しずつ理解するようになっていった。

 

 —— 幕間 ——

 

 またその頃、帝国辺境基地、大佐のところに新しく赴任した副官が部下からの連絡を伝える為、上官のもとに近づいていく。

 既に歳を重ねた現場叩き上げのベテラン仕官である。

 

「報告します。偵察部隊より入電、エルシアの北方地域にて、感知石の点灯あり、ただし目標は発見できず。との事であります」

 

「ふむ、やつらの目的はエルシアだろうな、噂に聞く湖の魔女。水の中にあるという魔女の結界、さすがの空船もあの大湖の水を干上がらせる事は簡単ではないだろうな」

 

 そう話した後は、部屋の中を考えを纏めるべくうろうろと歩きまわった。

 

「湖の結界に逃げられてしまうと面倒になる。たどり着く前になんとしても捕らえねばならん」


 その声には、大佐の執念が籠もっていた。 

「よし、近隣の基地にも連絡して集められるだけの感知石を集めよ」

 

 それは空船など魔道兵器の接近を知る為の貴重なもの。集めろなどと無茶を言う上司に、新任の副官は赴任したことを早くも後悔していた。

 

「連絡はいたしますが、なかなか難しいかと思われます。前線の基地には必要な物資ですので」

 

「ここに皇帝陛下の直々の命令書がある、この写しを送れ。」

 

「はい、書簡、お預かりします。」

 

 副官の返答を聞いて、更に大佐は話をつづける。

 

「感知石を持たせた兵を街道沿いに配備せよ。

 どこかで光れば、そこが奴らの通った証。見つけた者には狼煙をあげさせろ。光が連なるほど、やつらは逃げ道を失う――見ておれ、帝都で惰眠を貪るやつらめ」

 

「すぐに捕まえませんので?」

 

「狼煙を見れば奴らはそこから離れるように移動して、また次の感知石を光らせるはずだ」

 

「なるほど」

 

「狼煙をあげた部隊は、次に狼煙があがったのが見えたらそちらへ移動せよ。後は、追跡船も近づけさせて、位置を特定するのだ」

 

「しかし特定しましても、前回は魔女に空船を落とされております。どうやって対抗するのでありますか?」

 

「皇帝陛下にお願いして、『魔法蔦』をとりよせた。発掘品として最近見つかったものだ。」

 

「はてさて、それはどんなものでしょうか?浅学の身にも説明していただけましょうか?」


 副官は首をかしげながら問いかける。

 

「研究者によると魔力のあるものに絡みつき、魔力を吸い上げる性質があるとの事だ。まさに魔女の天敵だな」

 

「そ、そんなものが」

 

「やつらを追い詰めたら、これを打ち込むのだ。一つしかない大切な下賜品だ。失敗は許されんぞ」

 

 そうして大佐は、用事は終わったとばかりに、副官から視線を外した。

 

「作戦了解いたしました。参謀と具体的な指令方法など作成いたします。退席してよろしいでしょうか?」

 

「よし、至急準備を整えよ」

 

 部屋を退席した副官は、控え室で一旦息を整えて、各部署への指示を書いた手紙を部下とまとめていく。

 

「優秀なお方だが、しかし勅命状とは、一体どうやって……」

 

 そう呟く副官は、大佐の姉が、後宮に居る事に思い当たる。


「上昇志向の強過ぎる上役か、お貴族様の相手は疲れる……中央の権力争いなんぞに巻き込まれても碌なことにならん」

 

 そう庶民の出の副官は溢すのであった。



 —— 

 また朝がくる。ナナとトキは、もう慣れた仕草で出発の準備を始める。

 

 朝の風は日々冷たさを増し、準備する手をこすり合わせる事も増えてきた。

 

「大湖まであと三日ってところかな」

 

 そうナナはトキに話しかける。

 

「ついたら美味しいお魚が食べたいですね」

 

「湖の魚はどんなのかな、腕によりをかけて美味しいの作るから、楽しみにしておいてね」


 そんな話をしながら、また旅立つ二人。足もとで割れそうな薄氷を踏みながらも、互いの温もりを信じて――。

 

 まだ――気配はない。だが、それは嵐の前の静けさだった。

 しかし大佐の執念が脚元を絡めとろうとしていることに、未だ気付いてはいなかった。


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